加藤レイズナ『プリキュア シンドローム!〈プリキュア5〉の魂を生んだ25人』特設サイト
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『プリキュア シンドローム!〈
プリキュア5〉の魂を生んだ25人』特設サイト

加藤レイズナ(かとう・れいずな)

1987年9月11日生。フリーライター。「エキサイトレビュー」レギュラーライター&編集。Web幻冬舎「実況野郎Bチーム」でインタビューの面白さに目覚める。「プリキュアぴあ」(ぴあ)に参加。はじめての著書『プリキュア シンドローム!』絶賛発売中!。

Twitter: @kato_reizuna
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加藤レイズナ☓長嶋有 特別対談
「分厚い本にはロマンがつまっている」

サッカー選手がユニフォームを交換するみたいに、お互いの本を持つ二人。

サッカー選手がユニフォームを交換するみたいに、お互いの本を持つ二人。
思いが強すぎて本が分厚くなっちゃった者同士、通じるものがある様子。



パンドラの箱を開けたのかも

加藤レイズナ(かとう・れいずな)PROFILE

加藤レイズナ(かとう・れいずな)

長嶋 こないだはプリキュアについて話したね。

加藤 長嶋さんのミルク語りが面白かったです。

長嶋 ほんと許せないよ。プリキュア5のラストはミルクのせいで大変なこと に!あれ体育会系だったら大反省会ですよ。

アライ えっと、今日はお互いの本、『プリキュア シンドローム!』『長嶋有漫画化計画』(光文社)について話しましょうか。長嶋さんが「分厚い本はロマンだ」というテーマを挙げて下さいましたよね。

長嶋 そうだね。加藤くんに親近感をもったんだよ。

加藤 わあ、恐縮です。どんな親近感ですか?

長嶋 企画書に256ページ予定と書いたのに、592ページになったところ。『長嶋有漫画化計画』もさ、企画書を見返したら、8〜10人の漫画家さんにぼくの小説を漫画化してもらう予定って書いてあったの。

加藤 実際には……?

長嶋 結局、萩尾望都・衿沢世衣子カラスヤサトシ島田虎之介100%ORANGEよしもとよしともフジモトマサル陽気婢小玉ユキうめ島崎譲吉田戦車オカヤイヅミウラモトユウコ河井克夫の15人。

加藤 2倍近いですね。

長嶋 自分の思いなのに、当人さえ思いの帰結までの総量を推し量ることができない。同じだなあと。

アライ ふふふ。

長嶋 256ページと企画書に書いた人は誰なの?

アライ わたしです。

長嶋 加藤くんは、ページ数は考えなかった?

加藤 好きに書いていいと言われたので。最初の1章を書き終えた時点で、110ページありました。

長嶋 8章中の1章で(笑)

加藤 どうしましょうってアライさんに相談。「まあ大丈夫じゃないの」と。

長嶋 大丈夫って言ってる人も確証ないんでしょ?

アライ ないです(笑)。でも初めての本だから、まず全力を出し切ってもらおうと思いました。

加藤 取材対象も最初の提案では10人で、「プリキュアをつくった10人の男(仮)」みたいなタイトルでした。それからどんどん増えて25人。

長嶋 どうして増えたの?

加藤 最初はプリキュアシリーズ全体の話を聞こうとして10人でした。東映アニメの担当の方に「好きなものをやれ」と言われたので「じゃあそれならプリキュア5をやらせてください!」と。

長嶋 やれってインタビュー相手に言われるのおかしいよ(笑)。

加藤 「本当にやりたいのは5でしょ?」と向こうから。最初の企画書でバレてた(笑)

長嶋 面白いね。本としての体裁を整えようと、思い入れを隠したらバレて……

加藤 それで狙いを絞ったらインタビュー相手が増えて。

長嶋 企画書にプリキュア5のことだけたくさん書いてたの?

加藤 いえ。当時最新シリーズの『ハートキャッチプリキュア!』を扱わないと、まず企画が通らないと思っていたので、ハートキャッチのことをたくさん書いていました。でも、プロデューサーの鷲尾さんの話を聞きたいんだろうって見抜かれたみたいですね。

長嶋 鷲尾さんについて聞きたい人と、鷲尾さんについて語りたい人がいた。結論として、本放送から5年も経ってるアニメの本がこの量で出た。はー……(溜息)。パンドラの箱を開けたのかも。

加藤 そうかもしれません。

なんで592ページの分厚さになっちゃったのー?

