超魔球スッポぬけ!
朱川湊人
かたみ歌
スポーツの秋
 こんにちは、シュカワです。
 気がついたらカレンダーも九月――いつのまにか秋ですね。
「なーにが『気がついたら』だ、カッコつけやがってぇ」と必ず言いそうな人の心当たりが約一名ありますが、それはさておき。
 おかげさまで、近頃はなかなか忙しくしております。
 特に、この一月ほどは外出もままならない状態で、毎日「ギギギ……」と呻きつつ、パソコンに向かい続ける日々でした。それでも仕事が追いつかず、いろいろな人に迷惑をかけているのですから、クーラーの利いた部屋で『マタンゴ』のDVDを見ている場合じゃありませんよね。反省してます。
 さて秋と言うと、やっぱり『食欲の秋』、『スポーツの秋』、『読書の秋』といった言葉が思い出されるわけですが(伝説のスケ番『浅草(エンコ)のアキ』は、この仲間には含まれません)、みなさんはいかがでしょうか。
 僕の場合、たらふく食べて、腹ごなしにちょっと散歩し、その後はゴロゴロしながら本を読む……という『秋の風物三階級制覇』の生活を日常的に送っていますが、やっぱり涼しくなるといいものです。暑さでダラリと伸びきっていたものが引き締まって、元気と言うか活力と言うか、そういうものがフツフツと湧いてきて、やる気満々状態になりますね。さらに寒くなると縮こまったりするようになるのですが、くれぐれも変な深読みはご遠慮いただきますよう――あくまでも精神の話ですので。

 僕の場合、食欲・芸術・読書……と、秋と相性のいいものは、たいてい好きなんですが、実を言うとスポーツに関してビミョウなのでした。いや、ハッキリ言ってしまうと、不得意なのでした。
 いや、まったく嫌いと言うわけじゃないんです。子供の頃からバドミントンは大好きですし、近頃は忙しくて休んでいますけど、二年ほど前までは少林寺拳法の道場にも通っていました。一応段もちの黒帯ですが、こういうことを自分から言うヤツは、十中八九たいしたことないと思っていいですよ。
 何が苦手かと言うと、要はランニング――走ることですね。
 これが僕の場合、異様に遅い。長距離はもちろん、短距離も満遍なく遅いです。持久走ではたいてい先頭の人に一周差をつけられるし、短距離では「おい、それ本当に走っているのか」と疑問をぶつけられる始末。まぁ、足が遅くても別に日常で困ることはないんですが(うーん、もしかすると、あるかも知れない)、小学校や中学校の頃は足が遅いとバカにされてしまうので、体育の時間はウツでした。
 ですから当然、運動会も好きじゃありませんでした。
 騎馬戦とか組体操は楽しかったのですが、あの単純なかけっこ――徒競走というヤツが、どうしてもイヤだったのです。それこそ運動会の前日は「大雨が降らないかな」とか「台風が来ないかな」と考え、ついにはテルテル坊主を逆さに吊るすという究極魔法を使ったことさえありました。
 実際、僕が子供の頃の運動会は、今のものより過酷だったと思います。
 徒競走で走る順番は単純に背の順、ゴール順位に応じて色分けしたリボンをつけさせ(一位のヤツに限って、一日中つけていたりするんだよなぁ)、さらに三位くらいまではノートや鉛筆などの賞品が出る――という具合で、ただでさえ順列に敏感な子供心をムダに圧迫していたのでした。
 ちなみに、うちの子供(小学六年生)の話によると、今は事前にタイムを計測して、似たり寄ったりの記録の子供を組み合わせる……という配慮をしているそうですから、先生方もなかなか大変です。
 もっとも、『思いやりゾーン』と称してゴール前にスペースを作り、そこで待ち合わせて全員で同時にゴールするようにしている学校もあると聞いていますが、それはいくら何でもやり過ぎでしょう。待たれる子供の身になって考えれば、恥も屈辱も倍増しているように思えるのですが。

