メモリークエストの依頼応募が終了、いよいよ実際に探しに行く対象物の絞込みに入った。まずは有力な(というか面白そうな)依頼をしてきた人との面談である。
第一弾は、「
ファイル018:古今東西のエロ画をコレクションしていたインド系おやぢ」という依頼をくれた女性Nさん。
編集部がセッティングしたのは都内の高級ホテルのラウンジ。着飾ったアッパーな(と私には見える)人々が華やかに歓談しているなか、私はこの前ミャンマーの奥地で牛にしゃぶられてボロボロになったユニクロのフリースに、はきすぎて膝の抜けた黒のジーンズである。場違いもいいところだ、どうして編集者はこんなところを面談場所に設定したんだと腹立たしく思っていたところ、Nさんが現れた。ひらひらした(フリルというのか?)袖の白いブラウスに黒のぴったりしたジャケットを着こなしたNさんは、顔立ちも立ち振る舞いも上品そのもの、私が思い描く「アッパー」な女性で、なるほどこの人にはぴったりの面談場所だったのかと編集部の想像力に少し感心した。
ところがである。話が始まるとNさんはとてもそんなタマじゃなかった。まず、Nさんは「
ファイル017:日本に行ったときの身元保証人を必死で探していたアナン」の依頼者でもあった。この依頼は、物語としては全依頼の中で最高に面白くて笑えた。タイとミャンマーの国境あたりに行ったとき、いかにも悪徳そうな警官に無理やりカラオケに誘われ、どうしても断りきれずに出かけたら、実は依頼者は「合唱部出身」であり、ノリノリで歌いまくってその警官からも一週間分の宿泊費に相当する「おひねり」をもらってしまった……とかいう、もうわけのわからない展開に爆笑したものだ。
文章がすごく上手なので聞けば、「旅行と料理について記事を書いているライター」という。メジャーなガイドブックを何冊か、さらには女性誌や新聞でも記事を書いている腕っこきのライターさんなのだった。
しかし文章よりも凄いのは今までやってきたことだ。「インド系おやぢが収集している古今東西の春画」についてはほぼ話どおり。写真はまったくなくて純粋に春画であること、「フランス」「日本」「イギリス」……というように国別になっていたことなどがわかったが、あとはおおむね依頼文のとおりだった。もちろん古今東西の春画は興味深い。ぜひ探しに行きたい。だが、Nさんの話は止まらない。
「もう一つ、探してほしいものがあるんです!」と言うのだ。
「なんですか?」
「マダガスカルの割礼です」
「割礼?」