前進する日もしない日も
第百十八回 どんどん減っていく
 日曜日、ひとりで電車に乗っていたのだった。さほど混んでおらず、ゆったりと空席があった。
 住宅街をすすむ電車。わたしは窓の外の暮れゆく夏の夕焼けの空を見ていた。そして思ったのだ。いや、感じたのだ。
 ああ、人生がどんどん減っていく……。
 夕焼けの美しさを味わいたいのに、その先にある、儚さの部分にばかり反応してしまう。
 それは、斜め向かいに座っている高校生らしき女の子のせいでもあった。ショートパンツからすーっとのびた、長くてきれいな足。傷ひとつなく、マネキンの足のようにつるつるである。わたしは、自分が過去にそれらを持っていて、年齢とともに、失ったようで悲しくなっていた。もともと、そんなスタイルでもなかったくせして! 勝手な話である。
 毎日少なくなっているわたしの人生。戻ることのないわたしの人生。同じ夕焼けが二度とないように、人生も繰り返りかえされない。
 そして、不思議だった。人生について感じているわたしの心の中の、そうだなぁ、4分の1くらいのスペースでは、まったく違うことを同時に思っているのである。
 さっき買ったスイートポテト。とてもおいしいらしい。雑誌にも載っていた。家に帰って食べるのが楽しみだなぁ、帰ってすぐ食べるか、冷やしておいて、夜ご飯の後に食べるか。人の脳みそとは、一体どういうしくみなのだろう? 人生とスイートポテトを平行できるなんて……。
 新宿駅に着くと、「人生について」は煙のように消えてしまった。その後、なにを考えはじめたのかは覚えていない。スイートポテトは食後にペロリと平らげたのだった。



益田ミリ『すーちゃんの恋』

益田ミリ(ますだみり)

1969年大阪生まれ。主な著書に「すーちゃん」シリーズ、『週末、森で』、『泣き虫チエ子さん1』シリーズ、『オレの宇宙はまだまだ遠い』などが、またエッセイ集に『47都道府県女ひとりで行ってみよう』『益田ミリ
銀座缶詰
』『ちょっとそこまで ひとり旅 だれかと旅』などがある。近著は『五年前の忘れ物』『キュンとしちゃだめですか? 』。


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