「インドで迷子になった私を助けてくれた親切なおじさん」「タイで大喧嘩したけど、なぜか気になるアイツ」、あるいは「旅先で話を聞いたけれど、ついに食べることができなかった料理」などなど、時間を経た今となっては、もう一度、再会できる可能性はゼロに等しい「誰か」や「何か」……。
 あなたの記憶にこびりついて離れない大切な記憶を教えてください。どんな異国でも辺境地でも構いません。
 一年間の募集期間の後、応募された記憶の中から一つを選んで、ノンフィクション作家・高野秀行が実際に探しにでかけます!! 下の「応募する」ボタンから、ぜひご応募ください!
〜読者から依頼された記憶〜
ファイル 024:異常に親切な社長と八兵衛
[お名前]W青年社長
[性別]男性
[探して欲しい記憶の時間]2000年6月頃
[国名]韓国
[都市名]ソウル市プンジョンホテル近く
[探して欲しい記憶の人名、物]男性2人組(中小企業の社長と水戸黄門の八兵衛風)
[探して欲しい記憶の詳細] 
 高野先生どうも。
 私にもいましたよ、記憶の彼方の変な人。
 2000年、ちょうど転職したばかりの出版社で入社4ヶ月なのに韓国旅行という、棚ボタな社員旅行があった時のことです。
 成田エキスプレスから飲んだくれていた私は、金浦空港へ着いた記憶もあやふやで、途中の観光名所も左手にハイトビールを握りしめながらぼんやりと過ごし、プンジョンホテル(豊田ホテル)へとチェックインしました。
 シャワーを浴び、同期入社のNさんと「屋台でも食いましょう」とホテルを出て、すぐ目の前に並んでいた何軒かの一つに入りました。
 二人ともよくわからないまま、隣の人が食べてるチヂミやチゲを真似してビールをあおっていると、不意に声をかけられました。
「日本の方ですか?」
 酔っぱらっていたので、日本語だったのか英語だったのかは定かではありませんが、眼鏡をかけた二人が隣のテーブルから声をかけてきました。
 ひとりはハンドバックを小脇に抱えた中小企業の社長風情、もうひとりは水戸黄門の八兵衛みたいな感じです。
 社長は日本語は挨拶を知っている程度で、あとは英語で語りかけてきます。Nさんは英語ができるので社長とあれこれ話し始めました。
 一方、私はその頃、英語も韓国語も興味がなくてんでだめ。八兵衛も同じ様子。
 仕方がないので社長とNさんが(どうやら)熱い話をしてる横で、私と八兵衛は身振り手振りトーク。お互いの意志が通じると「乾杯!」の繰り返しで友情を深めました。
 そうこうしてるうちに、社長は私たちをカラオケに誘ってきました。
「これはひょっとすると……女性が出てきて身ぐるみはがされちゃうっていうやつでは?」と思いましたが、Nさんが「いっぱいだけ飲んで帰ろう」というし、八兵衛が私をしきりに誘ってくれるので、ついていくことに。
 そのカラオケ屋は地下にあり、さすがのNさんも「あちゃー!」と思ったようです。しかも店にはお客が誰もいません。。。
 さすがに覚悟を決め席を立とうとすると、ステージではNさんがイエローモンキーを熱唱してます。仕方がないので私も「北国の春」やら「釜山港へ帰れ」やらを歌い、社長たちと歌合戦を始めました。
 それっぽいアクションが何一つないまま時間が過ぎ、気がつくとカラオケ屋は人であふれてるし、何だかにこやかなままお開きに。帰り際、彼らは満面の笑みで「今日は本当に楽しかったです。もしよかったら明日も一緒に飲みましょう!」と固い握手をして帰っていきました。
 部屋に戻り、「なんだかよくわかんないけどおもしろかったね」とシャワー上がりのNさん。
 しかし、まだ終わりではありませんでした。
 私もシャワーを浴び、寝てるNさんを横目にテレビを見ながら仕上げのビールを飲んでると、「コンコン」とノックの音。先輩の襲撃かとドアをあけたら、そこには八兵衛が。しかも手には山盛りのフルーツ皿。

私「今日はどうも」(身振り手振り)
八「こちらこそ。で、これをあなた達に」(身振り手振り)
私「え、なんで?」(身振り手振り)
八「社長がこれをNさんにって」(身振り手振り)
私「Nさんはもう寝てるから、伝えておきますよ」

 フルーツ皿を渡すと、「また明日」のようなことをいい八兵衛は帰っていきました。
 翌朝、Nさんに昨夜の事情を話し、フルーツを食いつつも二人とも全く訳がわからないので、親切心なのかもしれないけれど、とりあえず今日は怖いので屋台はやめてどっかに行こう」と、市場の方へ出かけることにしました。
 あれはいったい何だったのでしょうか。
 社長と八兵衛は日本人と飲み食いしたかったのでしょうか。
 変な日本人をからかってみたかったのでしょうか。
 それとも、私たち二人当時金髪だったので売れない日本のミュージシャンと勘違いされたのでしょうか。
 以来、プンジョンホテルを界隈を訪れることはありませんが、韓流ブームもまだまだで、日韓ワールドカップも開催前。対日感情もそんなによい頃ではなかったような気がしていたので、余計に印象に残っています。
 この二人組を見つけるのは、おそらく当の私でも無理なんじゃないかと思うわけですが、「金髪で変な日本人だったら、韓国の人はあたたかく迎えてくれるかもしれない」
という仮説は、現在金髪にするわけにもいかない私では検証のしようがなく、ぜひ金髪ファンキー辺境作家として実地調査に当たっていただければと想う次第です。
 完全再現のために二人必要とあらば、金髪ズラで私も同行しますので、どうぞよろしくお願いします。

