「インドで迷子になった私を助けてくれた親切なおじさん」「タイで大喧嘩したけど、なぜか気になるアイツ」、あるいは「旅先で話を聞いたけれど、ついに食べることができなかった料理」などなど、時間を経た今となっては、もう一度、再会できる可能性はゼロに等しい「誰か」や「何か」……。
 あなたの記憶にこびりついて離れない大切な記憶を教えてください。どんな異国でも辺境地でも構いません。
 一年間の募集期間の後、応募された記憶の中から一つを選んで、ノンフィクション作家・高野秀行が実際に探しにでかけます!! 下の「応募する」ボタンから、ぜひご応募ください!
〜読者から依頼された記憶〜
ファイル 025:ラオスで出会ったさすらいのシンガー
[お名前]すぎも
[性別]女性
[探して欲しい記憶の時間]2005年11月
[国名]ラオス
[都市名]ムアンゴイ
[探して欲しい記憶の人名、性別]さすらいの歌い人(現地の人)、男性
[探して欲しい記憶の詳細] 
 ラオスにあるムアンゴイという川沿いの小さな町から更に一時間ほど歩いたところに、バンナという村があります。
 ちょうど私が訪れた11月はもち米の収穫期で、招かれた田んぼの上で村人たちとラオラオを酌み交わしてました。
 そこへふらっとやって来た男性が探してほしい人物です。

 肩にラジカセをひょいと乗せた彼の姿を見止めた村人たちは、半ば無理矢理輪の中に引き込みました。
 何か短く話した後、突然、彼は朗々と歌い始めました。
 よく聴けば、歌詞は英語。
 そして途中、「今夜は来てくれてありがとう!」的な台詞を英語でしゃべり、再び歌。
 口をあんぐり、驚いている私に村人たちは満足げな笑顔。
 その後もラオス語と思しき歌を歌い、それにあわせて村の男たちが掛け声を交えながら稲を叩きつける――今も忘れられない光景です。
 後日、更に奥まった村で結婚式があったのですが、外国人である私は出席できず部屋の中で遅くまで続くどんちゃん騒ぎに耳を傾けていました。
 すると、鼻にかかった彼の歌声が聴こえてきました。
 声は遠いですが密かに録音もしてみました。
 おそらく彼は一時間以上歌い続けていたでしょう。

 英語のできる村人によると、彼の目はほとんど見えず(私が見た所によると足も悪そう)父も母もなし。
 村人の財産である畑も持たず、村を泊まり歩き、行事や祭に出向いては歌で生計を立てているそう。
 4曲歌って1000キープ。イベントがあるとかなりの金額になるんだとか。
 それから、おそらく彼はラジカセから流れるテープの音をそのまま覚えられる能力の持ち主だと思います。
 初めて会ったとき歌ってくれた英語の歌もライブのテープか何かで、そっくりそのまま台詞までコピーした、そのように聴こえました。

 次の目的地も帰国日すら定めていない旅の中とはいえ、結局いろんなしがらみからは解放されていない我が身。
 ラジカセを肩に乗せ、身一つ、自分の喉だけで生きている彼は、どんなバックパッカーよりも自由でした。
 もう一度、彼の歌声を聴きたいです。

高野秀行より
 盲目でさすらう歌い人。こんな人がいるんですねえ。昔の吟遊詩人みたいでもあります。私はいまだかつてお目にかかったことはありません。
 ましてやラオスの田舎で、村の人たちと田んぼで酒を酌み交わしながら聞けば、さぞかしいいでしょう。
 私もぜひ堪能したいところですが、ご依頼には困惑してしまいますね。だって、すぎもさんが「もう一度、彼の歌声が聴きたい」のでしょう? 私が彼を見つけてもすぎもさんが聴けるわけでないし、「今ここにいます!」と言っても、すぎもさんが来られないでしょうし、来てもその頃には彼はまた別の場所に行ってしまうだろうし。
 彼の歌を録音することはできますが、あくまで「生」がいい人でしょうから、それもあまり意味はなさそうです。
 依頼とは関係なく彼の歌は聞きたいと思うのですが……。
メモリクエスト Backnumber 〜前号の依頼
ファイル 024:異常に親切な社長と八兵衛
[お名前]W青年社長
[性別]男性
[探して欲しい記憶の時間]2000年6月頃
[国名]韓国
[都市名]ソウル市プンジョンホテル近く
[探して欲しい記憶の人名、物]男性2人組(中小企業の社長と水戸黄門の八兵衛風)
[探して欲しい記憶の詳細]〜依頼内容を読む
メモリクエスト Backnumber 〜過去の依頼
 以下の応募フォームから、あなたの「記憶」をご応募ください。
 これは! というものは、高野秀行がその記憶を詳細に取材した後、実際に探しに出かけます。
 その記憶の状況、人の姿形、場所、時間など、なるべく詳しく教えてください。

※ご応募いただいた記憶は、毎号、高野秀行さんのコメント付きで紹介させていただきます。また、高野さんの触手が動いた記憶については、さらなる詳細を聞きに取材に伺います。
集英社文庫HPにて旅日記連載中!高野秀行オフィシャルサイト