「インドで迷子になった私を助けてくれた親切なおじさん」「タイで大喧嘩したけど、なぜか気になるアイツ」、あるいは「旅先で話を聞いたけれど、ついに食べることができなかった料理」などなど、時間を経た今となっては、もう一度、再会できる可能性はゼロに等しい「誰か」や「何か」……。
 あなたの記憶にこびりついて離れない大切な記憶を教えてください。どんな異国でも辺境地でも構いません。
 一年間の募集期間の後、応募された記憶の中から一つを選んで、ノンフィクション作家・高野秀行が実際に探しにでかけます!! 下の「応募する」ボタンから、ぜひご応募ください!
〜読者から依頼された記憶〜
ファイル 012:小学生の頃に母と二人で爆笑した本
[探して欲しい記憶の時間]1980年1月
[国名]日本
[探して欲しい記憶の人名、物]物語(本)
[探して欲しい記憶の詳細] 
 私は1976年生まれです。小学生くらいの頃なので、80年代だと思いますがよく内職仕事をしている母親に物語を朗読していました。そのなかで特に印象的で、母と二人で大爆笑した本を探しています。特徴は主人公も小学生くらいの女の子で、母親がどこか、たしか工場などで仕事をしています。母は髪の毛が薄いことを気にしていて、あるときかつらを購入します。授業参観のとき、そのカツラをつけてきた母が、先生に挨拶をするときにいつも仕事中かぶっている帽子と勘違いしてカツラを外して挨拶をしてしまう。という場面がありました。娘はすごく恥ずかしがっているという内容でしたが、物語全体としては一所懸命な母が大好きだったというものだったと思います。この本を朗読しながら母と大爆笑しました。私の母親はすでに亡くなり、そのハナシをできる相手がいないので、その本を読みながら母を思い出したいのですがあまりに記憶が少なく探せません。ぜひよろしくお願いします。

高野秀行より
 この企画を立ち上げたときには思いもよらぬ依頼がいくつか来ていますが、これもその一つ。でも、なかなかいい話です。
 なので、あっちこっち手を尽くして探しましたが、まだ見つけられないでいます。

 成子さん、もう少し手がかりが何かないでしょうか。
 例えば;
1)どこで手に入れた本なのか? 買った? 図書館で借りた? 友だちに借りた?
2)どんな形状の本なのか? ハードカバー? ソフトカバー? 厚い本? 薄い本? 単行本? 文庫本? 雑誌に近い感じ? 学校の国語の副読本みたいなもの?
3)どんな構成の本なのか? 一人の作家が書いた長編? 短編集? いろいろな作家のアンソロジー?
4)話の内容はもう少し思い出せない? 日本の話? 外国の話?
5)どんな雰囲気の題名?「読んだ覚えがある。それは『○○の○年生』とかいう題名だった気がするけど……」という人がいたのですが、どうでしょう? そんなような題名だったでしょうか?

