時を経た今となっては、再会できる可能性はゼロに等しい「誰か」や「何か」……。あなたの記憶にこびりついて離れない大切な記憶を教えてください!
 そんな呼びかけでスタートした「メモリークエスト」が、一年間の応募期間を終え、ついに本格始動しました。 「古今東西のエロ画を集めていたインド系のおやじ」を探してください!
「牛が主役(!?)の小説」を探してほしい!
「タイで出会ったスーパー小学生」にまた会いたい!
 などなど、全26通の応募の中から高野秀行が実際に探しに行くのは……どれだ!?
メモリクエスト Backnumber 〜過去の依頼
 第二回の面談は「ペルーに忘れたセーターを探してほしい」(※ファイル026:ペルーで忘れたセーター)という人物。
 おいおい、それだけのためにオレをそこまで行かすのかよ! と思わず突っ込みたくなるも、そこまで抜けぬけとした依頼は初めてで興味津々。いったいどんな人かと思って、アポイントの場所である神保町の喫茶店で待っていると現れたのは……。
 なんと知り合いだった。酒飲み書店員の会とも呼ばれる「千葉会」の元メンバーのMさん。酒飲み書店員とは、本を愛しその次に酒を愛すという書店員と出版社営業の人たちの集まりで、彼らが「今まで評価されていない面白い文庫からベストセラーを作ろう!」として始めたのがいわゆる「酒飲み書店員大賞」で、なぜか私の『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)が第一回の大賞に選ばれた。
 私はその栄誉を讃えられ、酒飲み書店員の飲み会(あー、ややこしい)に招かれた。そのとき、ある書店員の人にサインを求められた。私はサインなど不慣れなので、汗をかきかきマジックペンを動かしていたら、その人は隣で麺をすするのに夢中で、自分で頼んだサインを見向きもしていなかった。「おい、その態度はないだろう!」と周りから突っ込まれて、慌てて麺を飲み込んでいたオトボケさんが、今ここにいるMさんだ。
 現在は取次ぎ、つまり本の問屋さんに勤めている。
「あんたか、セーター探せとかいう人は」と私が呆れてもMさんは全然動じず、
「あれは僕が春日部の『西海岸』という古着屋で買った貴重なセーターなんです」と本気で訴える。なんでも、Mさんは「基本的に服は買わない」という。

Mさんが探してほしいセーターの写真! ……よく見えません(涙)

「優先順位として、まず家賃と光熱費、その次に本と食い物で、えーと、あとは……どうでもいいですね」と端から人生を投げている模様。もっとも私も住むところと最低限の食費と酒と本があればよくて、服は基本的にユニクロとUSバンバンかジーンズメイトだから(ともにカジュアル服の量販店)、気持ちはよくわかる。
 でも、「西海岸」なる古着屋で買った千円くらいのセーターがそんなに大事なのか? そう訊くと、Mさん、「何も期待しないで店に行ったらいいものを見つけた。つまり掘り出し物なんです。得した気分なだけに、ろくに着ないでなくしたら『すごい損した』って感じになって……。せめて、冬の間は着たい」と、相変わらずバリバリに自分中心モードを崩さない。「ネタ」として言っているのか本気なのか、さっぱりわからないところが不気味だ。
 なくしたのはペルーの古都クスコの土産物屋。私はクスコに行ったことがあるので、Mさんが行った土産物屋はだいたいどの辺かすぐわかる。おそらく、行けばわかるだろう。

セーターをなくした土産物屋では、このカーディガンを購入

 Mさんが行った店は六歳くらいの子どもが客の相手をしていて、ときどき「日本語でコ・ロ・ス・ゾと言ってにやっとした」という。それが「殺すぞ」だとMさんは主張するが、あまりに唐突で意味はよくわからない。ほんとに日本語なのか。
 Mさんの話では、その店にセーターを置き忘れたのはほぼ確実というから、その子が今も着ているかもしれない。売っぱらってしまったかもしれない。とにかく、そこに行けばわかるだろう。
 Mさんのマイペースというか天然というか、ともかく能天気な口ぶりに終始呆れ果てていた私だったが、呆れついでに「ペルーは楽しかったんですか?」とやや皮肉っぽく訊いたところ、Mさん、そのときだけ急に目を輝かせて「ええ、ほんっとによかったです!」とキッパリ。

Mさんのマイペース・トークは終わらない

 その目を見たとき、私は思いがけず「旅人の原点」を見てしまった。つまり、深い理由も、目的もないけど、とにかく行きたい。とにかくよかった。それだけという感覚だ。
 Mさんのセーターなんかどうでもいいが、もう一度ペルーに行きたいと私も思ってしまったのであった。
第一回面談
「ファイル018:古今東西のエロ画をコレクションしていたインド系おやぢ」
という依頼をくれた女性Nさん。


第二回面談
「ペルーに忘れたセーターを探してほしい」
(ファイル026:ペルーで忘れたセーター)


第三回面談
「アメリカ留学時に現地で仲良くなったユーゴスラビア人の男性を探してほしい」
(ファイル010:ユーゴスラビア紛争に巻き込まれたかもしれないBob)


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