なんで592ページの分厚さになっちゃったのー? どうして5年前のアニメ? 『プリキュア シンドローム!』が出たいきさつに興味津々。

俺の小説は漫画にしたらいいと思うんですよー

長嶋有(ながしま・ゆう)PROFILE

長嶋有(ながしま・ゆう)

長嶋 『長嶋有漫画化計画』はさ、ふつう、他人が企画すると思うんだよ。

加藤 そうですよね。

長嶋 加藤くんみたいな人がぼくに思い入れて「長嶋さんの小説は漫画にするといいと思うんっすよ!」「そういう話いくつも来てるんだ、帰れ!」というやり取りをするものだろうに。

加藤 あははは。

長嶋 「俺の小説は漫画にしたらいいと思うんですよー!」

加藤 はっはっはっは。長嶋さん面白い……もお……

長嶋 自分で漫画家さんを口説いてくときに、みんな初対面なのに溌剌とした顔してくれるわけ。いいグルーヴが生じてるなと思って、声をかけるのが止められなくなってきた。あの描かないよしもとよしともさんが引き受けてくれた時に、もうピークだって思ったの。そこでよせばいいのに「今のままだとちょっとサブカルすぎるなあ」。

アライ その判断はなんなんですか(笑)

長嶋 萩尾望都さんが対談したいと言ってきた。フラグか? 頼めって意味か? 依頼したらOKで「なら新人がいないとバランス取れないなあー」

アライ 編集者の発想ですよ。

長嶋 減らす方向には行かなかった。『プリキュア シンドローム!』もね、最初から長いものを書こうとしたのではなくて、文章の側が思いの強さで膨張してる。その感じがいいなって。

加藤 はい……(うれしそう)

並べたら双子みたい。ほら、分厚い! 同じ判型!

並べたら双子みたい。ほら、分厚い! 同じ判型! どちらも作り手の情熱でぱつんぱつん。

ドアをノックされるのを待ってる

長嶋 「鷲尾さんについてなら私も喋りたい!」「この人にも聞いてみたら」って流れはあったのかな。

加藤 ありました。

長嶋 声優さんが語ってくれるのは初期から決まってた?

加藤 いえ、ぜひやりたかったんですけど、できるかどうかがわからなかった。そう思っていたら、向こうから「声優さんたちの座談会はどうですか?」と言われました。それで「できるんですか。是非!」と。

長嶋 似てますね。漫画化計画第一回を衿沢世衣子さんと始めたときに、彼女が「よしともさんが最近長嶋さんの本を愛読してるって言ってましたよー」と。プリキュアの人達と同じか分からないけどさ、漫画家さんが、変な話とか面白い話を待ってるんじゃないか。現場で働いてる人も、ドアをノックされるのを待ってるんじゃないか。『プリキュア シンドローム!』が出たあとに「私は聞かれなかった」と言う人がけっこういたんじゃない?

加藤 !! そうなんですよ!

長嶋 この分厚さをもってしてもね。

加藤 声優さんも、座談会じゃなくて、ひとりひとり掘り下げて聞いて欲しかったって。

長嶋 みんな加藤くんに聞いて欲しいんだね。

加藤 いやーいやー(照れる)。

長嶋 DVDの副音声で、映画監督が語ることってあるじゃない。『ブレードランナー』のリドリー・スコットとかノリノリなの。「ここで折り鶴が置いてあるということは、もう……分かりますね?」みたいなのを、もう間断なく喋ってる。色んなものづくりの現場に、面白い言葉がたくさんあるはずなんだよ。

加藤 思います!

長嶋 ものをつくる人達の言葉を形にした、ひとつの成功例だよ。『プリキュア シンドローム!』は。

加藤 やったあ。

長嶋 ものづくりの当人は、語ることに対して無防備にしてるよね。ふつうに仕事してるだけって意識だから。

加藤 そうなんですよ〜。皆さん「こんな話でいいの?」ってよく仰るんですよ。こっちからしたらすっごい面白いよ! っていう。

長嶋 漫画家さんもね、1コマ1コマ漫然と描いてるわけはないって、そんなの分かってるつもりだったの。でも15人それぞれと話して、はっとさせられることがあった。「漫画は右から左に読んでくものだから、尻を右向きにしたほうが、読者も自然に目が動く」って、リドリー・スコットみたいな得意げな口調でなく(笑)、当たり前に言うわけ。いっこいっこの言葉が面白いんですよ。

加藤 コマごとに副音声がついてたらいいのに!

