Webマガジン幻冬舎: 長沼毅 “超訳”科学の言葉 vol.271

#7 太陽フレア

爆発する核融合炉

 太陽は巨大な核融合炉である。直径140万km(半径70万km)、地球の109倍という巨大さだ。それほどの「厚さ」がなければ、核融合で放たれた暴れ狂うエネルギーを抑制できないのだ。

 太陽は巨大な水素ボールである(注1)
 水素というと軽そうに思えるかもしれないが、地球の33万倍も重い水素ボールだ。なんと、あの巨大惑星である木星や土星も含めた「全太陽系の重さ」の約99.9%が、太陽にある。太陽系など、しょせんは太陽の独壇場、ひとり横綱みたいなものだ。

 太陽の核融合炉は中心核(注2)である。

 太陽の中心核は、半径10数万km、太陽半径の1/5から1/4くらい。体積比は3乗だから、全体積の (1/5)3 から (1/4)3、すなわち0.008〜0.16%ほどしかない。
 その、わずかな部分に、太陽の全質量の約50%が押し詰められている。密度でいえば150 g/cm3、地球の核(主成分は鉄とニッケル)の密度の10倍もある。いかに水素がギュウギュウに押し詰められているかわかるだろう。

 原子太陽の中心核が「おしくらまんじゅう」で温度が上がり、250万度になると、水素原子核(注2)の核融合反応が起こった。といっても単一の反応ではなく、たくさんのタイプの反応がある。

 たくさんのタイプの反応の中で、ひとついえるのは、太陽を加熱するのは、核融合反応から出る光(ガンマ線)だということ。それで加熱された太陽中心核の温度は、いま1500万度。絶対温度Kでも摂氏℃でも、もうどっちでもよいほどの高温だ。

 太陽中心核は「体積の2%足らずに質量の半分」という高密度なので、いかに透過性の高いガンマ線といえども直進できず、あちこちぶつかりながらエネルギーを失って、やがてエックス線になる(注3)。物質が「高エネルギーの光を吸収して、低エネルギーの光を放出する」といってもよい。

 太陽という核融合炉には「圧力容器」がある。

 ようやく光が中心核を出ても、まだ厚さ40万kmの壁「放射層」がある。これが太陽の圧力容器である。
 この壁もそれなりに高密度なので、ガンマ線の残党やエックス線は、あちこちにぶつかりながらエネルギーを失い、紫外線や可視光線になる。圧力容器の壁が熱せられて光りだすようなものだといえばわかるだろうか。

 光が約17万年もかけて、この40万kmの壁(放射層)を通過する。
 壁の最内側では20 g/cm3……と、金や白金並みだった密度も、壁の最外側では0.2 g/cm3まで下がり、最後には光が通りやすくなる。温度も700万度から200万度まで下がっている

 太陽という核融合炉には「格納容器」もある。

 放射層の外側にも厚さ20万kmの壁「対流層」がある。あたかも原子炉の「多重バリアー」のようだ。しかし、この最後の壁は低密度のプラズマ(原子核と電子の集合体)であり、地球の大気よりずっと薄いくらいである。この最外側にわれわれが太陽の表面とみなす「光球」がある。

 光球の温度は4500度から6000度、いや、これくらいになると単位を気にして、絶対温度で4500Kから6000Kといったほうがよい(度Kといわず、単にKである)。
 温度に差があるのは、熱いプラズマが湧きあがるところと冷えて沈むところがある、つまり、対流しているからだ。
 一般には太陽の表面温度は約5800Kとされている(注4)。黒点は、おそらく対流が妨げられてできていて、4500Kより低温である。

 光球から発せられる光は、エネルギーの高いほうから(波長の短いほうから)は、ガンマ線はもはやほとんどなく、エックス線も微量、紫外線ちょっと、可視光線ほぼ半分、赤外線も半分弱、電波ごく微量である。多重バリアーにより、凶暴なガンマ線が温和な日光に変わったのだ。

 太陽から出る光の約半分が「可視」、すなわち、われわれの眼に見えるのはありがたい。
 ——というのは実は逆で、太陽からもっとも多く出る光を利用するように、地球の生物が進化したのだ。
 その証拠に、ものを見ない植物でも可視光線を利用して光合成する。もし太陽系の他の天体に生物がいたら、やはり可視光線を利用するのが理に適っている。

 イソップ寓話「北風と太陽」にあるように、太陽の光は、母性的な慈愛のように思われている。つまり、慈母としての太陽。しかし、それは、いつかわれわれを苦しめるだろう“厳父たる太陽の姿”を知らないだけのことだ。

 太陽の核融合エネルギーの放出は「光」だけではない。若干のニュートリノ(中性微子)もあるが、ニュートリノは透過するばかりで、われわれにほとんど影響しない。われわれが見る太陽、すなわち、光球とその外側(コロナなど)では、太陽磁場のほうが重要である。

 ただ、太陽磁場について、私は説明能力がないので、聞きかじり程度のことを自分なりに咀嚼して吐きだすのみである。

 太陽磁場の源は太陽内部の核融合であり、それにともなう「ダイナモ現象」により太陽磁場が発生する。

 地球磁場は、よく地球をひとつの「大きな(全球的な)棒磁石」にみたてて、北極と南極を結ぶリンゴ型の磁力線で説明されている。

 太陽には「大きな棒磁石」がひとつかふたつ、そして、「小さな(局所的な)棒磁石」がたくさんある。大きな棒磁石は長期間続くが、「小さな棒磁石」は比較的短命で生まれては消えていく。

