「インドで迷子になった私を助けてくれた親切なおじさん」「タイで大喧嘩したけど、なぜか気になるアイツ」、あるいは「旅先で話を聞いたけれど、ついに食べることができなかった料理」などなど、時間を経た今となっては、もう一度、再会できる可能性はゼロに等しい「誰か」や「何か」……。
 あなたの記憶にこびりついて離れない大切な記憶を教えてください。どんな異国でも辺境地でも構いません。
 一年間の募集期間の後、応募された記憶の中から一つを選んで、ノンフィクション作家・高野秀行が実際に探しにでかけます!! 下の「応募する」ボタンから、ぜひご応募ください!
〜読者から依頼された記憶〜
ファイル 009:オーストラリアをバイクで一周していた二位さん
[探して欲しい記憶の時間]1984年7月
[国名]ニュージーランド
[都市名]南島
[探して欲しい記憶の人名、物]二位さん
[探して欲しい記憶の詳細] 
 約20年前のオーストラリアをバイクで一周していた二位さん。九州からやってきて、仕事は微生物研究所の技師だった。まだ日本女性の一人旅が珍しかったオーストラリアでバディになって、ニュージーランドへ渡った。ずっと歩きとヒッチハイクの旅で、なんとなく2人の間にずれができた頃、乗り込んだ車に相乗りしたのが赤毛のスイス女性。チーズのお国柄か腋臭がきつい。どうしても耐え切れなくて私は車を降りた。北島から南島まではフィヨルドが続く長くて険しい道。二位さんはこの車を見送ったら次はないからと乗って行った。私は1人で次の車を待つことに。結局、何台も乗り継いで何日もかかって私は南島に着いた。狭い国、トラベラーの集まる場所は共通している。どこかで会えると思っていたが、結局会えなかった。あの頃の少女っぷりは消えたけど心の中の空や大地は消えないまま。二位さん、お元気ですか?

高野秀行より
 すごくロマンチックなお話ですねえ。腋臭があまりもきつくて、それで結果的に別れてしまうなんて、小説でも作れませんよ(まあ、腋臭はきっかけにすぎないんでしょうけど)。
 女子の友情というのも、私には物珍しく、その部分でも惹かれます。
 質問が二つほど。まず「二位」は「にい」と読むのですか? それから下の名前は憶えてないですか? 今、年齢はどのくらい?
 九州出身、微生物研究に従事、海外を二十年前にバイクで一人旅する女性なんて、そうそういませんよ。苗字も珍しいし。本気で探せばかなり高い確率で見つかるような気がします。
 ただ、こういう日本人離れした人は、海外に移住してしまうケースが多いんですよね。そうなると格段に難しくなります。
 ちなみに、珍しい苗字の人はふつうネットで検索しやすいんですが、この人は例外ですね。試しにやってみたら、コンピュータは「第二位は〜」とかいうやつを全部拾ってしまい、膨大なデータに紛れてしまいました。
 お二人が再会する場面は、私も物陰から(?)見てみたいですのですが。
ファイル 010:ユーゴスラビア紛争に巻き込まれたかもしれないBob
[探して欲しい記憶の時間]1989年
[国名]ユーゴスラビア
[都市名]Belgrade
[探して欲しい記憶の人名、物]Bozidar Maric、通称Bob
[探して欲しい記憶の詳細] 
 1988年から89年の約1年間、アメリカのカンザス州でともにAFS(American Field Service)の留学生として一緒に苦楽を過ごした旧ユーゴスラビアからきていた男性を探してください。名前はBozidar Maric、通称、Bobです。彼と私はカンザス州とミズーリ州の州境にあるカンザスシティの郊外にホームステイしており、彼はBlue Valley North High School、わたしはBlue Valley High Schoolに通っていました。違う高校でしたが、同じ年に世界各国からカンザスシティ周辺に留学していたAFS70名のなかでは仲がよく、パーティに一緒に行ったりしていました。彼はU2のファンで当時よく「I still haven't found what I am looking for」を聞いていて、「U2 is my dream. My dream is going to U2's concert.」と言っていたのを 覚えています。帰国後もハガキのやりとりをしていましたが、留学が終わるころから始まったユーゴスラビアの紛争によって、1991年ごろに投函したハガキが戻ってきたのを最後に連絡がつかなくなってしまいました。
 このハガキを出してからしばらくして、彼の夢を見たのですが、夢のなかで彼は「Good bye.」と 言って私に背を向け、私は泣いていました。その夢の後、出したハガキが戻ってきたので、何かの悪いしるしではないかと思ってしまうほどでした。ちょうどユーゴスラビアの紛争は当時のテレビでも取り上げられていて、「民族浄化」のもと、隣近所同士でレイプや殺戮が繰り返されているといった内容のものだけが目に耳に入り、彼は殺されているのか、はたまた人を殺してはいないか……とその後、ずっと気になっていました。
 AFSカンザスシティにはもうひとり、ユーゴスラビアから来ているMiljanという名の学生がいましたが、MiljanとBobは見た目もまったく違い(Miljanはスラブ系のようなダーク色の髪と目の色でBobはどちらかというと色白、明るい髪と目の色の容姿)、もしふたりの民族が違っているのなら、ふたりは敵対しているのかなぁ……などとも思うこともあります。AFSカンザスシティのメンバーは2002年、ポルトガルのリスボンで同窓会を開きました。フランス、ブラジル、オーストラリア、スイス、デンマークなどから88-89年AFSカンザスシティ生が集まりましたが、Bobの姿はなく、出席者のだれもBobのその後を知らないとのことでした。
 Bobが生きて元気に暮らしているのか、それだけでも知りたいと思っています。彼の89年当時の母国での住所はVisokog Stevana No.25,1100 Belgrade, YUGOSLAVIA
 誕生日は1970年7月26日です。1989年当時の写真もあります。20年近く時間が経った今でも、ふとした瞬間に彼のことが頭を過ぎります。何卒よろしくお願い致します。