 そう言えば小学校の頃、体育の授業で『障害物競走』をやると聞いて、珍しく燃えたことがありました。
 僕はストレートな走りは遅いですが、途中でネットをくぐったり平均台の上を歩いたり、はたまた粉の中に顔を突っ込んでお菓子を探したり、さらには袋に両足を突っ込んでピョンコピョンコ跳ねることに関しては自信があります。純粋に足の速さを競うのでなければ、クラス一の韋駄天野郎にだって勝てる可能性があるのです。
 そう思うと、五時間目の体育の時間が待ち遠しくてなりませんでした。すばやくネットをくぐるイメージトレーニングまでして、その時を待っていたのですが――いざフタを開けてみると、ただのハードル走でした。走るコースに工事現場のバリケードみたいなのがズラリと並んでいて、それを飛び越して行け、というわけです。名前も『障害物競走』ではなく、『障害物走』でした。
 思わずジーパン刑事モードで「なんじゃ、こりゃあっ」と叫んだのは言うまでもありませんが、考えてみれば体育の授業で、そんな楽しいことをするはずがありません。まぁ、幼い無知ゆえの『すっぽ抜け』で、その後、僕は目に涙を浮べつつ、ハードルをバンバン蹴倒して走りまくったのでした。
 ちなみに、やっぱり遅かったです。 
 でも実際に体育の授業で、そういう楽しい系の競技があったら、どんなに面白いでしょうか。きっと体育ギライの子供なんていなくなると思うのですが――と、ここまで書いていると、また例の妄想癖が、モクモクと頭をもたげてきました。
 いっそ世界レベルの運動会であるオリンピックで、楽しい競技をやれば面白いでしょうねぇ。特に何とは申しませんが、日本人にはちょっと理解できない正式種目もあるのですから、こんなのが入っていたっていいと思うのですが。

【空想例1】
 地獄のドッジボール――スピーディーかつスリリングな魅力を損なわないよう、防具の類は一切身につけず、男子の場合はランニングシャツと半ズボンで実施。専用ボールはバスケットボールと同程度の堅さのものが標準。八人制と十二人制があるが、いずれもスタート時には外野に二人おく。
 ボールの衝撃に耐えられる……というスタンスで選手を選べば、どうしても筋肉質のマッチョマンぞろいになる。K-1選手並みの腕力とスピードを誇るドッジボーラーが放つボールは相当な破壊力を備えており、試合はいつも予選から大フィーバー。鍛え上げられた筋肉に堅いボールが当たる音はすさまじく、その手のマニアにも人気。ちなみに内野の選手が次々とやられ、最後に一人残ってしまった選手は、この世の地獄にいる心地だという。

【空想例2】
 全世界借り物競争――スタジアムのトラックに並べられているカードを一枚選び、そこに書かれているものを借りてくる競争。全世界が対象フィールドで、その際の旅費などは支給される。
 借りてくるものには大きくばらつきがあり、『幻の都バラージに伝わる青い宝玉』や『南極に生息するといわれているUMAニンゲンの写真』といった、かぐや姫のワガママなみに厳しいものから、『タイで売られている、淫行という漢字がでかでかと入ったTシャツ』、『チベット博物館収蔵の雪男の頭皮』等の難易度それなりのもの、さらに『栓抜き』『イタリア人のめがね』など、その場で調達できるものもある。
 まさしく「運も実力のうち」という言葉が真実であること、あるいは「昔、こんなテレビ番組があったな」という事実を、選手の誰もが噛み締める競技。たいていオリンピックの期間中に終わることはなく、世間の人々が忘れた頃に、ひっそりと決着がついている。

【空想例3】
 スーパーヒーローアクション――フィギュアスケートやシンクロナイズドスイミングと同系列の競技で、いかに美しく、カッコいいヒーローアクションができるかを競う。団体の「レンジャー部門」、個人の「宇宙刑事部門」がある。
 コスチュームのデザインから競技が始まっているとも言われ、露出度の高い女性キャラクターへの点数は、どうしても甘くなりがち。火薬、電気による発光は認められているが、ワイヤーアクションは禁止。それぞれのお国柄が出せると楽しいが、いわゆる『勘違いしたニンジャ』は日本のクレームにより使用禁止になっている。

【空想例4】
 スーパー障害物競走――さまざまな障害物が作られているコースを、いかに速く走り抜けるかというシンプルかつ奥の深い競技。ロープで小川を飛び越え、垂直の壁を登り、長い距離のウンテイをクリアーし……って、それはもしかしたら、『SASUKE』では。


 また今回も妄想が暴走しそうなので、このヘンでやめておきますが。
 何だか、こういうおバカなことを書いていたら、不思議と体を動かしたくなってきたのは、ちょっと単純でしょうか。とりあえず風が気持ちいいうちに、自転車であちこち走ってみようかと思います。
 長い距離を散歩するのもいいですね。僕は走るのは苦手ですが、歩くのは逆に得意なんです。
 できれば気の合った友達と一晩中、歩きながら話したりすると、きっと楽しいでしょうね。それにいろいろな謎が絡んできたりして……って、それはもしかしたら、恩田陸さんの『夜のピクニック』なのでは。
朱川湊人(しゅかわ・みなと)プロフィール
1963年1月7日大阪府大阪市生まれ。81年東京都立淵江高等学校卒業。86年慶応義塾大学文学部国文学科卒業。出版社勤務を経て文筆業に。平成14年「フクロウ男」(『都市伝説セピア』文藝春秋刊=第130回直木賞候補所収)で第41回オール讀物新人賞を受賞し、デビュー。平成15年には「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞、平成17年に「花まんま」で第133回直木賞を受賞した。他の著書に『さよならの空』(角川書店)、『かたみ歌』(新潮社)がある。