『長嶋有漫画化計画』

『長嶋有漫画化計画』
原作:長嶋有

漫画家:萩尾望都、衿沢世衣子、カラスヤサトシ、島田虎之介、100%ORANGE、よしもとよしとも、フジモトマサル、陽気婢、小玉ユキ、うめ、島崎譲、吉田戦車、オカヤイヅミ、ウラモトユウコ、河井克夫(光文社)

芥川賞作家であり、第1回大江健三郎賞も受賞した作家が、みずから自作のコミカライズをやろうと思いついた。原作・企画・漫画家の選択・交渉・打ち合わせ・編集・飲み会、ぜんぶ長嶋有さんが関わっている。しかも、解説まで! 作品の間には「長嶋有による作品ポイント解説」や「ふきだしコラム」が挿入されている。原作者が、漫画化してもらった作品のどこが魅力的か、漫画家はなにを考えてこのような表現にしたのか、熱心に解説しているのだ。読めば、一人一人の漫画家の良さが伝わるようになっている。もう、長嶋さん……どこまで親切なの。どれだけ漫画を愛しているの。漫画家、衿沢世衣子さんとのやり取りでは、‘最初のおおまかなプロットを読んだら、「こんなやりとりはどう?」と細部のアイデアがモリモリ浮かんで来て、気付けば僕も新たな文章を書いてみせていた。(中略)だからこれは真の意味での「合作」です’(p.91)とある。ひとつの作品が出来上がるまでの物語性に触れられて楽しい。これは僕流の「漫画ガイド」でもある’(p.429)と書いている通り、長嶋さんオススメの漫画家作品を一気に読めるところも魅力だ。全15人、幅広い漫画家の作品を楽しめるのだ。と、同時に、長嶋有さんがどんな人か伝わってくる。長嶋有さんの総合的魅力、人間力が生み出した、愛あふれるエンターテインメント作品集だ。


その火を飛び越して来い

長嶋 ものをつくる人は語らないほうが美しい、と考える人もいるかもしれない。だから分厚いパッケージの意味がある。いろいろ語ってますよと警告してくれている。

加藤 「知りたくないやつは手に取るな」と。

長嶋 買うときに覚悟する。分厚い本を読むのは、助走をつけて行くぞ、という特殊な経験という気がするな。出した側からしたら、読者が面倒に思いつつ、なおかつ来てくれたら嬉しい。

アライ 三島由紀夫の「潮騒」みたいに。「その火を飛び越して来い」

長嶋 そうそう。ぼくも加藤くんの本を頂いたときに火を飛び超した(笑)。プリキュア5を観なきゃと思ったの。

加藤 それで全49話を観るってすごいですよ!

長嶋 でもさあ、そういう本じゃん! みなぎらせるものがあったよ。ぼくもね、『長嶋有漫画化計画』を手にしたひとから、これは長嶋有の小説を読んで比較してみないとって思われたい。

加藤 はい。『長嶋有漫画化計画』を手にして、やっぱり漫画を先には読めないですね。元の小説を読んで、それが終わったら漫画を読んでの繰り返しでした。ほんっと面白かった。

長嶋 加藤くんも火を飛びこして来てくれたと。嬉しいなあ。

『プリキュア シンドローム!』加藤レイズナ(幻冬舎)

『プリキュア シンドローム!』
加藤レイズナ(幻冬舎)

鷲尾「自分ひとりでできることは少ないから、いろいろな人に協力してもらって味方になってもらったほうが、たくさん面白いことや大きいことができる」(p.143)プリキュアが好きで好きでしかたがない24歳の若者、加藤レイズナさんが、変身少女アニメ『Yes!プリキュア5』『Yes!プリキュア5GoGo!』の制作スタッフ25人にインタビューした本。プリキュアを知らないまま全592ページを読んだら、泣いた。プロデューサー鷲尾天さんの情熱に、みんなが巻き込まれて大きな渦になるさまがドラマティックだった。ものづくりの精神に触れた気がして、感動したのだ。『Yes!プリキュア5』を全話観たあとに再読したら、今度は物理的な細かいところが楽しくて仕方ない。12ページもあるカラーイラストや初期設定集をつぶさに読んでしまう。着想から企画、そして、キャラクター設定、おもちゃのデザイン、歌詞、声優などが決まって具体的になっていく過程に惹き付けられた。広告代理店ADKプロデューサーの「レモネードの決め台詞は『はじけるレモンの香り!』ってどうでしょう」にみんな大笑いして、それもありかもと決まった流れ。脚本の最終稿でのぞみの台詞を鷲尾さんが「うららちゃんといっぱい話せて、楽しかったよ。一緒にいて楽しかったんだから、もう友達だよ」から「こーんなにいっぱいしゃべって、いろーんな気持ちも知って、たーっくさん遊んだじゃない! 私たち、友だちだよ!」

