メモリークエスト2 読者からの依頼一覧

[お名前]小川祥子
[性別]女性
[欲しい記憶の時間]1998年5月
[国名]メキシコ
[都市名]メキシコシティ
[探して欲しい記憶の人名、物]ベアトリス か、その友達
[探してほしい記憶の人物の性別]女性

[探して欲しい記憶の詳細]
 1998年から翌年にかけて私は同行者と共にメキシコから南米を旅しておりました。メキシコは3ヶ月ほど旅しましたが、首都メキシコシティに滞在しているときに仲良くなった少女たちがいました。
 きっかけは、地下鉄の駅で彼女たちに話しかけられたことです。切符の買い方が分からないと思ったのでしょう。3人の少女が片言の英語と手振りで切符の買い方を教えてくれました。
 話しかけてくる現地人はすべからくあなたを騙すと思え!
 旅行者の常識ではありますが相手はほんの子どもでしたし、私の利かない鼻では彼女たちから危険な匂いを嗅ぎ取ることは出来ませんでした。
 その日は日曜日、遊びに行った3人は帰路につくところだそうで一緒に地下鉄に乗り込みました。
 その道中で3人が13才の中学生だと自己紹介してくれました。
 金髪で色白、度の強い眼鏡をかけたベアトリス、のっぽでシャイなイツァルカリ、小柄で笑顔がキュートなパトリシア。
 ベアトリスは日本に興味があり独学で日本語を勉強しているそうで、駅で日本人を見かけたので思いきって声をかけた、ということをスペイン語と、文字通り中学生レベルの英語で一生懸命話してくれます。
 今思えばこの「ワタシニホンゴベンキョウシテマス」も典型的なアレのパターンなわけですが、結果から言って彼女たちは悪人ではありませんでした。
 それどころか、極めて善良なセニョリータたちなのでした。
 そして別れ際「明日も会いたい!」と言われソカロで待ち合わせをして別れました。
 正直半信半疑だったわけですが、こちらは暇を持て余す旅行者、翌日、のこのことソカロへ行ってみましたら、やってきたわけです、3人が、30分ほど遅刻して。
 それからはほぼ毎日彼女たちと会う日々が続きました。
 ベアトリスの日本語の教科書を広げスペイン語とのつたない語学交流をし、CDショップに行き、ラテンアメリカタワーに上り、お茶を飲み、街を歩く。ベアトリスのお姉さんや従兄弟のマルコが来る日もありました。マルコは名門UNAM(メキシコ国立自治大学)の学生で、のちに世界遺産に登録される広大なキャンパスを案内してくれ、学内行事までを見学させてくれました。
 ベアトリスは同行者(男性)に大変なついており、いつも彼の隣にいるようになっていました。彼女は何度も「彼は恋人?それとも友達?」と私に尋ねます。いたいけな少女の気持ちを壊してはならじ!と「Amigo!(友達だよ)」と答えるたび彼女は心底ほっとし、そして浮かべた満面の笑みの可愛らしかったこと!
 こうして我々の滞在はずるずると延びていったのですが、いよいよ移動せねばと重い腰を上げ、彼女たちにそれを告げた日。
 ベアトリスは彼にだけそっとメッセージを手渡しました。
 明日ソカロに来て、と。
 どれほどの勇気を振り絞ったことでしょう。彼女にとっては叶わぬ恋かもしれぬが、良い思い出を作ってあげなはれ、と私は同行者を送り出しました。
 しかしベアトリスは来なかったのです。30分や1時間程度のラテンタイムラグには慣れていましたが、待てど暮らせど彼女は現れなかったのです。
 真意を測りかねたままメキシコシティをあとにした我々。
 数ヵ月後グアテマラでスペイン語学校に通い、少しはスペイン語が話せるようになり、ああ今なら彼女たちともっともっとたくさん話ができるのに、と何度思ったことか。
 当時はまだ中学生がメールアドレスを持っていることは稀でしたから、旅の途上何度か手紙を書き送りました。
 そして帰国後彼の家に一本の電話が入ります。
 その電話を取った彼の母は突然の外国語に戸惑いましたが、彼あての電話ということは分かったようです。ああ、しかし不運なことに彼は不在。
 振り絞ったベアトリスの勇気あえなく。
 13年の月日が流れ、彼女たちも年頃のセニョリータに成長しているでしょう。
 私の予想ではベアトリスは眼鏡を外し、さらに太ってさえいなければ相当な美人になっているはずです。
 高野さん、金髪で色白のメキシコ美女を捜してあの頃のことを覚えているかどうか聞いてきてください!
 いやしかし自分が中学生だったら外国人旅行者をナンパなんて到底できないです。やるなあ、3amigas!


高野秀行より返信


 私がメモリークエストを始めたとき、まず想定したのが「恋愛の相手はどうしてしまったのか」という依頼でした。つき合っていた、もしくは恋心を抱いていたのに、いったん現地を離れてしまったら連絡がつかなくなり、どこでどうしているかわからない……。
 そういう「失われたロマンス」が一つの柱になるだろうと思っていたわけです。ところがどういうわけか、その手の依頼は一つもなく、前回から通算して約五十個目の依頼でようやく登場しました。
 考えてみれば、自分の恋愛話を他人に頼むというのは恥ずかしいですよね。しかも公の場でオープンされてしまうわけです。
 小川さんのご依頼はなかなかユニーク。現地で知り合った少女が、自分の旅の連れに恋してしまった。小説や映画的な展開ですねえ。そして勇気を振り絞って告白しようとした彼女だったが、約束の場所には姿を現さなかった……。
 なぜ、彼女はそこに現れなかったのか。告白する勇気が湧かなかったのか。それとも地下鉄かバスに乗り遅れたのか。あるいはお母さんが急病になったとかやむを得ない事情があったのかもしれない。そこで運命の歯車が一つ狂ったかもしれません。おそらく「叶わぬ恋」だったでしょうが、恋の行方はわかりませんからね。
 そしてその金髪の美少女は今どこで何をしているのか。
 まさに私がかつて思い描いていたメモリークエストの一つの型がここにあります。
 前にも書きましたが、私は中米にまだ一度も行ってません。場所的にもそそられます。なにより、金髪の美女を堂々と探し回る機会などそうそうありません。ていうか、ぜひ探したい!
 有力候補として考えておきます。

探してほしい記憶があれば、ここをクリック!





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高野秀行からのメッセージ
『メモリークエスト』第一弾/全依頼26件
『メモリークエスト』第一弾が文庫になりました!
高野秀行プロフィール

一九六六年東京都生まれ。辺境作家。早稲田大学探検部在籍中に執筆した「幻獣ムベンベを追え」でデビュー。

アジア新聞屋台村』『ワセダ三畳青春記』『腰痛探検家』(以上、集英社文庫)、『怪獣記』『西南シルクロードは密林に消える』(ともに講談社文庫)『世にも奇妙なマラソン大会』(本の雑誌社)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)など著書多数。

高野秀行プロフィール