蒲原二郎『祟りのゆかりちゃん』特設サイト
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蒲原二郎(かんばら・じろう)

1977年静岡県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大学卒業後、海外を放浪する。帰国後、議員秘書となり、政治家を志すも挫折。現在は悩める兼業僧侶である。2010年3月、第10回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した『オカルトゼネコン富田林組』で作家デビュー。期待の大型新人として各方面から注目を浴びる。その他の著書に『オカルトゼネコン火の島』『ゴールデン・ボーイ』がある。

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『祟りのゆかりちゃん』と民主主義

金原瑞人氏

 スティーヴン・A・チンの『正義をもとめて』という本の冒頭に、アレックス・ヘイリーのこんな序文がついている。

 昔、こんなコメディがありました。魔法使いが魔法で高いマンションを建て、そこにたくさんの人が住んでいます。住んでいるのは現実の人間ですが、そのマンションは現実には存在しません。おかしいのは、だれかがその魔法を信じなくなると、建物がくずれはじめるのです。みんなが信じていれば、その建物はしっかり建っているのですが。

 なにがいいたいかというと、民主主義って、このマンションみたいなものなんだということ。だけど、この言葉はそのまま蒲原二郎の作品にもあてはまる。
 彼の作品を読むときのかけ声は、「立ち止まるな」「ふり向くな」「疑うな」の三拍子。つまり、この世界に飛びこめ!
 昨年書いた『ゴールデン・ボーイ』の書評は、次のようにしめくくった。

 とまあ、こんな紹介しかできないけど、一歩間違って、はまってしまえば、あとは怖くない。ひたすら、まっすぐに、迷うことなく、この世界に入っていくことができるはず。
 ぜひ、一歩、いや二歩も三歩も間違ってほしい。

 さて、「二歩も三歩も間違ってほしい」蒲原ワールド、今回の主人公は百五十回も入社試験に落ちた末、力道山常照寺にやとわれた、雑用係兼巫女さんの本間由加里。
 彼女が"邪心供養塔”を壊してしまったところから話が始まる。じつはこの塔、江戸時代に、月仲上人と恩仲上人の兄弟が神通力で人々の煩悩を吸収し、封じ込めたものだったのだ。その煩悩を解き放ってしまった者にはおそろしいたたりがある……らしい。それも「たたりを受けしものは生涯伴侶を見つけることあたわず。婚姻は勿論不可なり」!
 おそれおののく由加里の両腕には、それが嘘でない証拠に、おかめと般若の顔が浮かび上がっていた。そして夢の中で観音様から「解き放った煩悩と同じ数だけ」人を救えばよいといわれる……けど、煩悩の数って百八!?
 とか悩んでいるうちに、次々に依頼が。
・彼氏に「お前の胸に地平線が見える」といわれて、「なんとか私の胸を大きくしてください。うわーん」という女の子。
・富田林組(どこかで聞いたことあるなあ)という大手ゼネコンの社長の浮気の証拠がほしいという社長夫人。
・ブラジルからやってきて、寺の住職の祖父にひと目会いたいというおばあさん。
 そして最後は……。
 もちろん由加里ひとりでこんな難事件(?)を解決できるはずはない。助っ人はというと、
[1]三十三歳、身長百八十センチ、細マッチョの男性誌モデルにもなれそうないい男、由加里いわく「ずばりどまん中で私のタイプ」……だけど、女の子にだらしない寺の住職。
[2]まだ二十八歳ながら、アメリカにエンバーミングの研修に行き、小さな葬儀屋をたった六年で都内有数の葬儀社にした菊之助。
[3]五十歳〜六十歳くらいで、頭の形が「ジャガイモみたいにごつごつとしていて」「何匹けものを殺したかわからないくらいの立派な毛皮のコートを着ていて、なぜか手にはマトリョーシカ」という国籍不明、正体不明、意味不明のキムさん。
[4]一年ぶりに外国からもどってきた、梅干しそっくりのじいさんで、全国都道府県警に追い回されている霊力保持者シャーミン。
 など、「???」な連中ばかり。はたして由加里の運命やいかに。
 今回も一気に最後まで力まかせの痛快コメディ、「いつの時代も人間さえいれば必ずそこに喜怒哀楽のドラマがある。人々が入れ替わるから、そういった記憶もいつしか淡く消えていくだけ」という切なさもかすかに漂わせながら、ほかの作家にはとても作れない世界を堪能させてくれる。
 『週刊緊張』『東雲国際大学(ひがしうんこくさいだいがく)』『呪音』『センチュリータワー投球』『暗暗』『鬼帝ちゃん』『怒濤流』『鈍器法廷』などの言葉遊びも、いつものように、いや、いつも以上に楽しい。

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