に修正したこと(のぞみにぴったりの絶妙な変更だ)。加藤さんこんなことまで聞いたのかとびっくりするような、見事な詰めっぷりである。

そもそも、加藤さんも、編集者アライユキコさんに声をかけられ、叱咤激励されて成長しながら本を完成させたのだ。「一人じゃ難しいことも、仲間がいるとできるね」って、それこそ子供向けアニメで言われそうなことが、現実に起きていた。多幸感にあふれた本だ。


名前だぶってるのが笑っちゃう。

加藤 長嶋さんは昔からの作家のイメージと違って不思議な方ですね。『長嶋有漫画化計画』と似たことをやってる人、いますか?

長嶋 なんかいないよね。割りに合わないんじゃない? 「楽し〜」以外のメリットがあんまない。モデルになった本はあるけど。

加藤 どんな本ですか?

長嶋 『筒井漫画読本』(実業之日本社)。真っ黒い表紙の真ん中に、ナンシー関が彫った消しゴム版画の筒井康隆さんがいる。横に参加漫画家の名前が並んでいるという。筒井さんの小説は純文学からSFまで多岐に渡っているから、コミックアンソロジーにする意味も分かるし、筒井さんに人気があるから商売になる。で、ぼくの小説には筒井さんみたいなバラエティがないのに、あれをやりたいと。

アライ 表紙にでっかく長嶋さんのイラストを置くのは最初から見えていたんですね。「長嶋有漫画化計画 原作長嶋有」って、表紙で名前がだぶってるのが、何度見ても笑っちゃう。

長嶋 ほんとだあ! くどい。

加藤 狙ったんじゃないんですか?

長嶋 気づいてなかった。

加藤 うわあ(笑)

長嶋 自信のなさが出てる。「原作長嶋有」は脚注だな。「皆さんお気づきないかもしれませんけど……原作は長嶋有なんですよ!」

加藤 あはははは。

アライ 長嶋さんのことを全然知らない知り合いが、この本を見て「こんなにたくさん漫画原作やってらっしゃる方なんですね」って言ったんです(笑)。

長嶋 そういう見方もあるのか。

『筒井漫画讀本』(実業之日本社):相原コージ、内田春菊、ふくやまけいこなど、17人の漫画家が筒井康隆の短編小説を漫画化。筒井の奇想はビジュアルインパクトも強烈だと実感させられる。「人間の肉体を使った壮絶な『パイ投げ』なのだっ!!!!」と主人公が絶叫する「TROUBLE」(加藤礼次朗・画)など、本全体の血しぶき率がやたら高い。


編集者経験値ゼロ。完全にファン。

『長嶋有漫画化計画』を開いてニッコニコ...

『長嶋有漫画化計画』を開いてニッコニコ。編集者・長嶋有の仕事ぶりを聞きながら、改めて読み返す。

加藤 読んでいて、漫画家さんとどんなやりとりをしていったのか気になりました。

長嶋 第1回目はそれこそ編集者経験値ゼロ。「衿沢さんの生原稿だぞーヤッターOK!」って大喜びした。

加藤 完全にファンだ(笑)。

長嶋 掲載後に、原作を知らない人は人間関係が分かりにくいって指摘があっ た。それでね、本にまとまるときに、仲直りのシーンを2ページ分、衿沢さんと話し合って加筆してもらった。

アライ 長嶋さんと漫画家さんの間に人はいなかったんですか?

長嶋 もちろん光文社編集の人が。でも彼女も漫画のことに自信がなかったの で、漫画ライターのKさんにブレーンになってもらった。あとね、サイトのデザインを頼んだ友達のWさんも、いつの間にか編集の打ち合わせにまで参加してた。漫画家さんにもワイワイした話し合いがウケて。しかもすごい安い食材で美味しいものを作ってくれる。飲み会が安くあがる。

加藤 ん? 手料理で飲み会を?

長嶋 たくさん飲み会をやったほうがいいと思ったの。描き終わった人にもずっとこの計画に関わっている気持ちでいて欲しい。何をしたらいいか? 飲み会だ! どんどん人が増えて、編集さんが「長嶋さんちでやる打ち上げでいいですかね?」と。

加藤 いいな、そういうの。

アライ 打ち合わせはどうしてたんですか?

