特別著者インタビュー
高野秀行


Hideyuki Takano Interview


空前絶後のビッグプロジェクト『メモリークエスト』。
1年間で26通もの依頼をいただいたのですが、
そのひとつひとつが印象的でした。
「小学生の頃に母と二人で爆笑した本を探してください」
「ペルーで忘れたセーターを見つけてほしい!」
「マハラジャの息子だと言っていた留学生とまた会いたい!!」
などなど、毛色の異なる以来が続々と……。
書籍版『メモリークエスト』では、
高野さんが5つの依頼をクエストしに行っているのですが、
実際に行ってみるまでは想像もしていなかった
困難や喜びがたくさんあったようです。
任務を遂行した(!?)高野さん、今は何を思う???


−−メモリークエスト、本当にお疲れさまでした! いきなりですけど、高野さんが提唱されている”エンタメノンフィクション”(以下、エンタメノンフ)って、一体どういうものなんでしょうか?


簡単に言うと、とにもかくにも「面白い物語」であることを第一義としたノンフィクションです。小説の賞で言うなら「芥川賞」ではなく「直木賞」といったところでしょうか。

−−なるほど、ノンフィクション界の直木賞なんですね。『メモリークエスト』も、もちろん”エンタメノンフ”なわけですが、どういうきっかけでこんな壮大なプロジェクトを思いついたのでしょうか?

そもそも私は「謎」とか「未知」とか「幻」といったものに滅法弱いんです(笑)。どうしてもその真実を追究したくなるんですね。つまり、探したくなる。これまでは自分が興味をもったことを追いかけてきて、それはもちろん満足しているのですが、今度は自分の興味や想像力すら超えたものを探したいと思ったんです。他人の記憶の中にはもっと途方もないモノがあるんじゃないかと期待しました。それと、昔から「国際探偵」みたいなものに憧れがあり(笑)、その夢を叶えたかったということもありますね。

−−そういう意味では、メモリークエストへの依頼は、謎や未知という要素に満ちあふれていましたよね。今回は全部で26通の依頼がありましたが、そのことに対してはどう思われます?

もちろん感謝ですよ(笑)。本音を言うと、全部探したいくらいでした。初回としては十分満足です。まぁ、第二回「メモリークエスト」では、もっと依頼が増えてほしいですけどね。

−−「こんな依頼が来てほしい!」みたいな願望ってあるんですか?

もっとすごい辺境に行くような依頼がほしいですねぇ(笑)。アフリカとかアマゾンとかニューギニアの奥地とか。それこそ、泥まみれになって行くようなやつ。それから、今回は面白かった依頼がもっぱら「人」に集中したので、「モノ」に関する依頼が質量ともに充実していくと楽しいでしょうね。

−−確かに「人」を対象にした依頼が多かったですよね。でも、人を探すって、大変だと思うのですが、出発直前の成田空港ではどんなことを思っていたのですか? とりあえずタイに行くことを決めてはいたものの、その後の予定ってあんまり決まってなかったような……(笑)。

一言でいえば「真っ白になった感じ」です(苦笑)。だって、旅程が何も決まっていないんだから……。タイまでのチケットを買いはしたものの、そのあとどこに行くか自分でも全くわからない(笑)。アジアかアフリカか南米か、それすらわからない。あと、一件の依頼につき、どのくらい日数がかかるのかも不明だし、何件探せるのかもわからない。まさに、「白紙」ですよ。でもね、その不安と恍惚感は未だ経験したことのないものだったので、興奮してはいました。

−−「白紙」状態で興奮できるのが高野さんなんでしょうね。結果として、今回は5つの依頼をクエストしたわけですが、一番苦労したのって、どんな点なんでしょう?

テンションが上がりすぎてしまったことかな(笑)。興奮のあまり、毎晩3〜4時間しかか眠れなかったし、「早く次の目的地に行かなきゃ!」と気ばかり焦ってましたね。逆に、手がかりがないときなどは「あー、もうダメだ」と簡単に絶望してしまって。おかげで後半は脳みそが半分溶けてましたよ(笑)。

−−確かにクエスト真っ最中の高野さんは、いつにも増してハイテンションでしたね(笑)。

そうなんですよ(笑)。自分でも制御できなくて。最後のクエストの「ユーゴのBob」なんて、かなりシリアスな依頼だったので、「これを見つけなければ日本に帰れない」というプレッシャーがありました。そういう意味では、一番印象的だったかもしれないですね。旧ユーゴという地域も自分には未知の土地だったし。

−−「ユーゴのBob」は、高野さんからの連絡を待つばかりの編集部も気を揉みました(笑)。なので、神懸かりとも言えるあの展開が未だに信じられないような気もしていて……(笑)。今回のプロジェクトでは、他にも不思議な偶然がいくつも重なったりしたわけですが、「他人の記憶を旅する」ということは高野さんにとって、どういうことだったのでしょうか?

クエストを行っているうちに、他人の記憶がどんどん自分の中で立ち上がってくる不思議な感覚に捉えられました。進むごとにパズルのピースがカチッ、カチッとはまっていくんですよ。見たこともない風景が見えてくるというか。そのカタルシスといったらなかったですね。一方で、自分の意思で動いているのは半分くらいで、あとの半分は他人に動かされているようでした。人の夢の中を駆け回っているような。何かにとり憑かれているみたいな感じだったんですよ。巫女とかイタコに近い状態だったのかもしれません。

−−「人の夢の中を駆け回っているような」というのは素敵ですね。最後に、読者へのメッセージをお願いします!

「世界にはこんなに面白い物語があるんだ」と思っていただけると嬉しいです。もちろん、ただ「おかしくて笑ってしまった」というのでもかまいません。笑うということはいちばんその物語に感情移入できる瞬間ですから。読み終わったときに、出発前の私と同じように、心が「白紙」になってもらえるといいですね。





『メモリークエスト』
1470円(本体価格1400円)



高野秀行プロフィール

1966年東京都生まれ。早稲田大学探検部在籍中に執筆した「幻獣ムベンベを追え」でデビュー。タイ王国チェンマイ大学日本語講師を経て、作家となる。『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で第一回酒飲み書店員大賞を受賞。他の著書に『アジア新聞屋台村』『アヘン王国潜入記』(共に集英社文庫)、『辺境の旅はゾウにかぎる』(本の雑誌社)などがある。

高野秀行オフィシャルサイト
http://www.aisa.ne.jp/takano/