Webマガジン幻冬舎: 長沼毅 “超訳”科学の言葉

#12 地球寒冷化

温暖化のあとに来るもの

 暑さ寒さも彼岸まで。季節はめぐって秋になり、やがて冬が訪れる。そして、また春が来て夏になる。
 一年の四季をとおして暑くなったり寒くなったりするように、地球の歴史をとおしても、暑かった時代と寒かった時代がある。そのなかでもここ数十年は妙に暑くなっていて「地球温暖化」と呼ばれている。

 まず初めに「20世紀後半からの温暖化」は事実であることを確認したい。私は地球温暖化に対する、いわゆる“懐疑派"ではない。

 ただし、地球温暖化の原因については、自然起源の気候変化(climate variability)なのか、あるいは、人間起源の気候変動(climate change、CC)なのか、私はまだ結論をだすには尚早と考えている。

 地球温暖化の問題でよく聞くIPCCという団体(注1)は、その名前に「CC」すなわちclimate changeとあるように、人為的気候変動を主張していて、人間による二酸化炭素CO2の排出こそ温暖化の主犯だと訴えている。

 二酸化炭素CO2はいわゆる温暖化ガスあるいは温室効果ガスである。そんなことはもう100年以上前から言われているし、宮沢賢治の『グスコーブドリの伝記』(1932)では火山噴火でCO2を放出させて故郷を大冷害から救う話が語られている。

 CO2の他にも水蒸気、二酸化炭素、メタン、フロンガスなど“自然起源"の温室効果ガスがある。もし、これらの温室効果ガスがなかったら、地球の平均気温は-18℃になると計算できる(注2)

 しかし、現実の地球の平均気温は15℃である。さっきの-18℃からの33度の積み増し分はまさに温室効果ガスのお蔭であり、その大半は水蒸気のお蔭なのだ。

 地球全体の温室効果における二酸化炭素CO2の貢献度は小さい。ただ「20世紀後半からの温暖化」だけを考えれば、人間起源のCO2がなるほど主犯っぽいし、(自然起源のガスより)増減のコントロールをしやすい。

「20世紀後半からの温暖化」において、気温の上昇傾向と大気中のCO2濃度の上昇傾向はよく合っている。ところが、それをつぶさに見ると、「まず気温が上がってからCO2濃度も上がる」ことがわかる。これは大きな矛盾だ。

 もしCO2が「20世紀後半からの温暖化」の主犯なら、まずCO2濃度が上がってから気温も上がるのではないか。しかし、事実は逆である。気温が上がったからCO2濃度が上がったというように(注3)、原因と結果の順序がひっくり返っている。

 だから地球温暖化は間違っているとか、CO2は犯人ではないと、私は言うものではない。ただ単に「温暖化は事実だけど、その原因やメカニズムはまだよく分からない」と言うだけである。

 温暖化よりもっと分からないのは寒冷化だ。地球の約45億年の歴史は寒暖の繰り返しだったが、大局的には徐々に寒冷化している。恐竜が絶滅して哺乳類が台頭してきた新生代(約6500万年前から現在まで)では、南極大陸が約3000万年前から氷河期に入った。

 北半球もざっくり300万年前、正確には約260万年前から氷河期に突入し、現在に至っている。この約260万年前というのは面白くて、人類つまりヒト属(ホモ属)の始まりでもある。

 つまり、人類(ヒト属)は氷河期とともに生まれ、氷河期をとおして進化してきた、まるで“氷河期の申し子"のような生物なのである。

 ちなみに、この時代を指して「第四紀」という。新生代は第三紀(古第三紀・新第三紀)と第四紀からなり、第三紀のほうが古い。かつては第二紀や第一紀という時代区分もあったが、いまは使われていないので、ここでも説明しない。

 さて、「人類+氷河」の時代(第四紀)はさらに「氷期と間氷期の繰返し」の時代と現在の非氷期、専門的には「後氷期」(これから氷期になったら間氷期と呼ばれることになる)に分けられ、それぞれ鮮新世と完新世と呼ばれている。

 第四紀の約260万年のほとんどが更新世で、完新世はたったの1万年、つまり、いまの後氷期はまだ、たったの1万年しか続いていないのだ。

 いや、たったの1万年というのは宜しくない。第四紀の「氷期と間氷期の繰返し」において、間氷期の長さはだいたい1万年だった。たまに2〜3万年続いた間氷期もあったが、やはり1万年がふつうだった。

 ということは、いまの後氷期は“ふつうの間氷期"の長さの1万年を終えようとしている、つぎの新たな氷期が到来するのではないかと思ってしまうのである。

 最新の研究、たとえば南極やグリーンランドの氷から再現した古気温変動によると、いまの後氷期(専門的にはMIS1)は過去の“たまに2〜3万年続いた間氷期"、専門的には「MIS11」と命名された間氷期に似ているらしい(注4)

 ならば、いまの後氷期はあと1〜2万年、いや3万年くらい続くかもしれない。このことが上述のIPCCが2007年承認の最新報告書(AR4)に記されている。そうなら急ぐことはない。温暖化対策をした後で、ゆっくり寒冷化対策をすればよい。

