石黒由紀子 犬猫姉弟 センパイとコウハイ

「ま、また猫……?」センパイの顔にはそう書いてある。冬のある日、我が家に2匹の猫が来た。オットの母と暮らしているボンボン(♂)とジュリ(♀)。コウハイがやってきて1年が過ぎた頃のことだった。
 実はこの2匹、義母の元で暮らす22歳の超高齢兄妹。数ヶ月前から妹のジュリが風邪をこじらせ肺炎になり「あと数日」と余命も宣告されたが、奇跡的に生きていてくれた。
 義母は、70歳を過ぎた今も現役で働いている。忙しさと体力的なことから「ジュリを思うように看病できない」とSOS。急遽、我が家で預かることになったのだった。ボンボンとジュリ、そして、センパイとコウハイ。我が家は一気に2人と4匹の大家族になった。
 
 ジュリは重篤な状態なので、環境の変化を気にする余裕はないようだったが、ボンボンは「ったく、なんだ! ここはどこだ! なんでこんなところに連れてきたんだよ! ふん! ふん!」ふて腐れて悪態つき放題。でもまぁ、気持ちもわかるので「ごめんごめん、ボンちゃん。これ、食べる〜?」などとネコ用チーズを差し出し、私も弱含みで仕える。「ふん! なんだこりゃ! うまいじゃないか! まったく、ふん!」怒りながら喜ぶボンボン。竹中直人みたいだ。

 新入り老猫たちと先住犬猫。2日間ほど別の部屋に隔離していたが、すっとそのままにしておくわけにもいかず4匹顔を合わせることにした。ボンボンは、最初が肝心とばかりにシャーシャー威嚇。でもセンパイとコウハイは、いばりん坊のボンボンよりもジュリの殺気だった闘病の姿に度肝を抜かれた。そして「だたごとでない」ことを理解。「なな、なんか苦しそうだよ」「でも、このおばあさんを助けてあげなくちゃ!」と、戸惑いつつも受け入れた。

 ジュリは、近所の獣医に連れて行ったものの「年齢、体力的なことも考えて、心身の負担になる治療はせず、なるべく苦痛のないように見守りましょう」ということになった。その日から私はジュリのしもべにもなり、寒くないようにあれこれと寝床を整え、流動食を作り口元まで運ぶ。

 そんな光景を遠巻きに見つめる2つの影……。そうなのでした、センパイとコウハイは、どうにもおもしろくない。「あのおばあさんが大変そうなのは知ってるの。でも……」センパイがそう言えば、「ねえたんの気持ちはよーくわかるニャ。ぼくはあのじいさん、気に入らニャいよ」とコウハイ。気がつくと、センコウは身を寄せ合ってどんより。

 あれれれ……! でもセンパイとコウハイ、ボンジュリが来て前より仲良くなってない? なにかあるとコウハイはすぐにセンパイにほうれんそう(報告、連絡、相談)。ぼやき漫才よろしく、息もあってきた……。思い返せば、同じベッドに入って寝るようになったのもこの頃から。作戦会議か、よく2匹で話し合うようになり、「ねえたん、あのじいさんが……」と、コウハイはボンボンのことをセンパイに言いつけ、ボンボンにモノ申すコウハイをセンパイがたしなめ、その場を収めるたり。

 そこで2匹が落ち着いているときを見計らい、じっくり話し合う。
「センちゃん、コウちゃん。突然、猫のおじいさんとおばあさんが現れてびっくりしたよね。私もびっくりしたよ。でもさ、いろいろ事情があるのよ。だからさ、我慢してください。ボンジュリがいつまでいるかわからいけど、少しずつ慣れていこう。今はジュリちゃんをみんなで看病して、一日でも長くおだやかに暮らしてもらうのが一番大事。ね、よろしくお願いします」

「うん、わかったニャ! おばあさんを応援するニャ!」こんなとき素直に聞いてくれるのはコウハイ。いらずらっぽい目をクルクルさせて、私の足元で無邪気にじゃれる。センパイは深いため息をついた。私の目を見ようとしない。これは「納得してませんから」の意思表示。でも、どうにもならないことも理解していて「嫌だけど協力はします……」としぶしぶ同意してくれた(と思う)。

 ジュリはほぼ眠っていたが、ときには日なたに出てみたり、センパイやコウハイがお見舞いするのを満更でもなさそうにしている。ボンボンだけは我が道を行っていたが、センコウと私は、ジュリを看病するチームとして団結した。
 前途多難……。しかし、このままなんとかこのメンバーでうまく暮らしていかないとね。ジュリに安心して過ごしてもらうためにも……。つづく。

石黒由紀子 犬猫姉弟 センパイとコウハイ

「ここ、どこだよ?」ボンボン、我が家をじーっと観察中
「ここ、どこだよ?」
ボンボン、我が家をじーっと観察中

気丈で気高いジュリ。生きることをあきめない。
気丈で気高いジュリ。
生きることをあきめない。

「なな、なんですか?」ボンボンにガン見されるセンパイ
「なな、なんですか?」
ボンボンにガン見されるセンパイ

「だいたい最近の若いモンは……」ボンボン、コウハイにお説教?
「だいたい最近の若いモンは……」
ボンボン、コウハイにお説教?

センコウはジュリの近くに。「あのおばあちゃん、だいじょうぶかニャ〜」
センコウはジュリの近くに。
「あのおばあちゃん、だいじょうぶかニャ〜」

あれまー! センコウ同じベッドに。心細かったのかな。
あれまー! センコウ同じベッドに。
心細かったのかな。

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犬猫姉弟 センパイとコウハイ

石黒由紀子

犬顔犬性格のエッセイスト。ゆるり系エッセイやリコメンドを「CREA」ほか女性誌、愛犬誌、WEBなどで。好きなものは、犬、猫、雑貨、街歩き、音楽、絵本。著書に『GOOD DOG BOOK~ゆるゆる犬暮らし』『なにせ好きなモノですから』『さんぽ、しあわせ。~東京ゆるゆる街歩き』『GOOD DOG GOODS!』『カップル・ストーリーズ』など。

単行本『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』発売中!

突然の 老猫2匹に 一致団結|石黒由紀子 犬猫姉弟 センパイとコウハイ
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