「江戸しぐさ」の代表的なものに「傘かしげ」という往来のしぐさがあります。どんなしぐさかというと、雨や雪の日、道で傘をさして人とすれ違う時に、相手も自分も濡れないように傘を人のいない外側に(二人の傘の形はハの字の形になる)傾けるというものです。こうすれば、相手も気持ちがいいし、自分も気分がいい。江戸しぐさは、人間関係を円滑にするためのマナー、知恵に溢れています。
 もともと江戸しぐさは、江戸の商人たちの人づきあいのノウハウがベースになっているそうです。町が安泰で商売が繁盛するためにはどうすればいいのか。お客様と良い関係を築き、それを保つにはどうすればいいのか。そういった知恵と工夫の積み重ねなので、とても参考になるのです。
 その一部に、「年上の方には敬意を払う」「見知らぬ人も仏の化身と考え対等な付き合いを心がける」「弱い人をいたわる」「できるだけへりくだる」「他人は自分より博識と考えて接する」などがあります。
 社会を円滑にするそのマナーに「なるほどな〜」と感じずにはいられません。当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、それを常に心がけるのは難しいことです。そういった心遣いが日常生活に潤いを持たせるのだと改めて思いました。
 今回ご紹介する『身につけよう!江戸しぐさ』には「傘かしげ」のような、相手の気持ちを推し量って行動するという精神に溢れた素敵なしぐさが沢山紹介されており、大変勉強になりました。現代を生きる私たちの暮らしにもとても役立つと思います。
 自分磨きの本の中にも、江戸しぐさと共通する提案が書かれていたりします。『人に好かれるための〜』や、『幸せになる〜』といった本に出てくるような気持ちの持ちようであったり、良い人間関係を維持するための方法であったり。私はそういう本が好きでよく読んでいますが、この本はそこからさらにもう一歩踏み込んだ精神があると感じました。自分のために読んで自分の生活を楽しくするというよりは、「自分以外の周りの人のため、社会のためにこうしていこう!」という社会全体の幸福を願う気持ちが養われた気がします。やっぱり、自分ひとりがよくても、周りも幸せじゃないといけないんだなあと。ひとりひとりがちょっとしたマナーを身につけることで、社会が住みよくなるのではないかと思います。
 最後に「これは素晴らしい!」と感動した江戸しぐさをご紹介しますね。
 電車の中で足を踏まれてしまった時、踏んだ人から「あ! すみません、ごめんなさい」という言葉がかけられます。普通なら、「大丈夫ですよ」とか「いえいえ」などと答えると思うのですが、江戸しぐさの精神では違う返事の仕方があります。それは、「うかつでした」です。その心は「踏んだ方はもちろん謝り、踏まれた方も『うかつでした』と謝れば角が立たない。トラブルを避けるための基本的な知恵」で、「踏んだ踏まないで口論するのは野暮なこと。野暮とは、人情の機微をわきまえないこと。踏まれそうな気配をいち早く察知して避けることができなかった、それができなかった自分の『うかつ』も素直に反省する」という気持ちの表れが「うかつでした」という一言につながるそうです。
『身につけよう!江戸しぐさ』、お勧めです。それでは!


黒谷友香(くろたにともか)
黒谷友香(くろたにともか)1975年、大阪府生まれ。95年、映画「BOXER JOE」のヒロイン役で女優デビュー。その後、CM・ドラマ・映画・ 雑誌など幅広く活躍。主な出演作に映画では03年「魔界 転生」、04年「クイール」など。11月11日公開の映画「TANNKA短歌」で初主演。

身につけよう!江戸しぐさ
『身につけよう!江戸しぐさ
−イキで元気でカッコいい!
出来るおとなの大切な心得』
越川礼子著
ロングセラーズ刊
1260円(本体価格1200円)