長嶋 よしもとよしともさんのときとか、4人でいっしょにネームを見て「ちょっとまだめくっちゃダメ〜」ってきゃっきゃきゃっきゃ。

加藤 衿沢さん以後はダメ出しもするように?

長嶋 編集者にやんわり原作者側の意向を言ってもらったほうがいいときと、ぼくが言ったほうが早いときとを直感で判断してた。小玉ユキさんは、原作者とじかに話をしたそうだったので一対一で打ち合わせた。カラスヤサトシさんとは、 居酒屋で「もっと原作を台無しにしてください」と遠慮なく言ってね。島田虎之介さんは、分かりにくいと指摘しても悠然と「これは分かりにくくていいと思います」って。作者性に触れた気がしてはっとなった。

加藤 へー。

もうりっぱな編集者ですよ

「漫画家さんも面白い話を待っているんじゃないか」...

「漫画家さんも面白い話を待っているんじゃないか」。名編集者・長嶋有は今後も活躍!? 期待しています。

長嶋 萩尾望都さんの時は、オールオッケーなんだけど、そのまま載せると張り合いないんじゃないかと思って、どっちでもいいことを一個だけ言った(笑)。

アライ 言わないと逆に失礼だと。

長嶋 「初めて私はそこに暮らすすべての猫を数えることができた」って原作のモノローグがさ、萩尾さんのネームでは当初なかったのね。「ここはモノローグをいれて読者に親切にしたほうがいいんじゃないか」って編集者づてに言ってもらった。でもどっちでもよかったの。原作者側になんの権威もないの(笑)。

加藤 長嶋さんがどういう方なのか分かってきた気がする(笑)。

長嶋 何も言えなかったのはよしともさん。ギリギリすぎて、出来上がったものに意見を言う時間はない。単行本で言うしかない。単行本でもすごい直したからギリギリになった。

アライ でもすっごく拘るっておっしゃってましたよね。

長嶋 よしもとさんは決して気難しいひとではなくて、「このコマの表情に苦労したんだよー」みたいな話は、1コマ1コマ語ってくれる。でも、人に見せられると思うまでの自己ジャッジはすごい厳しい。

加藤 第二弾のアイデアはありますか?

長嶋 僕が編集者なら当然長嶋有じゃない名前で「○○漫画化計画」と銘打って二冊目を並べようと思う。

アライ 別の作家を、なぜか長嶋さんが編集者的にやるっていうのも面白いですね。

長嶋 面白い話があればギャラは関係なくいろんな仕事をしてみたいっていう感じは、どの漫画家さんもあってさ。たとえば、丸尾末広さんの『パノラマ島奇譚』(ビームコミックス)って、手塚治虫文化賞(新生賞)を獲ったけど、最初はあちこち持ち込んでもダメだったって。編集者の食指が動かないせいで、アイデアを溜め込んでる人はけっこういる。

加藤 意欲のある漫画家さんと、何か面白いことができそうだと。

長嶋 地味な文学作品の漫画化だけではフックがない。あともうワンアイデアなんだよなあ。

アライ 長嶋さんはもう立派な編集者ですよ。

長嶋 作家・長嶋有が、雲散霧消していく(笑)。でも編集アイデアが浮かんだら、ぼくはまた作って出すかもしんない。

加藤 そうなっても不思議じゃないような。

長嶋 ついでに長嶋有も、ね? 合わせて買ってねって。漫画化計画シリーズで。いいね。

インタビュー集なのに作者性がある

リラックスして話すレイズナさん...

リラックスして話すレイズナさん。笑いにあふれた和やかな対談だった。

長嶋 『プリキュアシンドローム!』は、インタビュー集なのに作者性があるねえ。合間合間のコラムもね、こんな分厚い本でページ稼ぎなわけがない。

アライ そうか。分厚いのにそれでも入れているからこそ、加藤メモが……

長嶋 大事なんだなって分かる。分厚い本って、逆説的な話になるけど、薄い本より余裕がないんだよね。二冊、三冊とできることを一冊にぶちこんだ結果が分厚いということだから。だから彼の言葉も入れてしまう。プリキュアの面白さを伝える内容のなかで、加藤レイズナという人のことが伝わる。それはアライさんがやりたかったんだろうなと思うんだよね。

アライ そうですね。

加藤 当初、著者名はあまり出さないでやろうとしてました。

アライ 1冊も本を出したことのない、当時22才の駆け出しのライターだもんね。

加藤 打ち合わせで色んな人から言われたんですよ。「加藤くんの本なんだから、名前出さなきゃダメでしょ」。

アライ 責任を押し付けられた説もあるけど。

長嶋 この企画を通すときの根拠って「この人がこんなに言ってんだから」という一点だから。加藤くんを信じるしかない。

アライ この人の本にしないと成り立たない。でも加藤くんはいろんな人に表紙の名前クレジットが邪魔だって言われて、大変だったね。

長嶋 「こまちとかれんの頭に名前が入ってる。見えないじゃないか」ってこと?