高野秀行より
 うーん、旧ユーゴの人ですか……。
 私もタイのチェンマイにいたとき、旧ユーゴのセルビア人に日本語を教えていたことがあります。有名な女子テニス・プレーヤーのモニカ・セレシュと同じ村の出身で、セレシュの両親の結婚式に出たと言ってました。彼はまだセレシュが生まれる前か、幼児のときに国を出て、カナダの市民権を取得していました。ちょうど当時、ユーゴが内戦を経てどんどん解体され、「自分の国籍が何であるのかわからない」と言ってました。
 また、「タイに住む欧米人仲間でも、『あいつはセルビア人だから』と言われ、誰も口をきいてくれなくなった」と嘆いていました。当時、「セルビアが悪者」という図式が描かれていたからです。(この辺のことは、高木徹『戦争広告代理店』(講談社)という本に詳しく書いてあります。)
 でも、彼は外にいたからまだいい。もし、国内にいたら、あなたが言うように、想像を超えた苦難を味わっていたかもしれません。
 ボブさんはベオグラードにかつて住んでいたとのこと。現在セルビア共和国の首都ですね。そこに行けば意外にあっさりわかるのかもしれないし、全く見当もつかないかもしれない。
 祖父の代からベオグラードに住むセルビア人だったら手がかりがあるかもしれませんが、もともと親はよその土地の出身でたまたま仕事の関係か何かでそこに家があっただけとか、先祖代々ベオグラードの人でも民族がちがって、セルビア系じゃないと住みにくいとかで、一家そろって他国へ移住してしまっているかもしれない。
 暗示的な夢は気になりますが、実際はどうなのか、これまた想像もつかないですね。
 元気に暮らしていればいいのですが……。
メモリクエスト Backnumber 〜前号の依頼
ファイル 008:喜望峰ツアーのガイド
[探して欲しい記憶の時間]2000年6月
[国名]南アフリカ共和国
[都市名]ケープタウン
[探して欲しい記憶の人名、物]人名不明。
ケープタウン市内から喜望峰への観光ツアーのガイド(黒人男性)

[探して欲しい記憶の詳細]〜依頼内容を読む
ファイル 007:マハラジャの息子だと言っていた留学生
[探して欲しい記憶の時間]1992年11月
[国名]日本
[都市名]埼玉県川越市
[探して欲しい記憶の人名、物]サイエド・カマラン
[探して欲しい記憶の詳細]〜依頼内容を読む
ファイル 006:ロンドンで喧嘩別れしたロシア人
[探して欲しい記憶の時間]1992年9月
[国名]ロシア
[都市名]???
[探して欲しい記憶の人名、物]アルフレッド
[探して欲しい記憶の詳細]〜依頼内容を読む
ファイル 005:乳房の形をしたアフリカの食べ物
[探して欲しい記憶の時間] 2000年6月
[国名]ベルギー
[都市名]ブリュッセル
[探して欲しい記憶の人名、物]アフリカ料理の一種
[探して欲しい記憶の詳細]〜依頼内容を読む
メモリクエスト Backnumber 〜過去の依頼
 以下の応募フォームから、あなたの「記憶」をご応募ください。
 これは! というものは、高野秀行がその記憶を詳細に取材した後、実際に探しに出かけます。
 その記憶の状況、人の姿形、場所、時間など、なるべく詳しく教えてください。

※ご応募いただいた記憶は、毎号、高野秀行さんのコメント付きで紹介させていただきます。また、高野さんの触手が動いた記憶については、さらなる詳細を聞きに取材に伺います。
集英社文庫HPにて旅日記連載中!高野秀行オフィシャルサイト