高野秀行より
 依頼文を読むかぎり、単にすごく親切なふつうの韓国の人たちだと思うのですが、念のため、韓国人の友人に感想を訊いて見ました。彼は日本に留学経験があり、日本をよく知っていて、日本語も堪能です。
 以下、友人のコメントです。

「依頼者の内容をよんでみるとまず、全体的な印象では金目当てとかではなく、ただ、お酒も飲んだことですし、ちょうど気持ちよく酔っ払って、日本人と遊びたかっただけの優しい韓国人だったと思います。その根拠として、まず、

1.韓国では知らない相手でも気が合うと一緒に飲み歩くということはそれほど珍しいケースではないありません。真っ当な人間でも充分ありうる話です。

2.韓国ではお酒をおごったりすることも珍しくありません。むしろ割り勘で飲むことの方が少ないですね(私の友達でも隣のおじさんにおごられたことがある人は何人もいます)。

3.金目当てでカラオケなどに連れ込む狙いがあったとするならば、そこは必ず日本語もそこそこしゃべれる女の子がいて、その女の子がお酒をどんどん勧め、後にどんでもない金額を請求するというパータンですね。女の子も出ないようなお店でお金を取られた、という話は聞いたことがありません。

4.金を狙ってのことだとすると、そのパターンとしてはその日のうちですね。何日もかけて、親しくなり、それから、何かを企むというのはあまりにもリスクがおおきすぎるので、多分やらないでしょう! 相手は観光客ですよ、インドのように一ヶ月も、あるいはせめて一週間くらい滞在するのであれば別なんですが、日本人の観光客ってその殆どが二泊三日ですよね。それを何日もかけて、何かを狙うというのはあまりにも無謀であると思われます。

5.何かを企んでいるとしたら、もっと日本語がうまいはずです。企むというのは計画をたてるという意味になりますので、もうちょっと日本語ができる人じゃないとこういった計画はたてられないでしょう! また韓国では日本語がしゃべれる人間は珍しくないので、やろうと思えばもうちょっと日本語ができる仲間を探し出すこともできるはずなんです。

以上の理由で私はただの親切な人だったのだろう、と思うのです」

 ……とのことです。やっぱりそうですよね。
 また金髪に関してはこう言っています。

「2000年というとその当時、韓国でも金髪というのは全然珍しくなかった。依頼人の二人は金髪の変な日本人ということですが、どういうふうに変だったのか、わかりませんが、金髪だから変に思われることはまずないと思います」

 もっとも、「ただの親切な人」かどうか、私の友人もちょっと自信がないようです。こんなことも言っています。

「依頼人の話の中で少し気になるのはホテルの部屋まで果物を届けた、というところなんです。そこまで、親切だというのは韓国でもやはり、相当珍しいですね。これは普通じゃないです。これはちょっと納得いかないですね。
あるいは、依頼人は覚えていないが、韓国人は彼らと遊ぶのが、本当に楽しかった! ということですかね……」

 まあ、結論としては、
「その韓国人二人組はただの親切な人であるが、W青年社長さんたちと遊んだのが本当に楽しかった!」
 ということになりそうです。

 実は私も三ヶ月くらい前、プンジョンホテルの近くの小さな飲み屋に行ったところ、店の人にすごく親切にしてもらい、「裏があるんじゃないか」と思いました。
だって、日本人の観光客やビジネスマンがうじゃうじゃしているところですからね。
 でも結局「ただふつうにすごく親切なだけ」と判明しました。

 その二人組を探すのもいいですが、韓国にもう一度行かれて、あちこち旅行されてはいかがですか。もっともっと親切な人に出会える可能性が高いと思いますよ。
メモリクエスト Backnumber 〜前号の依頼
ファイル 023:腹が立ちすぎてヘッドロックをかましたアフリカ人
[お名前]森川貴彦
[性別]男性
[探して欲しい記憶の時間]1997年4月
[国名]マリ共和国
[都市名]バンジャガラ
[探して欲しい記憶の人名、物]白木ミノル似のかなり小柄なガイド
[探して欲しい記憶の人物の性別]男性
[探して欲しい記憶の詳細]〜依頼内容を読む
メモリクエスト Backnumber 〜過去の依頼
 以下の応募フォームから、あなたの「記憶」をご応募ください。
 これは! というものは、高野秀行がその記憶を詳細に取材した後、実際に探しに出かけます。
 その記憶の状況、人の姿形、場所、時間など、なるべく詳しく教えてください。

※ご応募いただいた記憶は、毎号、高野秀行さんのコメント付きで紹介させていただきます。また、高野さんの触手が動いた記憶については、さらなる詳細を聞きに取材に伺います。
集英社文庫HPにて旅日記連載中!高野秀行オフィシャルサイト