加藤 加藤レイズナはプリキュアファンからは要らないって思われてるんだなって、ちょっと凹みました……。友だちに見本を見せたときに、「本屋に並ぶときには、加藤レイズナは消えてるんだよね?」って言われて、えー!? ってなりましたね……。

長嶋 凹むことはないよー。加藤くんはこれでいいんだよ。

加藤 そう言われると心強いです。

長嶋 叩かれるのは、ひとりのパーソナリティで勝負をしてるゆえだね。だから「お前なんぞ知らん」という不機嫌な洗礼を受ける。そのほうがいいって言ったら、10年間「なんだブルボン小林って」と言われてきたぼくの自己弁護みたいになるけどさ。

アライ 長嶋さんは、作家なのになぜそれをやるみたいな積み重ねが、実はたくさんある。『長嶋有漫画化計画』はそれの集大成ですよね。長嶋さんも加藤も突き抜けてる。

長嶋 「なにやってんだ……」って呆れられることをやってないと、漫然としちゃうだろ、みたいなさ。加藤くんみたいにデビューからそうである必要はないけど(笑)。

加藤 本の中で「著者としては一本立ちできていない」って不安がられてますからね。

長嶋 その生々しさが面白さでもある。

アライ そこを書いたのは、わたしの提案です。最初のうちは未熟でやってますよってしたほうが……

長嶋 物語性があるもんね。

加藤 本の最後で、鷲尾さんが「(加藤に不安を示した)Hさんもすごく面白いと言っていましたよ」って教えてくれて、嬉しかったです。

長嶋 そこ太字にすればよかったのに。脚注もつけてさ、何ページ参照、最初は不安がられたが、最後には面白いと言った! って(笑)

加藤 いやいやいや(笑)

長嶋 「モーニング」編集者・佐渡島庸平さんが「けなされない本は売れてない本だ」って言ってるの。好きなひとだけが買うから、売れてないうちはみんなが褒める。加藤さんがネットで叩かれるのとは逆で、『長嶋有漫画化計画』は好意的な感想ばかりなんだよ。

アライ 『長嶋有漫画化計画』は、こういうノリが理解できる人のところにちゃんと届いてる気はします。

長嶋 ウェブで「COMIC CUE」の再来って書かれてた。「COMIC CUE」がだいすきだったひとに喜んでもらえたなあ、という感触はある。

加藤 『プリキュア シンドローム!』は、プリキュアを知らないひとたちにも喜んでもらえました。

アライ 他にも、漫画家の田中ユタカさんがツイッターで熱く語ってくださいました。泣いた、付箋だらけになったと。

加藤 何日間かずっとツィートしてくださったんですよね。

長嶋 悪口言われないって言ったけど、一方で羨ましがられる。長嶋は間違いなく楽しんだなって否応なく伝わってしまうらしくて、書評で羨ましいって言葉が頻出するの。

加藤 長嶋さんも漫画家さんも楽しんでるなって思いました。

アライ 表紙の似顔絵そのまんまの気持ちなんだろうなって感じです。

長嶋 藤子不二雄A先生にはこう見えてたんだろうね。

加藤 さすがです。

長嶋 加藤くんの次回作さ、表紙に似顔絵どーんと置いて、御存知って感じで 「加藤レイズナのプリキュアシンドローム!」ってタイトルにしようよ。「長嶋有漫画化計画」はたまたまなんだけど「藤子不二尾A先生が似顔絵にするほどなら俺が知らなくてもひとかどの人に違いあるまい」ってみんなに思われるのね。名前でっかいし。そこですよ。

加藤 そこですか(笑)。

『COMIC CUE』(イーストプレス):1994年、漫画家の江口寿史が責任編集長となって創刊された漫画雑誌。
後に高野文子が同名でリミックスした、冬野さほ「Cloudy Wednesday」(傑作!)『ツインクル』/マガジンハウスに収録)など、独創的な読み切り作品が掲載され、サブカルっ子のハートをぎゅうっと鷲掴みに。2003年以降出ていない。


こまちが努力賞なのはいかがなものか

この幸せそうな笑顔ったら!...