 ただし、IPCCがAR4を作っている間の2005年、MIS11をじっくり調べた人が、現在のMIS1はむしろMIS11の終わり(間氷期の終わり)、すなわち、氷期の入り口の状態にあるという指摘をした(注5)。が、それはAR4に反映されていない。

 さらに、現在のMIS1ともっとよく似たMISを探してみると、約78万年前のMIS「19」のほうが似ているとの声が上がってきた(注6)

 この場合、いまのCO2濃度(390 ppmv)なら氷期にならないが、産業革命以前のCO2濃度(280 ppmv)まで削減してしまうと、あと1500年以内に氷期が到来するという。

 約78万年前というと南極の氷から古気温を再現できるギリギリのところだ。もっと古い氷を探して、信頼性のある古気温を再現するか。

 あるいは、IPCCの次の評価報告書(AR5、2014承認予定)において、「現在のMIS1はもしかしたら新しい氷期の入り口かもしれない」というちょっと怖い可能性にも言及するか。

 いずれによせ、温暖化よりも寒冷化のほうがずっと怖い。もし、寒冷化の早期到来の可能性がちょっとでもあるなら、それをきちんと評価してもらいたい。今度の冬が思ったより早く来て、思ったより寒かったらイヤだなというのと同じように。

(注1)IPCCは「気候変動に関する政府間パネル」Intergovernmental Panel on Climate Changeの略称である。数千人の科学者や専門家が地球温暖化に関する知見を結集して報告書を作成することがIPCCの主な役割である。報告書としては評価報告書と特別報告書があり、本命のほうの評価報告書としては2007年に承認された第4次評価報告書(AR4)が現時点での最新版である。
(注2)太陽から1億5000万km離れたところに反射率0.3(吸収率0.7)の物体があったら、それは地球であれ何であれ、-18℃で温度が平衡する(これを放射平衡という)。放射平衡温度Tを求める式は「T4 = 太陽定数 × 吸収率 ÷ δ ÷ 4」。
 太陽定数は地球の大気上層における単位面積当たりの太陽光エネルギーで約1370 W・m-2である。吸収率は0.7。δはシュテファン=ボルツマン定数で5.67×108 W・m-2・K--4。4で割るのは、地球の表面積(4πr2)と断面積(πr2)の比からである。
 T4 = 太陽定数 × 吸収率 ÷ δ ÷ 4 に数字を入れると、T4 =42.28×108 の四乗根は T =2.55×102 で255K(絶対温度)、すなわち-18℃となる。
(注3)気温が上がり、やがて海水温も上がると、海からいろいろな溶存ガス――CO2を含む――が大気に放出される。砂糖や塩は水温が高いほどたくさん溶けるが、「気体の溶解度」は逆で、水温が高いほどガスは水から外に逃げ出してしまう。
(注4)MISとは「海洋酸素同位体ステージ」marine (oxygen) isotope stageの略称である。海には「有孔虫」というアメーバ状の原生生物がいて、石灰石の殻を持っている。その石灰石CaCO3中の酸素の同位体比(厳密さを欠いて簡略化すると18O/16O比)はその時の水温を反映している。したがって、過去から現在まで連続的にたまった海底堆積物を用いてその比を調べれば、海水温の連続的な変化を再現することができる。こうして古海水温を再現したら「氷期-間氷期の繰返し」に対応すると考えられる水温変動がはっきり見えた。そこで、現在の後氷期に相当する高温期をMIS1とし、以降、低温期(氷期)を偶数、高温期(間氷期)を奇数として番号を振った。
 MIS11は約41万年前の間氷期で約2万8000年続いた。現在のMIS1に関わる地球の軌道要素(真円からの離心率、歳差運動、地軸の傾きなど)はこのMIS11時のそれに似ているとされている。
(注5)Ruddiman (2005) Plow, Plagues & Petroleum, Princeton University Press.この見解は後に、この論文によっても支持された: Tzedakis (2010) The MIS11-MIS1 analogy, southern European vegetation, atmospheric methane and the “early anthropogenic hypothesis". Climate of the Past, 6, 131-144. http://www.clim-past.net/6/131/2010/cp-6-131-2010.html
(注6)前述の論文の著者が第一著者である今年の論文:Tzedakis, Channell, Hodell, Kleiven & Skinner (2012) Determining the natural length of the current interglacial. Nature Geoscience, doi:10.1038/ngeo1358. http://www.nature.com/ngeo/journal/vaop/ncurrent/full/ngeo1358.html
Webマガジン幻冬舎
教科書には絶対載らない!“超訳”科学の言葉

長沼毅(ながぬま・たけし)

1961年生まれ。筑波大学大学院生物科学研究科卒業。現在、広島大学准教授。

専門は、生物海洋学、微生物生態学、極地・辺境等の過酷環境に生存する生物の探索調査。

酒ビン片手に、南極・北極から、火山、砂漠、深海、地底など、地球の辺境を放浪する、自称「吟遊科学者」。学名:カガクカイ・インディ・ジョーンズ・モドキ、あるいは、ホモ・エブリウス(Homo ebrius)「酔っ払ったヒト」。好きな言葉は「酔生夢死」。

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