「インドで迷子になった私を助けてくれた親切なおじさん」「タイで大喧嘩したけど、なぜか気になるアイツ」、あるいは「旅先で話を聞いたけれど、ついに食べることができなかった料理」などなど、時間を経た今となっては、もう一度、再会できる可能性はゼロに等しい「誰か」や「何か」……。
 あなたの記憶にこびりついて離れない大切な記憶を教えてください。どんな異国でも辺境地でも構いません。
 一年間の募集期間の後、応募された記憶の中から一つを選んで、ノンフィクション作家・高野秀行が実際に探しにでかけます!! 下の「応募する」ボタンから、ぜひご応募ください!
〜読者から依頼された記憶〜
ファイル 022:タイの次期国王になる予定(!?)の占い師
[お名前]ゆっこりん
[性別]女性
[探して欲しい記憶の時間]2006年5月
[国名]タイ
[都市名]バンコク
[探して欲しい記憶の人名、物]PRATYA KIRNNOKKUM
[探して欲しい記憶の人物の性別]男性
[探して欲しい記憶の詳細] 
 フライトの関係で一日だけ立ち寄ったバンコク。
 中心部をふらふら歩いていて出会ったのは、画用紙に描いた手のイラストと「90%、60B」の文字を背景に路上に座っている占い師の兄ちゃん。片言の英語と、私の持っていた日=タイ語会話集で私の人生を占ってもらうことに。
 彼は私の誕生日と手相を見てから、
「これに気をつけなさい。これは君にとって良くない」
 と、私が持っていた会話集の、ある単語を指さした。
 ……絶句した。
 なぜなら、それは当時の私の悩みそのもので、誰にも言えず、悶々としていた事をずばり当てられたからである。これはあなどれない!
 初めは冷やかし半分だったが、次第にグイグイと彼の言葉に引き込まれていった。
 彼は淡々と今後の私の人生の方向、そしていくつかのアドバイスを私に教えてくれた。そして私は、占い師によって、心が癒されるというのがなんとなく分かるような、不思議と穏やかな気持ちになれた。
 最後に彼は、
「人生の神が導いたときに君はまたタイに来て僕と会うことがあるだろう」
 と締めくくり、私は彼のノートに住所と名前を書いた。
 1日たらずの滞在のバンコクで、彼と出会えた偶然に感謝しながら。
 ……しかし、本題はここからである。
 今度は、私が彼に連絡先を教えて欲しいと頼んだところ、彼は少し困った顔になって、それは出来ないと言う。
「なぜなら、僕は住所を持っていないから……」
 なんと、彼はホームレスなのであった!
 そして、その理由が以下である。

   僕の占いによると、
   タイ王国の次期国王は
   僕になるであろう、という答えが出ている。
   しかし、僕が次期国王になることをよしとしないマフィア・ポリスなどが
   常に僕の命を狙うために動いていて、
   一ヶ所に留まることは、命を落とす危険がある。
   そのため、僕は彼らを常に避ける必要があり、
   あるときは草むら、あるときは路上、いろんな場所を転々としている。
   眠っていたときに襲われて、頭にひどい怪我をしたこともある。
   だけど、これも国王が代わるまでの辛抱だ。
   今回、君が僕とこうして会えたことはラッキーだよ。
   いつの日か僕が国王になったら君に連絡をしよう。
   そして、君に様々な物を与えよう。
   その日が来るのを待っているがよい……。

 ……はあ?
 思わずぷぷぷっ、と笑いそうになる自分と戦いながら彼の話を聞いたものの、単なるホラ吹き男と断定するにはあまりにも私の人生をズバリと当てた彼。
 タイの国王が代わるその日を心待ちにしながらも、彼は無事にマフィアやポリスから逃げているだろうかと、ときどきふっと気にかかるのです。
 もし彼にまた会えるのならば、ホームレス出身の新国王が即位する際にはぜひともお目にかかりたいので、
「日程が決まり次第、連絡下さい。職場に早めに勤務調整を出したいので」
 と伝えていただけますか。
 彼の名前は「PRATYA KIRNNOKKUM」
 ちなみに、帰国後、待てど暮らせど、彼からの連絡は無し。
 しかし、私の人生は彼の予言通りになんとなく進んでいる気がします。

高野秀行より
 いやあ、ぶっ飛んでますねえ。
 まず最初の「90%、60B」って何ですか? ゆっこりんさんもよくそんな怪しい占い師に声をかけたもんです。感心します。
 でもあなたの悩みをあらわす一言をずばり当てたんでしょう? どんな言葉だったのか、それが気になりますね。しかも人生は予言に近く進んでいるとか。
 しかし、占い師というのは普通自分を占わないし、占っても人に言いませんよね。それをお客に堂々と宣言してしまうというのは初めて聞きました。しかも「国王になる」でしょ?
 すごいことですよ。タイで国王といえば、日本の天皇以上の存在ですからね。不敬罪もちゃんとあるし、「僕、そのうち国王になるんだ」と言うだけで警察やマフィアに狙われて不思議はないです。
 まあ、「頭がおかしい」というだけなのかもしれませんが、占い師として凄腕なら話は別です。私も最近、人生の岐路に立たされている気がするので、是非進むべき道を教えて欲しいですね。出会ったのがたった一年半前というのもそそります。見つけられる可能性が高いですからね。候補に入れておきましょう。
メモリクエスト Backnumber 〜前号の依頼
ファイル 020:香港で出会った佐藤先生
[お名前]Kana
[性別]女性
[探して欲しい記憶の時間]1988年1月
[国名]香港特別行政区
[都市名]香港
[探して欲しい記憶の人名、物]佐藤先生
[探して欲しい記憶の人物の性別]女性
[探して欲しい記憶の詳細]〜依頼内容を読む
ファイル 021:インドで一週間を共に過ごしたハウスボートの一家
[お名前]小川祥子
[性別]女性
[探して欲しい記憶の時間]1995年9月頃
[国名]インド
[都市名]シュリナガル
[探して欲しい記憶の人名、物]ハウスボートの一家
[探して欲しい記憶の詳細]〜依頼内容を読む
メモリクエスト Backnumber 〜過去の依頼
 以下の応募フォームから、あなたの「記憶」をご応募ください。
 これは! というものは、高野秀行がその記憶を詳細に取材した後、実際に探しに出かけます。
 その記憶の状況、人の姿形、場所、時間など、なるべく詳しく教えてください。

※ご応募いただいた記憶は、毎号、高野秀行さんのコメント付きで紹介させていただきます。また、高野さんの触手が動いた記憶については、さらなる詳細を聞きに取材に伺います。
集英社文庫HPにて旅日記連載中!高野秀行オフィシャルサイト