石黒由紀子 犬猫姉弟 センパイとコウハイ

「センパイちゃんは、うちの犬の妹ではないでしょうか?」というファックスが新聞社に届いた。2011年の秋、朝日新聞の人気連載『家族の肖像』にオットとセンパイが出た直後の出来事。担当してくれた記者も「こんなことははじめてです」と驚いた。

 センパイは3匹(オス2、メス1)で生まれてきた。私がセンパイと出会ったのは、2005年の秋。当時、伊豆にあったドックフォレストという施設でのこと。
「生後2週間の豆柴がいますよ」と促され、「わぁ、会いたいです!」と軽い気持ちで答えた。
 バックヤードから連れてこられたのは、2匹の豆柴兄妹(オスの1匹は母犬の元に残されることが決まっていた)。むっくむくの子犬、どちらもまだ手のひらサイズ。

「あわわわ〜!」抱かせてもらうと、その愛らしさで全身がこそばゆくなり、一瞬で心射抜かれた。2匹のどちらかを選ぶなんて酷な話だったが、メスのほうがひとまわり小さくて「マンション住まいには向いているかも」と、メスを引き取ることに決めたのだった。あのときにいたオス豆ちゃんの飼い主さんとなった方が、偶然、記事を読んでファックスをくださったのだ。

 ドッグフォレストには「生後3ヶ月は母犬から子犬を引き離さない」という理念があった。それは「母子犬共に過ごす中で、犬社会について自然に学び、甘えることで情緒が安定する」から。だから、センパイはうちに来るまで、お兄ちゃん犬と暮らしていたのだ。毛糸玉がころころと転がるように、いつも後をついて歩いていたらしい。
 寝る時も一緒に寝ていたが、それぞれの引き取り宅へ行く日が近づいてからは、1匹ずつで眠る練習をした。しかし、センパイはお兄ちゃんと離れたことが心細くて寂しくて体調を壊したりもした。
 あれから6年。センパイ、お兄ちゃんのこと覚えてる? お兄ちゃんが大好きだったのだから、センパイもきっと会いたいよね。いやいや、もう忘れちゃっているかなぁ……。

 ファックスには「私の家にはオスの豆柴がいます。センパイちゃんと同じ年齢、生まれた月も一緒。出会ったのも同じ、伊豆にあったドッグフォレストでした」と書いてある。そして「センパイちゃんは、我が家の愛犬•麻呂にそっくりです!」とも。
「そっくりなのかぁ」「センパイにそっくりのオスがいるんだねぇ。麻呂くんっていう名前なんだね」
 オットと私は何度もそう言って、甘くときめいた。「センパイと同胎の犬がいる」そのことがこんなにもうれしいだなんて、自分でもびっくりだった。

 その後、新聞社から教えてもらい先方に連絡してみると、やはり麻呂くんとセンパイは兄妹だという確信が持てた。メールにはこうあった。
「あの日、新聞を読んでいた主人が、写真を見て“あ、麻呂だ!"と叫んだのです。それくらいセンパイちゃんと麻呂は似ています」
 そうか、そうなのか。そんなに似ているんだなぁ。想像しただけでもたまらない。会いたいなぁ。会ってみたいなぁ!

 連絡を取り合ううちに、意外と近いところにお住まいとわかり「近くのカフェでランチでもしませんか」と申し出ると、お兄ちゃん犬•麻呂くんのご家族もとても喜んでくださった。いよいよ会える。

 ある晴れた土曜日、予約していたカフェにオットと私、センパイで入っていくと、「まぁ!」なんとも神々しい柴犬が1匹。「麻呂くん?」「そうです! センパイちゃんですね。お会いしたかったです!」と、私たち飼い主は、犬の気持ちになって会話した。
 麻呂くんは、ご主人と奥さまの2人と1匹暮らし。ときどき離れて暮らすご子息の家族が遊びに来るそうだ。みんなにかわいがられていることは麻呂くんを見ればわかる。愛されているという安心感が明るくておだやなオーラとなり、落ち着いている。おっとり優しいジェントルワンだ。
 柴犬にしてはまあるい目、マズルは長いけど横幅がある輪郭……、麻呂くんとセンパイは本当にそっくり。「ちょっとぼんやりしている」「犬より人が好き」「さんぽより昼寝が好き」「食いしん坊」性格的な共通点もいっぱい。柴犬なのに精悍さはあまりなく、おっとりした雰囲気はそのまま同じ。

 当の犬たちは、「ん?」「んんん?」、何やら知ってるような〜、でも全然知らないような〜という感じ。しかし、初対面の犬となかなか仲良くできないセンパイなのに、麻呂くんには興味があるようで「ねえ、遊ぶ?」「遊ぼ!」と誘ってみたり。「私のお兄ちゃん!」とわかってはいないと思うけど、でも何か、他の犬とは違う親しい感情を持ったように見えた。
 じゃれあったりはしないけど、お互いに興味はあって、離れていてもチラッ、チラッと横目で見たりして、一緒にいられることがれしそう。

 年齢も暮らす環境も違うのに、麻呂くんの飼い主さんとも近しい感じ。不思議なもので初対面な感じもせずに、すぐに打ち解けた。犬の話に盛り上がり、すっかり親戚のような気分。犬たちも、そんな私たちの雰囲気を感じとったのか、テーブルの下でリラックス。心温まる楽しいランチとなった。犬の親戚できました。

石黒由紀子 犬猫姉弟 センパイとコウハイ

センパイ生後4ヶ月。我が家に来た頃
センパイ生後4ヶ月。
我が家に来た頃

背中のあざは、お兄ちゃんとじゃれあっていたときの噛み痕
背中のあざは、お兄ちゃんと
じゃれあっていたときの噛み痕

「クンクン、この子知ってるような〜?」赤いコートを着ているのがセンパイ
「クンクン、この子知ってるような〜?」
赤いコートを着ているのがセンパイ

麻呂くん。センパイよりひとまわり大きい。
麻呂くん。
センパイよりひとまわり大きい。

バウポーズで「遊ぼ!」と誘うセンパイ
バウポーズで「遊ぼ!」と誘うセンパイ

わーい、連結しましたー! 後ろがセンパイ
わーい、連結しましたー!
後ろがセンパイ

横顔も似てますね。右*麻呂くん 左*センパイ
横顔も似てますね。
右*麻呂くん 左*センパイ

オレ、今回出番なかったし……。
オレ、今回出番なかったし……。

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犬猫姉弟 センパイとコウハイ

石黒由紀子

犬顔犬性格のエッセイスト。ゆるり系エッセイやリコメンドを「CREA」ほか女性誌、愛犬誌、WEBなどで。好きなものは、犬、猫、雑貨、街歩き、音楽、絵本。著書に『GOOD DOG BOOK~ゆるゆる犬暮らし』『なにせ好きなモノですから』『さんぽ、しあわせ。~東京ゆるゆる街歩き』『GOOD DOG GOODS!』『カップル・ストーリーズ』など。

単行本『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』発売中!

覚えてる? 久しぶりだね お兄ちゃん|石黒由紀子 犬猫姉弟 センパイとコウハイ
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