メモリークエスト2 読者からの依頼一覧

Webマガジン幻冬舎: 高野秀行 メモリークエスト2
2011年6月15日 vol.248 ファイル003

「東京恐い!」
と思わせてくれた不動産屋(日本)

[お名前]Jack 舘
[性別]男性
[探して欲しい記憶の時間]1990年2月
[国名]日本
[都市名]東京
[探して欲しい記憶の人名、物]不動産屋のアニキと選択しなかった未来
[探して欲しい記憶の人物の性別]男性

[探して欲しい記憶の詳細]
 今から約20年前、1990年2月下旬か3月上旬の話です。
 当時、近畿に住んでいた私は、進学のため上京することになりました。
 アパートを探さなければならないのですが、家賃相場が全く分からず、数件の不動産業者を回って調べようとしていました。
 その内の1軒、高田馬場の学生援護会に行った時のことです。
 対応してくれたのは、20代前半から中頃、学生風、少し世慣れたアニキといった感じの人でした。
「どういう物件を希望してるの?」
「家賃○万円〜○万円程度で風呂付き、できれば2階以上のものがないですか。」
「無理、無理、絶対ないよ。」
「逆にいくらぐらいならありますか?相場が分からないので……」
「それは一概には言えない。」
「安いのもあるでしょう?」
「家賃が1万ちょっとでいいアパートがあるよ。場所は早稲田、1階の部屋が空いてるけど入らない?」
 全然人の話を聞いていないじゃないか……。
 当時、私はまだ若く、はっきり断ることが苦手だったので、希望条件と異なることを理由にして帰ろうとしました。
「その金額だと、当然、風呂はないですよね。」
「大丈夫、2〜3日入らなくても死なないから。プールに行くといいよ。」
 いよいよダメだと思い、また、対応が少し腹立たしくもありました。
 他の業者も回ってから考えたいと一方的に伝えて席を立ち、出口に向かおうとしました。
 そうしたら、その人は私に向かってこう言ったのです。
「そうだ、部屋はともかく、早稲田の探検部に入らない?」
 もはや意味不明です。
 この人を探して欲しいのです。
 不動者屋での部員勧誘は成功したのでしょうか?
 私は一体どんな世界に案内されようとしていたのでしょうか?
 東京は実に恐ろしい異界だと感じました。


高野秀行より返信


 はっきり言って、その不動産屋のアニキは頭がおかしいですね。
 客の話をまるで聞いてないし、だいたいなぜ探検部に勧誘するのか。

 こんな人物が私が知っているわけないだろうと思いたいのですが、まさにちょうどその頃、私たちは「河童団」なるチームを結成して、風呂代わりのプール通いに励んでいました。
 一緒に泳いでいたのはだいたい私より二、三歳上の先輩で、つまり「二十代半ばの学生風」ですよね。

 誰かな…。みんな高円寺に住んでいて、みんな頭がどうかしていて、仲がよいので、「高円寺三兄弟」と呼ばれた人たちのうちの誰かかもしれません。

 宇宙人が夜中にうちに来て「泊めてほしい」と頼まれたという(必死で断ったとか)Tさんか、探検部を廃部にして「宇宙ロケット開発部」にしようとしたSさんか、あるいはボルネオ徒歩横断の途中でふと「今週中に卒論出さなきゃ卒業できない」と気づき、徒歩横断を断念して日本に帰ろうとしたら、そこから脱出するまでに徒歩横断と同じ時間がかかってしまってやっぱり留年してしまったTさんか…。

 でもご安心を。
 この変人三人組はいずれも奇跡的にちゃんと就職したうえ、全員が会社勤務をつづけて、結婚して家庭も持っています。ボルネオ横断断念のTさんなんか、三十歳で外資系企業のGMになっていたくらいです。

 そのまま探検部に入ってしまっていても、意外に「真人間」になっていたかもしれませんよ。





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高野秀行からのメッセージ
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高野秀行プロフィール

一九六六年東京都生まれ。辺境作家。早稲田大学探検部在籍中に執筆した「幻獣ムベンベを追え」でデビュー。

アジア新聞屋台村』『ワセダ三畳青春記』『腰痛探検家』(以上、集英社文庫)、『怪獣記』『西南シルクロードは密林に消える』(ともに講談社文庫)『世にも奇妙なマラソン大会』(本の雑誌社)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)など著書多数。

高野秀行プロフィール