蒲原二郎『祟りのゆかりちゃん』特設サイト
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蒲原二郎(かんばら・じろう)

1977年静岡県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大学卒業後、海外を放浪する。帰国後、議員秘書となり、政治家を志すも挫折。現在は悩める兼業僧侶である。2010年3月、第10回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した『オカルトゼネコン富田林組』で作家デビュー。期待の大型新人として各方面から注目を浴びる。その他の著書に『オカルトゼネコン火の島』『ゴールデン・ボーイ』がある。

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ゆとり世代とあなどるなかれ。
『祟りのゆかりちゃん』の主人公・本間由加里は、
健気で頑張り屋さんで、どんな状況でもへこたれません!
刊行を記念して、著者の蒲原二郎さんに
ゆかりちゃん誕生秘話を聞いてきました。

「自分が知っている世界」と「自分が知らない世界」を繋げていく過程は、やはり楽しくもありました。

Q: 今回の小説はお寺が舞台です。しかも女の子が主人公です。こういう作品を書こうと思ったのはいつだったのですか?

A: 実は最初は法律事務所の話を書こうと思っていたんですよ。六本木にお寺があることは知っていたので、そこを舞台に「けやき坂駆け込み寺」というタイトルで離婚問題を中心に扱う法律事務所を作ってしまおう、と(笑)。でも、ちょうどその頃、そういうテレビ番組が始まってしまったので、「あ、これは変えなきゃ」と思って。さてどうしよう、なんて思っていた頃に「ゆとり世代」の女の子と知り合う機会を得まして。それが『祟りのゆかりちゃん』に繋がっていったんです。

Q: だいぶ話が飛んだような気がしますが……(笑)?

A: いやいや、繋がるんです。「ゆとり世代」って、ちょっとマイナスのイメージで語られることが多いじゃないですか。でも、実際にその世代の人たちと会うと、話がすごい面白いんですよ。あと、真面目で一生懸命な印象も受けたんです。接する機会が多くある世代ではなかっただけに、しかもさっきも言ったようにマイナスのイメージを持たれがちなだけに、「この世代の子を主人公に据えたら面白い物語が書けるかもしれない」って直感的に思ったんです。

Q: 初めの構想のお寺の部分だけは残したわけですね。

A: やっぱり「法律事務所」だとあの世代の良さを生かしきれないかなぁ、と思いまして。一方で編集者から「巨悪と戦ってください」とも言われていたので(笑)、これはもう、「ゆとり世代が巨悪と戦う話を書くしかないぞ」と。執筆に至る経緯はそういう感じなんです。

Q: 「ゆとり世代が巨悪と戦う話を書いてください」とお願いしたとしても、普通、その依頼が『祟りのゆかりちゃん』に結実することはないと思うんですよね。それこそが蒲原さんのオリジナリティなのではないか、と。やっぱり構成を考えるのは苦労されましたか?

A: しましたねぇ。まず「巨悪ってなんだ?」という根本的な問題。加えて、その巨悪とゆとり世代が戦うという構造的な問題。さらには、女の子を主人公に据えるという性別的な問題。楽しく読んでいただけるように工夫したつもりではいますが、書いている最中はやっぱり大変でした。

Q: 問題山積みだったわけですね。女性を主人公にしたのはなぜですか?

A: 今まで男性が主人公の物語を書いていたので、今回は新たなチャレンジをしてみたかったんです。でも、これがまた大変でした。書き始める前は、なんとなく「できるかな」と思っていたんですけど、実際にやってみたら、やっぱり色々な問題が生じてくるんですね。

Q: 例えば?

A: 書いた部分を女性に読んでもらって「どこかおかしいところはありますかね」と聞くと、どんどん出てくるんです。自分では意外に思うような指摘が次々と。「女性はこういう発想はしない」とか「女性はもっと瞬間的に反応する」とか。自分が男なんで、初めの原稿はやっぱりちょっと理屈っぽかったんですね。そこの部分を直さないと、ゆかりちゃんに対して共感してもらうことはできないので、改稿していくわけですけど、この作業はとんでもなく苦労しました。結果として、3回書きなおすことになりました。

Q: 修正の中心はやはり主人公のゆかりちゃんですか?

A: そうですね。ゆかりちゃんにリアリティがあることが、この作品の生命線だという認識はあったので。読者の方に共感してもらうには、どういう思考をして、どういう言葉を使って、どういう行動をするのがいいだろう、というのは常に考えていました。でも、それをクリアするだけじゃリアリティは生まれないんです。男からするとどうしてもわからない部分もあるじゃないですか。化粧の仕方とか。「ゆかりちゃんらしいメイク方法とは、一体なんだ?」みたいなことを延々と考えたりしましたよ。女性誌に書いてあることをちょっと書いてみたら、「こんな面倒なこと普通はやらないよ」と言われたり(笑)。周りの女性に聞きまくりましたね。今までの作品の中では一番「主人公を書くこと」に時間とエネルギーを費やしました。

Q: 蒲原さんは僧侶でもあるから、舞台となる「お寺」のことは書けるわけですもんね。

A: そうですね。そこまで未知の領域だったら辛かったかもしれませんね。「自分が知っている世界」と「自分が知らない世界」を繋げていく過程は、やはり楽しくもありました。かと言って、仏教的な思想や知識を織り込もうというつもりは全くなかったんですけど(笑)。

Q: あ、それはなかったんですね?