 なんでもいいので、思い出せたら教えてください。
 私も全力を尽くします。
この依頼に対するコメント
ファイル 013:エジプトで出会った(ちょっと怪しげな)アッリ
[探して欲しい記憶の時間]2005年11月
[国名]エジプト
[都市名]カイロ
[探して欲しい記憶の人名、物]アッリ
[探して欲しい記憶の詳細] 
 ピラミッドと見たいという夢を叶えるため、一人旅をしていたときのことです。朝から晩までピラミッドを眺めてその姿を満喫したあと、カイロへ行きました。
 カイロの街をフラフラしているときに声を掛けられたのが、アッリという男です。当時24歳と言っていたと思います。今思えば怪しいのですが、妙に親切な男で、一緒に食事をしたり(割り勘)、市場に連れてってくれたり、カイロの中心地から車で30分くらいの場所にある家まで案内してくれました。エジプト人の暮らしなんかも垣間見え、まあ楽しい思い出なのですが、しかし……なんだか疑問が拭えないのです。
 その日は、丁度、ラマダーンの明ける日でした。買い物したいけど、両替しないと金がないしラマダンだからできないと言ったら、周りにいた仲間のようなヤツらに声をかけて、すぐ両替してくれました。しかし、いくらかは記憶にありませんが、1万円くらいじゃないとできないと言われて、分厚い札束に替えられてしまったのですが、ちょっとしたお土産でそんな金は要りません。この時点で、ちょっと怪しいと思い始めました。街に怪しい知り合いも多すぎるように思い始めました。夜、二人で歩いていたら、ポリスに捕まって、なぜか二人ともパトカーに謔ケられて尋問されました。エジプト語? で全然分かりませんでしたけど。アッリ曰く、食事の割り勘の金をやり取りしていたのを麻薬
の売買と勘違いしてやがる、とのこと。人生終わったと思いました。
 その後、怪しいと思いながらも意を決して彼の家にも行ったのですが、自分で建造中とのことで、確かに、流しがなかったり大変そうでした。
 その夜の最後の最後で、家を造るための金を猛烈にせびられたのです。金がない、と言ったら、さっきあれだけ両替した金があるじゃないか! と。周囲は灯りもない真っ暗なところで、ここで喧嘩したらホテルに帰ることもできないと思って、渋々ながら、多少の金を援助しました。ちょっと人が変わったようでした。
 あちこちに連れていってくれて楽しかったけど、この金が欲しさにやったことではないか、と。さらに、もともとそんなことばっかりやってる詐欺師ではないか、とも。ポリスにも知られた札付きだから捕まったのかも、と。なんか気にくわないんです。女の子だったら、レイプされてたかも。
 カイロに行けば、きっといつも同じように獲物を探して気長に騙しているような……捕まえて聞いてみてもらえませんか? 旅の良き思い出ではありますが、なんかこう、一点の染みが残った感じなんです。

高野秀行より
 一読して、何も「疑問」は感じませんでした。
 あなたがおっしゃるように、もともと金ほしさにやったのでしょう。そんなことばっかりやっている詐欺師でしょう。きっといつも同じように獲物を探して気長に騙しているのでしょう。

 家を造る金がいるとのことですが、エジプトの家は常に「建造中」とよく聞きます。お金ができたら、少しずつ設備や階を足していくのです。だから、それは「ふつうの家」だった可能性が高い。

 また、仮にそれが本当に建造中でお金がないと言っても、どうして日本人の旅行者にもらおうと思うのですか? まっとうな人間はそんなことをしませんよ。

 まあ、金額も大したことはないし、”詐欺師”というほどではなさそうです。単なるチンピラといったところじゃないでしょうか。詐欺師なら、もっと手の込んだ技を使って、旅行者を身ぐるみはがしますよ。

 ツアーで行ったり、あるいは治安に神経をつかって安全に旅をしている人は、こんな人間には出会えません。
 一人で好奇心の赴くままに旅をしていたからこそ、こんな変な奴にも出会えたわけです。そこには、あなたもおっしゃるようにエジプト人の生の声や生の生活がいろいろと見聞きできたことでしょう。
 それで十分ではないですか。

 もし、それでもあなたがアッリのことが気になるというなら、自分でもう一度行くことをオススメします。
 もうあなたはアッリの手口を知っているわけだし、注意して付き合えば、エジプトの裏社会が見えて面白いかもしれません。
メモリクエスト Backnumber 〜前号の依頼
ファイル 011:盛岡バスセンターで出会ったおばあちゃん
[探して欲しい記憶の時間]1999年5月
[国名]日本
[都市名]岩手県盛岡市
[探して欲しい記憶の人名、物]盛岡バスセンターで私にメッセージをくれたおばあちゃん
[探して欲しい記憶の詳細]〜依頼内容を読む
メモリクエスト Backnumber 〜過去の依頼
 以下の応募フォームから、あなたの「記憶」をご応募ください。
 これは! というものは、高野秀行がその記憶を詳細に取材した後、実際に探しに出かけます。
 その記憶の状況、人の姿形、場所、時間など、なるべく詳しく教えてください。

※ご応募いただいた記憶は、毎号、高野秀行さんのコメント付きで紹介させていただきます。また、高野さんの触手が動いた記憶については、さらなる詳細を聞きに取材に伺います。
集英社文庫HPにて旅日記連載中!高野秀行オフィシャルサイト