時を経た今となっては、再会できる可能性はゼロに等しい「誰か」や「何か」……。あなたの記憶にこびりついて離れない大切な記憶を教えてください!
 そんな呼びかけでスタートした「メモリークエスト」が、一年間の応募期間を終え、ついに本格始動しました。 「古今東西のエロ画を集めていたインド系のおやじ」を探してください!
「牛が主役(!?)の小説」を探してほしい!
「タイで出会ったスーパー小学生」にまた会いたい!
 などなど、全26通の応募の中から高野秀行が実際に探しに行くのは……どれだ!?
メモリクエスト Backnumber 〜過去の依頼
 第三回目の面談はこの企画の担当である幻冬舎の編集者C君の自宅で行われた。なぜ、依頼者を編集者宅に呼びつけるのかというと、呼びつけるのではなく、依頼者のところを尋ねただけだ。
 実は、依頼者がC君の奥さんなのだ。
 この企画を最初に立ち上げた頃、C君が「僕の嫁さんがお願いしたいことがあるって言ってますよ」と軽く言っていたのだが、すっかり忘れていた。で、全くそうと知らずに依頼を読み、コメントをして、そして最後の候補として面談をしたいという段階で、初めてC君の奥さんYさんの依頼だと発覚した次第だ。
 この企画は知り合いであるとかないとかは全く関係なく、私の興味さえ引けばいいので、喜んで杉並区にあるC君とYさんのお宅を訪問した。
 Yさんは肌のきれいな、表情豊かな美人で、まだ生まれて三ヶ月の赤ちゃんを抱いて現れた。面談の最中は、編集のC君が代わりにだっこして「いい子でちゅねー」などとあやしていた。父親なんだから当然だが、どうにも不思議な取材環境である。
 さて、今回の内容は今までと打って変わってシリアスである。Yさんがアメリカ留学時に現地で仲良くなったユーゴスラビア人の男性を探してほしい(ファイル010:ユーゴスラビア紛争に巻き込まれたかもしれないBob)というものだ。

編集者宅で行われた、メモリークエスト史上最もシリアスな(!?)面談

 私は「もしかしてYさんと当時付き合っていたのでは…」と思い、赤子を抱いているC君の前でYさんが爆弾発言をするのではないかと内心ヒヤヒヤワクワクしていたのだが、幸か不幸かそんなことはなかった。
 まず出会ったのが高校時代で、ホームステイ方式、組織するのもAFSという由緒ある国際団体だったというから当然だろう。1988〜89年、私事ながら私がコンゴで怪獣を探していた頃だ。
 AFSは世界中から留学生を募集し、世界中に送り出す。留学生のほうで選択はできない。だから他の日本人学生の中には南米やフィリピンに送られた人もいるという。Yさんはたまたまアメリカのカンザスで、ユーゴスラビアから来たボブ君も同じだった。

AFS参加者全員の顔写真が掲載されているプログラム(Yさん所有)

 AFSでカンザスに送られた留学生は全部で40人ほどいたが、すべて仲良しだったわけではない。ホストファミリーの家が近いとか学校が同じとか、友だちの友だちとか、なんらかのつながりで仲良くなるらしい。AFSというのが「世界平和」を謳っている団体ということもあり、Yさんたちはみんなで集まっては、パーティを開いてわいわいやったり、「人間は平等、みんな同じなんだね」「国に帰っても頑張ろうね」と真剣に語り合ったという。
 ボブという人は「皮肉屋で友だちが少なかった」という。ハロウィンのパーティのときには、派手なTシャツと赤いパンツをはいて「典型的なアメリカ人」の格好をしたという逸話からもそれはよくわかる。

左から2番目がBob

 Yさんはボブとは家も近く音楽の趣味もあったので仲がよかったが、日本に帰国してから手紙のやりとりは2回だけ、3回目に戻ってきてしまった。そのときはユーゴ内戦が始まっていたのだ。
 不吉な夢を見たこともあり彼の行方を案じていたYさんだったが、「当時はバブルで花の女子大生でしょう? 楽しい、楽しい、と呆気なく汚染されていました」と率直に語る。遠くの戦争より近くの享楽。これはどこでも誰でも同じだろう。
 本格的に気になったのは2002年。ちょうど日韓W杯の開催中(私事ながら私がインド・カルカッタで軟禁状態にされていたときだ)、当時のAFSカンザスの仲間たちが7,8人、ポルトガルのリスボンに集まり同窓会を開いた。集合したのは、ベルギー、オーストラリア、デンマーク、フランス、スイス(亡命チベット人)、メキシコ、ブラジルという面々。そのとき、みんなでそこに来なかった人たちの話をしたが、ユーゴのボブについては誰も情報を持っていなかった。ここで本式に彼が「音信不通」ということが確認されたわけだ。
 たまたまそのとき、フランス人の女の友だちが、同じくカンザスの同窓生で、南ア出身の子を探し当てた話をした。フランス人の彼女はテレビの仕事をしており、仕事で南アへ行ったおり、現地のテレビで「尋ね人さがします」みたいな番組があるのを見つけ、それに頼んで探してもらったという。
 「すごい。日本にもそういうのがあれば……」と思っていたら、なんということか、夫がそんなすごい(かどうかわからないが)企画の担当者になったという、誠に不思議な話である。
 「ボブが今どこでどうしているのか、それさえわかればいいんです」というYさん。
 ひじょうに難しい依頼だが、南アのテレビ局に負けるわけにはいかない。
 「これが見つからなかったら企画としてもマズイし、嫁さんにも立場がない」というC君が赤子をあやしながら鋭い視線を送ってくることもあり、「全力で探します!」とつい、力強く答えてしまったのだった。
第一回面談
「ファイル018:古今東西のエロ画をコレクションしていたインド系おやぢ」
という依頼をくれた女性Nさん。


第二回面談
「ペルーに忘れたセーターを探してほしい」
(ファイル026:ペルーで忘れたセーター)


第三回面談
「アメリカ留学時に現地で仲良くなったユーゴスラビア人の男性を探してほしい」
(ファイル010:ユーゴスラビア紛争に巻き込まれたかもしれないBob)


高野秀行オフィシャルサイト