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![]() ![]() ![]() 日曜日、ひとりで電車に乗っていたのだった。さほど混んでおらず、ゆったりと空席があった。
住宅街をすすむ電車。わたしは窓の外の暮れゆく夏の夕焼けの空を見ていた。そして思ったのだ。いや、感じたのだ。 ああ、人生がどんどん減っていく……。 夕焼けの美しさを味わいたいのに、その先にある、儚さの部分にばかり反応してしまう。 それは、斜め向かいに座っている高校生らしき女の子のせいでもあった。ショートパンツからすーっとのびた、長くてきれいな足。傷ひとつなく、マネキンの足のようにつるつるである。わたしは、自分が過去にそれらを持っていて、年齢とともに、失ったようで悲しくなっていた。もともと、そんなスタイルでもなかったくせして! 勝手な話である。 毎日少なくなっているわたしの人生。戻ることのないわたしの人生。同じ夕焼けが二度とないように、人生も繰り返りかえされない。 そして、不思議だった。人生について感じているわたしの心の中の、そうだなぁ、4分の1くらいのスペースでは、まったく違うことを同時に思っているのである。 さっき買ったスイートポテト。とてもおいしいらしい。雑誌にも載っていた。家に帰って食べるのが楽しみだなぁ、帰ってすぐ食べるか、冷やしておいて、夜ご飯の後に食べるか。人の脳みそとは、一体どういうしくみなのだろう? 人生とスイートポテトを平行できるなんて……。 新宿駅に着くと、「人生について」は煙のように消えてしまった。その後、なにを考えはじめたのかは覚えていない。スイートポテトは食後にペロリと平らげたのだった。 益田ミリ(ますだみり) 1969年大阪生まれ。主な著書に「すーちゃん | ![]() |