新たな修行・闇の恐怖 〜ロンドンで幽閉されるの巻〜


 ロンドンに来て一週間が経った。今回の出張は、長い。
 なんだか日本を、とおく感じる。
 会社のみんなはもう私のことを忘れてしまったかもしれない。私などいなくても会社は変わりなくまわり、誰も私のことを思い出さない。友達も家族も、誰も私の不在に気づかずに、日々が過ぎていったら、、、、。
 そんなことをぼんやり考える、異国で過ごす新緑の季節。
 ところがこの日、そんな五月の憂鬱などふきとばす、ショックな事件が私を襲った。

 これまでの私など、なんて平和で、なんて呑気だったんだと思う。


 その晩、取材スタッフみんなでクイーンズウエイのスペイン料理に食事に行った。
 タパスとパエリアをたらふくいただき、白ワインですっかりいい気分になったかえりぎわ、私はトイレにたった。
 お手洗いは私たちのいたフロアより一階下の地下奥にあり、その階にお客さんは誰もいない。普段のとおりに用を足し、トイレを出ようとしたら、、ドアが開かない。
 どうしても、開かない。開かない。
 ーーーー。
 閉じ込められた、と我に返ったその瞬間、一気に光が奪われた。
 人の出入りに反応して明滅する照明が、自動的に消えたのだ。
 漆黒の闇。目をどんなに見開いても、黒しか見えない。
 一瞬、ものすごい大声を張り上げてみた。その後、一定の速度でドアをドンドンと叩き続けるが、音は届かないようだ。拳が痛み、しばらくで止める。
 、、、、、、、。

 このときの絶望感といったらない。
 こういうとき、人はどうするのか。
 私の場合は、便器のそばにへたりこむとやおらバッグの中をまさぐり、手触りでお守りを探し出す。それをぎゅっと握り締め、うずくまっていた。

 誰かは助けにきてくれると信じたかったが、もしかしたら店に強盗が押し入り、建物全館が停電になって、皆もナイフを突きつけられているかも、といった悪いことばかり思いつく。
 どれほどの時間が経ったろうか。それが、3分だったのか3時間だったのか、、、。救出された瞬間、全身ガクガクで、しばらくあたまが混乱し、朦朧としていた。

 日本に戻ったら、またいつもどおりに暮らしたい。事件などまっぴらである。単調な毎日が好きだ。仕事をして、みんなと会い、いつもどおりに。








色つけ係 いづりん