A: 舞台がお寺なのでどうしてもそういう要素が入ってくるとは思っていましたけど、ことさらそれをフィーチャーしようとは思っていなかったです。舞台が主役ではなく、あくまでも人間が主役の小説を書きたかったので。

Q: それが小説の王道ですもんね。それにしても、今作では「これでもか!」というくらいに魅力的な人物が出てきますね。

A: 「こういう奴がいたら面白いな」と思う人間を徹底的にキャラ立ちさせようという考えが自分の中にはあるのかもしれません。ある種の願望なのかな(笑)。ゆかりちゃん一人ではどうにもならない問題を解決する時に、手助けする人間が必要になるじゃないですか。そういう「物語が求めるキャラクター」と「自分が書きたいキャラクター」をどう合致させていくかという点は執筆前にあれこれ考えましたね。

Q: ゆかりちゃんに最も近しい登場人物が「幸田遊愍」なんですけど、敏腕ファンドマネージャーから住職に転身した変わり種です。しかも、圧倒的な美男子(笑)。彼のキャラクターはどうやって作り上げていったんですか。

A: 最近、『美坊主図鑑』っていう写真集が出たのって知ってます? ちょっと前からなんですけど、「イケメン坊主」が取り上げられる風潮を感じていたので、遊愍は美男子にしました。あと、僕がいっしょに修行に行ったお坊さんが、変わった経歴の持ち主だったんですよ。イタリア料理のシェフでソムリエの資格を持ってるんです。しかもかなりのイケメン。そういう人たちと実際に出会ってしまったので、自分の中では遊愍は「こういう坊さんがいてもおかしくないな」という感覚だったりするんです。お寺の業界って、結構変な人が多いんですよ(笑)。

Q: お寺って真面目な印象がありますけど(笑)。

A: もちろん真面目ですよ。でもやっぱり人の本音に触れる機会が多い職業でもあるんですよ。人間の複雑さに接することが多々あるというか。僕自身、お坊さんになって10年くらい経つので、そういう体験が蓄積されていて、作家として小説を書くときに役に立っている部分はあるのかもしれないですね。とはいえ、「これで大丈夫かな」って不安になることも多いので、編集者に原稿を読んでもらう時は緊張しますけどね。

Q: 「ここを直してください」とか言われたりしますもんね(苦笑)。

A: そうなんです! 編集者に初めて原稿を読んでもらった後に、第三章をまるまる書き直したんです。その章に登場するキムさんのキャラクターが生かしきれていなかったからなんですけど、そう言われたときは落ち込みましたね。その前の章で張っていた伏線も調整しなくてはいけなかったですし。今となっては直してよかったなと思いますけど。修正前の原稿だとキムさんが喋りすぎてしまっていて、謎めいた彼の存在感を際立たせることができていなかったんですよ。原稿を読んでもらった女性の意見にしても編集者の意見にしてもそうなんですけど、「第三者の意見」の重要性を強く感じた貴重な体験でした。

Q: やっぱりそれは重要なんですね?

A: 重要ですねぇ。自分ひとりだと見えてこない部分を指摘してくれるので。今までの僕はストーリーを考えることに重きを置いていたところがあったのですが、感情の部分を繋げていくことも考えなきゃいけないということを改めて学びました。特に女性の場合、「こんなのありえない」と思ってしまった時点で物語の世界から気持ちが離れてしまうと言われて。なので、一風変わったストーリーではあると思うんですけど、その中で懸命に生きているゆかりちゃんの感情に共感してもらえる作りにはなったのかなと思います。

Q: 破天荒なまでに面白い『祟りのゆかりちゃん』ですが、その裏側では色々と苦労されているのですね。逆に、「ここは書いていて楽しかった」というところはどこですか。

A: 後半ですね。ゆかりちゃんが「巨悪と戦う」場面。やっぱり巨悪は気持ちよく倒したいじゃないですか。このシーンを書いている時は、思う存分暴れられました。ゆかりちゃんの描き方に注意を払いつつですけど、「巨悪、倒す!」みたいな使命感に駆られましたね(笑)。

Q: 後半の盛り上がりは尋常じゃなかったですもんね! 一度読んだらクセになる蒲原作品。今後はどのような作品を考えていらっしゃるのですか。

A: せっかくお坊さんでもあるので、「お坊さん三部作」を考えています。次に書こうと思っている作品もお寺を舞台にしようと考えているんです。あと、これは先々の目標なのですけど、歴史小説を書いてみたいなと思っています。例えば「埴輪ラブ」とか「銅鐸殺人事件」とか(笑)。僕は、司馬遼太郎さんや吉村昭さんが好きだったんです、もともと。

Q: 歴史小説! 意外ですけど、そのタイトルを聞くと、これまた蒲原さんらしくも思えます(笑)。最後に読者へのメッセージをお願いします!

A: こんなご時世ですけど、自分が動き出すことで色々な縁が生まれると思うんです。ゆかりちゃんもトホホな状況に陥りながらも、彼女自身が動き出すことで手助けする人が現れる形にしたので、そういう彼女の姿を見て元気になっていただければなと思います。よろしくお願いいたします!

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