この幸せそうな笑顔ったら! プリキュアの話で盛り上がって嬉しそう。

長嶋 そろそろプリキュアの話をしてもいいかなあ。

加藤 長嶋さんが作家志望のこまちをどう思うのか聞きたかったんです。

長嶋 投稿した小説が努力賞ってオチはいかがなものか。喫茶店に呼び出されて妙なセミナーに勧誘されるこまちがありありと浮かぶ。

アライ 「300万円で本が出せますよ!」と言われる。

加藤 リアルに黒い話だ(笑)

長嶋 こまちさん素直な性格だから。まあでも、ナッツがやめとけって言ってくれる。ナッツは名編集者だよね。

加藤 ナッツをどう思いました?

長嶋 あのにべのなさはすごい。ナッツのこまちへのアドバイスは、子供向けのリアリティという範疇を超えて、妙に具体的。

加藤 「本当に書きたいことを書いてない」って厳しいですよね。

長嶋 あとさ、友達が友達褒めをする行為をその場で否定するのって、ドキッとした。

加藤 「友達だから褒めてるんでしょ」って。

長嶋 否定することもだけど、みんなが友達褒めをしてるって事実を見せたのは、ドキッとする表現だった。子供はそうしないと生きにくいじゃん。かれんさんも励ましたほうがいいと思って褒めてるんだしさ。

アライ 中学生に過酷なこと言っているとわたしも思いました。

長嶋 ナッツがどうこうじゃなくて、製作側が難しい問題を扱ったなという気がした。うららやのぞみが頑張るのは、努力の多寡で決まるような夢だからすんなり観られたんだよ。でも小説というセンスの話になったときに、あればベストの演出だったかどうか。ただ、大成功じゃないちょっとした成功を描きたかったんだろうね。努力賞に対してこまちさん危ないって心配するのは違うよね。

加藤 こまちの努力賞でここまで考えるのはすごいです。

長嶋 他のひとも視聴者と等身大で悩む位置にいるよね。のぞみは先生になろうとして最終話で失敗。

加藤 うららはオーディション落選。

長嶋 うららは視聴者の人気があるから、どんどんスターになるシナリオもありそうなのに、いつまでも営業が地味だよね。

加藤 遊園地で着ぐるみショーの司会とかしてますもんね。

長嶋 クララが立ったみたいな夢が叶うカタルシスがない。あるのは、ばらばらになりかけた5人が絆で結ばれるという満足感。5人が仲良しなのがいいね。ナッツハウスという秘密基地で、お菓子を食べておしゃべりして。

長嶋さんの作品にはナッツハウスに通じるものがある

長嶋作品にはナッツハウスのまったり感に通じるものが...

長嶋作品にはナッツハウスのまったり感に通じるものが。長嶋さんご本人が醸す空気もほんわか。

加藤 5人といえば『エロマンガ島の三人』(文春文庫)が面白かったです。佐藤と久保田が、5人組のキャラクターの話をするところがあるじゃないですか。セーラームーンやゴレンジャーの名前を全部言えるか。

長嶋 オタク語りを。

加藤 あれ、今だったらプリキュアが入るんだろうなーって。

長嶋 「ドリーム・ルージュ・レモネード・ミント・アクアに決まってるじゃないですか」と。

加藤 それが読みたいと思ったんですよ!

長嶋 そうか。そんな感想初めて(笑)

加藤 長嶋さんの『ねたあとに』(朝日文庫)や『ぼくは落ち着きがない』(光文社文庫)にも、ナッツハウスに通じるものを感じます。

長嶋 ナッツハウスみたいなユートピアはいいね。

加藤 うん(大きくうなずく)。いいですよねえ。中学のとき、TOKIOの「フラれて元気」という曲のPVがすごく好きで、なんども繰り返しリピートしていた時期があったんですよ。この間久しぶりに見返したら、ナッツハウスと似た感覚があって、あー、これが好きだったんだなと気付きました。

長嶋 昔でも、仮面ライダーでおやっさんが喫茶店を経営してて、本郷猛がコー ヒー飲みつつ女の子と談笑、みたいなね。『仮面ライダー響鬼』でキャンプしてるの も羨ましい。悪の力みたいのが神隠しをするから、ヒビキは調査してんの。ワゴ ンカーの前でホワイトボード出してもっともらしくしてると、響鬼への出演を踏 み台にのしあがろうと野心満々のグラビアアイドル演じる助手がコーヒー入れて くれる。そこに明日夢くんという、ヒビキに憧れる少年がいちいち何かの用事で 山奥まで訪ねてきてさ。

アライ 響鬼ってそんな話なんだ……

長嶋 響鬼はね、野心ギラギラの女優が5人もいるの!(以下、女性キャラクターを熱く語るが長すぎるので割愛)。5人が明日夢くんをあの手この手で手厚く扱ってくれる。もうばっちりですよ。

加藤 響鬼観てたけど、そうだったかなあ。

長嶋 加藤くんは観てて思わなかった?

