メモリークエスト2 読者からの依頼一覧

[お名前]浜 由紀子
[性別]女性
[欲しい記憶の時間]1997年1月
[国名]アメリカ
[都市名]ペンシルアニア州
[探して欲しい記憶の人名、物]Immaculata collegeの食堂で働いていた中国人
[探してほしい記憶の人物の性別]女性

[探して欲しい記憶の詳細]
 私はアメリカの大学に留学した経験があるのですが、英語が全くしゃべれなかったため、3ヶ月で帰国したという恥ずかしい思い出があります。
 その大学は男子禁制のカトリック女子大で、先生は全員修道女でした。キャンパスは丘の上にあり、バスは1時間に1本という隔絶した場所だったので私は学内の寮に入っていました。
 そんな、辺鄙でアジア人も少ない大学の食堂に若い中国人夫婦がやってきたのです。夫婦の年は30代ぐらいで小学生くらいの息子がいました。とにかく私の英語力をさらに下回る英語力で、どうしてこんな場所へ親子で移民してきたのか聞きたいことがたくさんあったのですが、何しろ英語が通じないので会話が全くできません。
 でも同じアジア人ということで通じるものがあったのか、ご飯を大盛りにしてくれたり、私の好きなワンタンスープの頻度を増やしてくれたり(彼らが来る前、寮の食事はジャンクフードが多かったです)、部屋に呼んでくれたり(彼らは学校内に住み込みでした)言葉が通じなくてもとても親切にしてもらいました。
 息子はもう成人していると思うのですが、あの夫婦は今でも食堂で働いているのか知りたいです。もしまだいるなら、ぜひ彼らのワンタンスープを食べてきてください。


高野秀行より返信


 他の場所でも、書いたり喋ったりしていますが、私は英語圏に行ったことがほとんどありません。ロスアンゼルスに合計一週間滞在したことがありますが、それも南米に行くためのトランジットでダウンタウンを出なかったし、しかも20年前のことです。
 アメリカは冗談抜きで私にとって最大の「秘境」です。アメリカに行ったことがないにとどまらず、アメリカ文化もほとんど知らないんです。
 アメリカのポップスは一切聴かないですし、ハリウッド映画も観ません。たまに見るのは国際線の機内だけですね。一昨年だったか、イランかどこかその辺の中東から帰るとき、面白い映画がやってました。地球人がどこか他の星へ行って、そこの動物と人間の中間のような青っぽい人種と戦闘をするんです。地球人は武装ヘリや機関銃で攻撃をし、異星人は巨大な鳥に乗って弓矢で反撃します。
 イヤフォンをつけず、画面だけで観ていたので、筋はよくわからなかったのですが、映像がすごい。画面の中から飛び出してくるみたいなんですよ。CGもここまで来たのかと思ったけど、最後まで観ても結末がわからず、映画の名前もわからずじまいでした。
 かなりあとになって、その話を妻にしたところ、「それ、『アバター』でしょ!」と驚かれましたね。
 あと、ついこの間、アフリカから帰る飛行機で、やっぱり機内の映画を観るともなしに眺めていたら、意外と面白い。ナポレオンみたいな帽子をかぶった男たちがわらわらと出てくる。どうも18世紀とかそのくらいのヨーロッパらしい。主人公は悪漢で、どうも海賊っぽい。それがいったん捕まってから脱走するんですが、それがめちゃめちゃかっこいいんですよ。インディ・ジョーンズみたいです。その後、美人の女海賊も出てくるし、当時のヨーロッパの町を忠実に再現してたりして、「すげえカネのかかってる映画だな」と感心しました。おそらく、キャンプテン・クックを主人公にした歴史大作なんだろうと思いました。あと、その主人公をやっていた俳優も味わいがあるやつでした。
 で、それを友人に話したら、というか話そうとしたら、「それ、『パイレーツ・オブ・カリビアン』でしょ! しかも4だし」と話の途中で猛烈に突っ込まれましたね。
 え、キャプテン・クックじゃなかったのか。でも、そんな名前の映画、聞いたことがあったな。ついでに、主役をやってたのはジョニー・デップ。
「え、去年死んだんじゃなかったっけ?」と思ったら、それはデニス・ホッパーだった。
 で、昨日もたまたま妻がフィギュア・スケートをテレビで観ていたので、私も横で観ていると、アメリカの女性選手が出て来て、アナウンスが「ジェニファー・ロペス!」と言うので、妻に「あれ、たしかそういう名前の女優がいなかったっけ?」と訊いたところ、妻はちょうど風邪で喉をやられていて、ひじょうに苦しそうなかすれ声で「…ちがう…歌手…」と言う。
「あ、そうか、歌手と同じ名前なのか。ジェニファー・ロペスって向こうじゃよくある名前なのかな?」
「…ちがう…(手をばたばた振る)…それは歌手…」
「だから同じ名前なんだろ?」
 なんて、やりとりを繰り返して、妻がキレそうになってました。スケートの曲がジェニファー・ロペスって人の歌だったんですね。

 あれ、何の話でしたっけ? そうそう、アメリカというのは私にとってそれほど縁遠い場所なんです。今も9.11のルポを読んでますが、中東やアフガンのことは場面が目で見えるようなのに、舞台がアメリカに飛ぶとさっぱりわからなくなる。いや、わからないというより「実感できない」。
 いつかアメリカに行ってみたいと思いつつ、もう二十年もすぎてしまいました。ちょうどよい機会かもしれません。でも、どうせ向こうに行っても、浜さんが出会った中国人みたいなアジア、アフリカからのマイノリティの世界にずっぽり浸かってしまうんでしょうねえ。
 ちなみに今行きたいアメリカの町はミネソタ州のミネアポリス。ソマリ人の一大中心地と化しているとか。そのついでにというのは、アリかもしれません。

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『メモリークエスト』第一弾/全依頼26件
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高野秀行プロフィール

一九六六年東京都生まれ。辺境作家。早稲田大学探検部在籍中に執筆した「幻獣ムベンベを追え」でデビュー。

アジア新聞屋台村』『ワセダ三畳青春記』『腰痛探検家』(以上、集英社文庫)、『怪獣記』『西南シルクロードは密林に消える』(ともに講談社文庫)『世にも奇妙なマラソン大会』(本の雑誌社)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)など著書多数。

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