前進する日もしない日も
第百二十一回 あれの季節
 あれの季節である。待ちに待ったあれの季節がやってきた。栗。わたしの愛する栗のデザートの季節である。
 栗は子どもの頃からの大好物。ゆでた栗を包丁で半分に切ってもらい、スプーンで食べるのが楽しみだった。栗ごはんの日は必ずおかわりしたし、おかずがなくてもよかったくらい。そして、そのまま栗に飽きることなく大人になり、栗好きにますますエンジンがかかっている。
 おいしい栗のデザートないかなぁ。
 外での仕事の打ち合わせが終わると、楽しい楽しい栗探し。
 ここ数年のお気に入りは、栗と砂糖だけで作った「栗きんとん」。6個入りの箱を買ってしまうと一晩で全部食べてしまうので、いつも泣く泣く2個入りでがまんしている。でも、でも、いつか、6個の栗きんとんをひとつにまとめ、かぶりつこうと企んでいる。
 あと2キロ痩せたら、実行するぞ! 
 そう思っているうちは、痩せるはずもないのだった。
 今日は新しく始まる連載の原稿を渡しに渋谷へ。軽く夜ご飯でも行きますかと、打ち合わせの後、鉄板焼き屋さんへ。
「ああ、おなかいっぱい」
 そう言いつつも、やはりデザートが気になっちゃう。
 秋。あれの季節である。もしかしたら、目の前の鉄板で焼き栗のデザートなんかを作ってくれるのではあるまいか? それは今までに味わったことのない栗のデザートなのではあるまいか?
「デザートはなにがありますか?」
 祈るような気持ちで店員さんに聞くと、クレームブリュレとのことだった。
 デザートは注文せずお店を後にし、編集者と別れたあとはいそいそとデバ地下へ。閉店5分前の慌ただしさの中、ケーキ屋さんで渋谷限定の栗のケーキを発見。ひとつ買ってわくわくしつつ家に帰り、ペロリと平らげた。体重計に乗るのが恐ろしい。6個の栗きんとんをひとつにまとめて食べられる日は、当分来ないだろう。



益田ミリ『すーちゃんの恋』

益田ミリ(ますだみり)

1969年大阪生まれ。主な著書に「すーちゃん」シリーズ、『週末、森で』、『泣き虫チエ子さん1』シリーズ、『オレの宇宙はまだまだ遠い』などが、またエッセイ集に『47都道府県女ひとりで行ってみよう』『益田ミリ
銀座缶詰
』『ちょっとそこまで ひとり旅 だれかと旅』などがある。近著は『五年前の忘れ物』『キュンとしちゃだめですか? 』。


=