 太陽の「小さな棒磁石」はときどき妙な振る舞いをする。たとえば、「小さな棒磁石」がふたつ接近すると融合し、新たなふたつの棒磁石になることがある(専門的には磁気リコネクションという)。そのほうが安定するからであろう。

「安定する」とは、エネルギーの低い状態に落ち着くということであり、そうなると、余剰のエネルギーが放出される。それがプラズマを加速・加熱して、太陽表面に爆発現象を引き起こす。これがいわゆる「太陽フレア」である。太陽の表面に炎のようなものが上がっている写真を理科の授業で見たことのある人が多いのではないか。あれ、である。

 実は、この太陽フレアは、厳父たる太陽が打ち下ろす「鉄鎚」である。あたかも文明を滅ぼしたいかのような。

 太陽フレアが起こると、ふだんは微量なはずのガンマ線・エックス線・紫外線などの光が放出されるが、それだけでなく、電子や陽子などの放射線、そして、高速プラズマ粒子が、塊でどっと放出される。これを「コロナ質量放出」CMEという。

 太陽フレアはしばしば発生し、大規模なものも珍しくない。これが、もし地球に向かって放出されたらどうなるだろう……。
 地球を直撃するものを「太陽嵐」という。われわれが電磁気文明をもってから最大の太陽嵐は1859年のものである。

 1859年の太陽嵐では、ハワイにオーロラが現れ、北米の電線に大きな誘導電流が流れた。まだ、いまほどの電磁気文明でなかったので、被害はそんなものですんだ。
 電磁気文明が発達した1989年の太陽嵐は、それほど大きくなかったのに、カナダのケベック州が全域停電に陥った。

 2003年、観測史上最大の太陽フレアが発生した。
 その時には幸いにも地球を直撃しなかったので、太陽嵐にならずにすんだ。しかし、局所的な停電や人工衛星へのダメージなどの被害もあった。
 日本の人工衛星「みどりII」もこの影響で運用中止になったと噂されている(宇宙開発委員会の調査報告 [LINK] では太陽フレアの影響に言及していない)。

 太陽フレアの影響が地球に到達するのは、まず光(ガンマ線・エックス線・紫外線など)が500秒後、つぎに放射線が数時間後、そしてプラズマ粒子が2〜3日後に到達する。したがって、光で異変を検出すれば、本当に怖いプラズマ粒子の襲来前に対策を講じることができるという計算になる。

 2003年の太陽フレアは、10月末のハロウィン前後に何回か起きたので「ハロウィン・ストームズ」と呼ばれている。このときはプラズマ粒子の襲来を予測して、国際宇宙ステーションの乗組員を比較的遮蔽の厚いところへ予め避難させることができた。
 しかし、「アイ・ラッシュ」という現象があったとのこと。「アイ・ラッシュ」というのは、粒子が脳を通過するとき光が見えたように感じる現象のことである。

 いま、われわれは電磁気文明を生きている。もし、ここにハロウィン級の太陽フレアが直撃したら、いったい何がどうなるだろう。少なくとも電磁気文明以前、つまり、200年前に戻ってしまうだろうことは大方が予想している。

 巨大な太陽フレアが地球を直撃することがわかってから、2、3日は猶予がある。その間に電磁気文明を守る手立てを考え、実行するとして、できるのか? 
 たぶん、できない。
 ならば、今から考えておく必要がある。太陽の「鉄鎚」でわれわれの文明が滅びないために。

(注1)太陽の成分は約3/4が水素、約1/4がヘリウム、あとは酸素、炭素、鉄、その他の元素がつづく。
(注2)太陽や惑星・衛星の中心核の核は英語で「コア」coreといい、原子核の核は「ヌクレウス」nucleusという。しかし、彗星や銀河の核はヌクレウスである。さらにややこしいことに、海底掘削・陸上掘削・氷床掘削などで得られる円柱状のサンプル(岩石・堆積物・氷など)もまたコアという。
(注3)どちらも光であるガンマ線とエックス線は波長(エネルギー)が重なるところがあるので、本来は波長(エネルギー)で区別するのではなく、その源で区別する。詳しい機序は省略して、ガンマ線は原子核からでる光、エックス線は電子からでる光と思えばよい。
(注4)シュテファン=ボルツマンの法則から求められる黒体放射としての太陽の表面温度は5780Kであり、一般には約5800Kとされている。太陽が黄色に輝いてみえる「色温度」のことと思ってもよい。
Webマガジン幻冬舎
教科書には絶対載らない!“超訳”科学の言葉

長沼毅(ながぬま・たけし)

1961年生まれ。筑波大学大学院生物科学研究科卒業。現在、広島大学准教授。

専門は、生物海洋学、微生物生態学、極地・辺境等の過酷環境に生存する生物の探索調査。

酒ビン片手に、南極・北極から、火山、砂漠、深海、地底など、地球の辺境を放浪する、自称「吟遊科学者」。学名:カガクカイ・インディ・ジョーンズ・モドキ、あるいは、ホモ・エブリウス(Homo ebrius)「酔っ払ったヒト」。好きな言葉は「酔生夢死」。

Webマガジン幻冬舎: 教科書には絶対載らない!“超訳”科学の言葉 長沼毅(ながぬま・たけし)