メモリークエスト2 読者からの依頼一覧

[お名前]アジワンワン
[性別]女性
[欲しい記憶の時間]2012年2月
[国名]日本・中国
[都市名]東京・湖南省
[探して欲しい記憶の人名、物]中国整体院院長・コウ先生氏
[探してほしい記憶の人物の性別]男性

[探して欲しい記憶の詳細]
 自宅近くに10年ほど前にオープンした中国整体院。看板には腰痛・肩こり・椎間板の悩みに対応する旨の説明とともに「ご相談どぞう!(原文ママ)」と書かれていました。これは本物のメイドインチャイナと確信した私。来院してみると案の定でした。先生の施術によって、寝違えて1センチも 動かなかった首が見違えるように軽くなったり、坐骨神経痛で階段をはって登っていたのが帰りは小躍り可能になったり、その効果は抜群でした。
 しかも先生は人柄もすばらしく、こういっては何ですが中国大陸の人々にありがちなムダにワイルドな感じが薄く、日本人が癒されるマイルドなキャラクター。詳しく訊けば中国朝鮮族出身とのことでした。
 以来その整体院は、私にとってメンテナンススポットとしてなくてはならない場所になったのです。しかし、今年2月に想像もしていなかったことがおこりました。その整体院が忽然と消えてしまったのです。
 気づけば先生の携帯にも連絡がつかなくなっていました。これまでに先生から閉院の話など聞いたこともなくて、唯一聞いたのは家族スキー旅行のこと くらい。突然、癒しスポットを失った私は、呆然とするしかありませんでした。
 先生に何があったのか?
 諦めきれず大家さんを尋ねると、整体院のオーナーは先生とは別の中国人だったようで、閉院は数か月前に決まっていたのだといいます。
 ここからは私の想像なのですが、おそらく先生はオーナーから何の説明もされていなかったのだと思います。予告もなく数日前に閉院の知らせを受けたのでしょう。ちなみに整体院はチケット制度が導入されていました。数回分まとめて購入すると割引が効くので、私を含め多くの人がそのシステムを利用していたはずです。つまり整体院が閉院したことで、コウ先生には突然数十万〜百数十万円の借金ができてしまったということです。携帯がつながらない理由をうっすら理解しました。
 なんて気の毒な先生! しかし、あの腕と人柄なら、おそらくどこに行っても生きていけるでしょう。しかし、私はとても生きていけそうにありませ ん。肩こりや腰痛におそわれる日々のなか、メンテナンスもできないのは辛いものです。
 なすすべもなく苦痛に耐えながら考えるのは、コウ先生のこと ばかり。ほかの整体院ではダメなのです。
 できれば自宅近くに戻ってきて、いけしゃあしゃあと整体院を再開してほしいと思うくらいです。
 実は少しだけですが貯金があるので、もし先生さえよければ私が新オーナーとして物件を借りて「新中国整体院」としてリニューアルオープンできれば……という野望も抱いています。
 こうした理由から、ぜひともコウ先生をさがして欲しいのです。
 どうぞ宜しくお願いします。


高野秀行より返信


 依頼者のアジワンワンさんに対してまず言いたいことがあります。
 そのコウ先生という人、「湖南省」の出身じゃないですよ。吉林省です。
 実は私も先生を全然知らないわけじゃありません。というか、ひじょうによく知っていると言ってもいい。
 なにしろ、私も腰痛時代に何度も通ってお世話になっていたし、つい最近は、うちに来ていただき、朝鮮族のキムチの作り方まで教えてもらっていましたから。
 
 それは取材の一環で、私ができあがった原稿を見せに整体院に行ったら、整体院がもぬけの空になっていたんです。呆然としましたね。電話をしてもつながらない。
 先生、蒸発してしまったんですね。
 信じられない思いのまま帰宅し、アジワンワンさんに話したら、あなたも絶句してましたよね……。
「あたしの体のメンテナンスはどうなる?!」とか言って。
 って、何のことか、読者の方にはさっぱりわからないですね。

 依頼者はうちの妻なのです。
 先生が蒸発してから、「あー、腰が痛い。先生がいてくれたら…」とか「あー、先生、どこにいるのかな…。なんとか探して、またこっちに連れてきたい。私が整体院をオープンしてもいいから」などと、さかんに繰り返すので、「メモリークエストに応募したら、探しに行ってもいいよ」と笑っていたのです。

 もちろん冗談のつもりだったんですが、編集のA君から「高野さん、奥さんから依頼が来てますよ!」と驚きのメールが入り、私も驚いた次第です。
 ちなみに、妻は「片野ゆか」というペンネームで本を書いている同業者。明敏なA君はすぐに「こ、これは!」と察知した模様です。
 妻に確かめたら、「あたしは最初から本気よ!」と厳しい眼差し。しかも、最近は整体院をオープンするためのノウハウなども調べはじめている…。

 コウ先生、ほんとに今はどこにいるのか。うちの家庭の安寧のためにも、先生を捜し出して、整体院を再開させることは私にとって急務かもしれません。

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高野秀行からのメッセージ
『メモリークエスト』第一弾/全依頼26件
『メモリークエスト』第一弾が文庫になりました!
高野秀行プロフィール

一九六六年東京都生まれ。辺境作家。早稲田大学探検部在籍中に執筆した「幻獣ムベンベを追え」でデビュー。

アジア新聞屋台村』『ワセダ三畳青春記』『腰痛探検家』(以上、集英社文庫)、『怪獣記』『西南シルクロードは密林に消える』(ともに講談社文庫)『世にも奇妙なマラソン大会』(本の雑誌社)、『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)など著書多数。

高野秀行プロフィール