石黒由紀子 犬猫姉弟 センパイとコウハイ

 センパイの散歩は朝夕毎日2回。朝はオットが担当し、夕方は私が行く。よほどのことがない限りセンパイは乗り気ではなく「あ。行く……、の?」と、まるで付き合いで付いてきているかのようだ。「ちょっとー、誰の散歩よ?」という気分にならないでもないが、運動不足気味のセンパイには歩いてほしいので「散歩行こう〜! 今日は誰に会えるかな〜!」と気分を盛り上げながら連れ出す。 
 センパイが散歩に行きそうな気配を察知すると、コウハイは玄関で「あ〜、行くんだにゃ〜」とお見送り。「別に一緒に行きたいわけでもにゃいが、センパイが出かけるのがちょっと寂しい」といったところか。センパイは、コウハイをチラッと見て、その一瞬だけ「あたち、ゆっちゃん(筆者のこと)とお出かけしてくるの!」と優越感オーラを醸し出す。

 センパイの散歩のとき、神社を通る。小さいけれど参拝する人も多く、地元に愛されている神社だ。その境内にいつの頃からか猫が姿を現すようになった。ある日、散歩途中にお参りに行くと、近くまでやってきて「にゃ〜!」と声をかけてきた。「あらら、にゃんこちゃん、どこからきたの?」そう話しかけてみるが、猫は何も答えずセンパイのことが気になる様子。
 近くを歩いているおばあさんに尋ねたら「ここ(神社)に住んでいるみたいよ。そうねぇ、見かけるようになって1年は経つわよ。寂しいんじゃないかしら、この子、前はカラスと遊んでいたわよ」。おとなしそうだけど「野良猫は用心深いから触らせてくれないかな」そう思いながらも恐る恐る手を伸ばしたら、背中を差し出しまんざらでもなさそうにしている。おぉ、大丈夫そう。そーっと触ってみると、嬉しそうだ。やっぱり寂しいのかな。
 しかし、野良とは思えない肉付きをしている。毛並みも悪くない。どうやら、ごはんをくれる人がいるようだ。

 それからというもの、センパイと私(オットのときも)が神社の前を通ると猫は「にゃ〜!」と呼びかけてくるようになった。ある時は、後ろから追いかけるように小走りで「待てにゃ〜!」。またあるときは、神社の前の塀の上から「待ってたにゃ〜!」。
 どこからともなく現れては、センパイに近づき、ゴロンとなって、おなかを見せる。私が撫でてやるとくねくね身体を動かし喉をゴロゴロをならす。散歩中に会う犬友だちに聞いてみると、この猫には食べ物を運んできてくれるパトロンが数人いるらしい。毎朝、散歩途中に立ち寄り、決まった場所にキャットフードを置いて行ってくれるおじさん、夕方、仕事帰りにカリカリを手から食べさせてくれるおねえさん。ほか、私たちみたいに犬の散歩途中に、声をかけたり撫でたりしてかわいがる人々……。こういう猫のことは「野良猫」ではなくて「地域猫」というのだろうか。

「にゃー!」と呼び止め、「ねぇねぇ、ちょっと遊んでよー」と神社に誘う地域猫。「ねえねぇ、これからどこ行くのー?」としばらく後ろを付いてくることもある。こんなに打ち解けられるとは思ってもみなかった。センパイもこの猫の境遇を知っているのか、それなりに我慢強く付き合っている。 
 酷暑が続いたときは「あの猫はどうしているのかなぁ」と考え、豪雨の時は神社の境内でひとり雨宿りをしている姿を思い浮かべる。いっそのこと我が家の猫にしてしまおうか……。でも、私たち以外にもあの猫をかわいがっている人たちがいるしなぁ……。かわがっている人たちの中でリーダーを決めるというのはどうだろう……。せめてつかまえて不妊手術だけでもしたいものだけど……。私の気持ちも揺れる。

 散歩中、歩きながらセンパイに聞いてみた「ねぇ、センパイ。うちに猫がもう1匹増えたらどうする?」 私の声にセンパイは目もくれず「そそそんなこと……! 多くは語らぬが察してくだされ」( センパイの心の声、私の中でなぜか武士っぽく変換されました)。うーむ、うちの猫に迎えるのはやっぱり無理かなぁ。コウハイとはどうだろう。

 センパイは、神社の猫に付き合ってひとしきり遊び「ふぅ、猫の相手も楽じゃないわ〜ん」と思いつつ、家に帰ってみたら、今度はコウハイが待ち構えていて「ねえたん、おかえりにゃ〜! どこ行ってきた〜」と飛びつかれ、匂いをかがれては「ん? ねえたん、あやしいニオイがするにゃ〜」と探られている。
 猫に好かれるのもつらいね、センパイ!

石黒由紀子 犬猫姉弟 センパイとコウハイ

出会ったばかりの頃。塀にかくれて待ち伏せにゃんこ
出会ったばかりの頃。
塀にかくれて待ち伏せにゃんこ

にゃんこの熱烈アピールにセンパイどん引き……
にゃんこの熱烈アピールにセンパイどん引き……

「ねえさん お待ちしてました!」 にゃんこ、おなかを出してごあいさつ
「ねえさん お待ちしてました!」
にゃんこ、おなかを出してごあいさつ

「この子、いつもくねくねしてるよねー」センパイ、対応に困る
「この子、いつもくねくねしてるよねー」
センパイ、対応に困る

ときには並走して一緒にお散歩
ときには並走して一緒にお散歩

「ねえさん、あたしはいつでもねえさんを待ってるんですよ…」
「ねえさん、あたしはいつでも
ねえさんを待ってるんですよ…」

「ねえたん、誰に会ってきたのにゃ?」 コウハイ尋問中
「ねえたん、誰に会ってきたのにゃ?」
コウハイ尋問中

「ねえたん、誰に会ってるのかにゃぁ?」気になるコウハイ
「ねえたん、誰に会ってるのかにゃぁ?」
気になるコウハイ

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犬猫姉弟 センパイとコウハイ

石黒由紀子

犬顔犬性格のエッセイスト。ゆるり系エッセイやリコメンドを「CREA」ほか女性誌、愛犬誌、WEBなどで。好きなものは、犬、猫、雑貨、街歩き、音楽、絵本。著書に『GOOD DOG BOOK~ゆるゆる犬暮らし』『なにせ好きなモノですから』『さんぽ、しあわせ。~東京ゆるゆる街歩き』『GOOD DOG GOODS!』『カップル・ストーリーズ』など。

単行本『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』発売中!

犬なのに 猫にモテるの なぜかちら?|石黒由紀子 犬猫姉弟 センパイとコウハイ
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