加藤 いや……ナッツハウスのほのぼのから大分離れましたよ?

長嶋 プリキュアの5人は、プリキュアを踏み台にって野心もなくナッツハウスでまったりしてるのがいいんだね。加藤くんが響鬼の女優を評価しないのもやむなしか。

加藤 ナッツハウス感がすきですね。『YES!プリキュア5GOGO!』でくるみがやって来てからは、それが薄くなりますよね。

長嶋 ちょっと残念だったよね。ナッツハウス的な「ホーム」の魅力を維持するのは創作の上で大事なポイントだよ。そうだホーム論書こうよ。

加藤 最初、コミュニティ論を入れていこうという話はしてました。インタビューを続けていって、「人」のほうが面白くなってきて書けなかった。今でも書きたいという気持ちはあります。

長嶋 うん。ナッツハウス感は、話の筋としては要らないかもしれないけれど、一年間一緒に時間を過ごす面白さがあるよね。

加藤 5の43話「こまちの決意とナッツの未来」の回だけ、ルージュが理由不明で気怠いんです。通常のキャラ設定とは違っているけど、逆に人間生きてたら、まあそういう日はあるな、と。

長嶋 いつも元気なルージュが「だるーい」。

加藤 逆にリアルですよね。

長嶋 ルージュどうしたんだろう。心配になるよ。

アライ 3時間も話してるので、ここは〆て打ち上げに行きましょうか。

長嶋 ぼくが気になったのは、うららがね……(しばらく長嶋と加藤のプリキュア話止まらず)。

『エロマンガ島の3人』(文春文庫):「あなたがエロマンガ島で、大地震にでも遭遇して死んだらね(中略)、エロマンガ島で死んだ佐藤さんの婚約者の中川鈴江さんが、遺体の検分に今、エロマンガ島に向かいます(中略)、エロマンガの鈴江さんがって散々報道されたりするかもしれないってこと?」(p.21)短編集の表題作は、週刊ファミ通の元編集者をモデルにした小説だ。エロマンガ島に行ってエロマンガを読もうというバカ企画で旅立つゲーム雑誌編集者・佐藤。置いて行かれた恋人鈴江は苛立つ。島の空港はただの草原で、宿泊先は台風で吹っ飛んでいて、予想外の出来事が次々と起こる。佐藤は無事に帰れるのか?
同行する部下久保田のアニメオタクっぷりや、久保田に対する佐藤の心の動き――苛立ちと親愛の情も読みどころのひとつ。


『ねたあとに』(朝日文庫):‘家の中に入って歩くとき、壁際の箪笥がいつもカタカタ鳴る。取っ手の金具がわずかな振動でも揺れてしまうのだ。自分に「体重」があることを自覚する瞬間。’(p.64)語り手は久呂子さん。繊細な身体感覚の女性だ。久呂子さんは夏になると小説家コモローに呼ばれて山荘へ行く。娯楽の少ない山荘では不意に、コモローと家族が考案した遊びの「時間と場」が発生するのだった。改良を重ねた独自ルール。成り立ちとそれに連なるコモロー家の歴史。翌年、また翌年と、遊びは常連客とともに繰り返される。久呂子さんの身体を通して、過去から未来へ続く山での営みに参加する一冊。


『ぼくは落ち着きがない』(光文社文庫): ‘兄が幼いころ、押し入れをコックピットにしてなにかを運転していたような(中略)、この細長い片面ベニヤの部室が、一つの乗り物であるような気持ちになる’(p.41)高校生の望美は図書部員。部室は図書室の奥、ベニヤの合板で仕切られただけの狭い空間だ。シンクとコンロがあって、コーヒーや紅茶を淹れられる。部員は、教室では居心地悪く、部室だと活き活きする者が多い。昼は弁当を食べに来る。雑誌『カツクラ』を回し読み。好きな小説のジャンルが噛み合わず軋轢。カウンターのゼムグリップは誰かが悪戯で繋げて一本になったりする。
長嶋有さん曰く「部活じゃなくてね、部室もの。部員にとって図書館の運営は建前で、みんなでいたい。部室に帰ってきてだべりたい」。