前進する日もしない日も
第百二十回 10分の間
 とりあえず、あと10分くらい会話しないと解散には早すぎる、という場が大人にはある もの。
 用件が思った以上に早く終わり、もう伝えることはないんだけど、 
「じゃあ、そろそろ行きますか」
 というにはあっさりしすぎているので、強引につくる余韻の10分。
 そういうとき、やめたほうがいいのは「質問」のやりとりである。時間かせぎのためだけに、たいして知りたくもないことを互いに質問しあっていると、特に言いたくなかった話題や、聞きたくなかった話題が出現して面倒だったりする。
 この夏のわたしの「余韻」はかき氷だった。
 なるべくからだを冷やさないようにしているので、夏でもかき氷は食べなかったのだけれど、猛暑だったせいもあり、今年は解禁。よく食べた。
 友達が「とらや」のカフェのかき氷がめちゃくちゃおいしかった、お願いだから一回食べてと言っていたので、電車に乗って新宿伊勢丹まで食べにも行ってきた。平日の午後なのに、店の前には長蛇の列。
 わっ、なんか、すっごいおいしい予感がするぅぅぅ。
 並んでものを食べるのは苦にならないので、いそいそと最後尾についた。店内の様子が丸見えなので、みんながどんなものを食べているのかがわかるのだけれど、かき氷の人が多かった。人気のようである。こんもりと盛られた真っ白な氷に、濃い抹茶の緑が美しい。それをシャクシャクとスプーンでくずしながら食べている人々を見ていると、自分の未来が輝かしいものに思えてくる。わたしだってもうすぐ! 
「ミリちゃん、白いあんこが入っているかき氷食べてね」
 友が熱く語っていたので、30分並んで席に着くと、すぐに「白いあんこ」のほうを注文した。これが、もう、本当においしかったのである!「とらや」といえば、もちろん羊羹。使っているあんこがおいしいと、かき氷も倍おいしい。白いあんこはほくほくとやさしい口当たりで、おまけに氷も軽やかだった。
「ぜひ、この夏、食べてみてください、あっ、じゃあ、そろそろ行きますか」
 余韻の10分は、こんな「とらや」のかき氷話で乗り切った2013年の夏であった。



益田ミリ『すーちゃんの恋』

益田ミリ(ますだみり)

1969年大阪生まれ。主な著書に「すーちゃん」シリーズ、『週末、森で』、『泣き虫チエ子さん1』シリーズ、『オレの宇宙はまだまだ遠い』などが、またエッセイ集に『47都道府県女ひとりで行ってみよう』『益田ミリ
銀座缶詰
』『ちょっとそこまで ひとり旅 だれかと旅』などがある。近著は『五年前の忘れ物』『キュンとしちゃだめですか? 』。


=