『博士の愛した数式』の小川洋子さんのエッセイ集です。『博士の愛した数式』は荻原浩さんの『明日の記憶』が出されたのとほぼ同じ頃に読んだので、このところ記憶に関するお話が多いなと思ったことを覚えています。でも『博士の愛した数式』の方が少し読んだのが早かったかな? とても面白かったので読書好きなメイクさんに貸し出したりして、お互いに感想を言い合ったりしました。そういう時は感動を共有できた気がして幸せです。
 今回の『犬のしっぽを撫でながら』は『博士の愛した数式』にまつわる話も載っています。タイトルは「数の不思議に魅せられて」。本屋さんに行くと、小川さんと数学者の藤原正彦さんが、数学・数の美しさ、面白さについて対談されている本もありました。私は数の美しさ、不思議に魅せられるほどその分野に詳しくはありませんが、小説のなかではその魅力に少し惹かれました。
「数の不思議に魅せられて」の章では、小説を完成させるまでに至る小川さんの準備期間で得られた数の不思議、美しさをもう一度エッセイとして私たちに紹介してくれています。他には書くということについての見解だったり、飼っているラブラドールのラブちゃんが巻き起こす日々の事件だったり、息子さんと過ごす時間で感じる事だったり、タイガースファンの心理(小川さんがタイガースファンとは何だか意外な気が!?)だったり、アンネ・フランクについてだったり……。幅広い分野、話題で語られています。
 私がいいなと思うのはラストの章「家族と思い出」。小川さんご自身の子供時代、学生時代、そして現在。全部で21のお話、エッセイが載っていますが、この話を小説にして書いて! 読みたい! と思えるようなお話がいくつかありました。ああ、この気持ち……。確かに子供の頃に感じていた!! と、その文章を読んだ瞬間、心に巻き起こる当時の感情、感覚……。それを感じる瞬間の激しいまでのせつなさってホント一体何でしょう? 堪らなくなります。思い出そうとしても思い出せない、無意識レベルの深い海に沈み込んでいたものを、たった数行の表現が、それらの記憶を海面にまでいっきに浮かび上がらせてくれる。そういう体験をしてしまったらもう最後、この作家さんが好きだ! と思ってしまう(笑)。小川さんの「家族と思い出」にはそういう力があったので、次回作も是非楽しみにさせていただこうと思っています。それではまた。


黒谷友香

黒谷友香(くろたにともか)
黒谷友香(くろたにともか)1975年、大阪府生まれ。95年、映画「BOXER JOE」のヒロイン役で女優デビュー。その後、CM・ドラマ・映画・ 雑誌など幅広く活躍。主な出演作に03年「魔界転生」、04年「クイール」など。またこの秋、公開の映画「SHINOBI」では、美貌の毒婦、陽炎(かげろう)を好演。

犬のしっぽを撫でながら
『犬のしっぽを撫でながら』
小川洋子著
集英社刊
1470円(1400円)