前進する日もしない日も
第百十九回 小豆島へ
 瀬戸内国際芸術祭に行ってきたのだった。瀬戸内海の島々でおこなわれる芸術のお祭り(でいいのかな)で、3年に一度、開催されているらしい。よくわからないまま小豆島に行ってみれば、観光客が大勢いてにぎわっていた。
 なんでまた、よくわからないまま小豆島に渡ったのかというと、わたしが「作」を手がけた絵本の原画展を開いてくださっているカフェがあり、それを見に行ったわけである。
 それにしても、若い女性たちはアクティブである。炎天下の中、島中を歩きまわってアート鑑賞している姿があちこちに。作品が点在しているので、バスを使ったりしているのだけれど、展示されているのは山の中の民家のような場所や、かと思えば海岸近くだったりして、とにかく歩く歩く。ときには、「まむし注意」の看板を横目に、草むらの作品めがけて進んでいくのである。
 地元のお年寄りの方々もスタッフとして道案内されており、地図を片手にまごついていると、
「あっちにもアートがありますよ〜」
 なんて気軽に声をかけてくださる。現代美術の祭典なので、村の公衆トイレが実は作品だったり、作品かな? と思って写真を撮っていたものが、ただの「かかし」だったりして、そういうのもひっくるめて楽しいのだった。
「あっちにツッパリいますよ」
「ツッパリ?」
 おばあさんに教えもらった道を歩いて行けば、真っ白なたまご状の物体に、黒々としたリーゼント。巨大なツッパリ人間の頭部のようなものだけが、木々の間にぽつんと置かれてあるのだった。
「ツッパリ」が島にやってきたとき、さっきのおばあさんはどう思われたのだろう?? 首をかしげただろうか、それとも大笑いしただろうか。もう、このすべての流れが、作家の作品なのではないかと思えてくる。
 東京に戻ってから、「瀬戸内国際芸術祭に行ってきました」と、仕事の返信メールに気候の挨拶代わりとして挿入すると、
「実は今週末、わたしも瀬戸内国際芸術祭に行ってきます。今回は直島と犬島をまわってこようかと」
 とか、
「瀬戸内国際芸術祭、いかれたんですね!わたしも行っていたんですよ〜」
 などと返ってきて、またびっくり。知らなかった、人気あるのか、瀬戸内国際芸術祭。そうだったのか〜。ならば、しばらくは、「瀬戸内国際芸術祭に行ってきました」を連呼して、ツウな人と思われようと企むわたしなのであった。



益田ミリ『すーちゃんの恋』

益田ミリ(ますだみり)

1969年大阪生まれ。主な著書に「すーちゃん」シリーズ、『週末、森で』、『泣き虫チエ子さん1』シリーズ、『オレの宇宙はまだまだ遠い』などが、またエッセイ集に『47都道府県女ひとりで行ってみよう』『益田ミリ
銀座缶詰
』『ちょっとそこまで ひとり旅 だれかと旅』などがある。近著は『五年前の忘れ物』『キュンとしちゃだめですか? 』。


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