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せきしろ/バッファロー吾郎A『煩悩短編小説』刊行記念インタビュー

せきしろ氏バッファロー吾郎A氏
『煩悩短編小説』刊行記念インタビュー

108字から成る108篇のショートショートが一冊の本になりました。
著者のせきしろさんと
バッファロー吾郎の木村明浩さん、改めましてバッファロー吾郎Aさんに、
108字の世界について伺いました。

──108字で108篇ずつ書く、という発想はどこから?

せきしろ 元々はリレー小説をやろうと思っていたんです。僕と木村くんとヨーロッパ企画の上田(誠)さんの三人で実験的に携帯メールでやってて。

バッファロー吾郎A (携帯の過去メールを探していて)あ、リレー小説のルール見つけましたよ。上田くんが作ってくれたルール。「一人一文節ずつ書いていく。800字くらいで終りそうな形で改行していきましょう」とある。せきしろさんがお題を出してます。「渡嘉敷くんの答え」というお題(笑)。それで上田くんが「それは、風に吹かれていた。」と書いている。

せきしろ リレーのほうは一旦終えたんです。そのあたりから、ある枠を決めてそのなかで書く、ということをやってみようという話が持ち上がった。ちょうどtwitterが盛り上がっている頃でもあって。

バッファロー吾郎A 僕が遊びで書いたショートショートをせきしろさんが見て面白いと言ってくれたこともありましたね。

せきしろ そうだそうだ、あったね。紙飛行機の話だったよね。

紙飛行機

 僕は大きな紙飛行機を飛ばした。大きな紙飛行機は僕の大切な思いを乗せ、風に乗り、どこまでも遠くへ飛んで行き、そして目的地へ優しく着陸した。今年も確定申告書を無事提出する事が出来た。

バッファロー吾郎A その時書いたのはこの形ではなかったんですが、108字という枠が決まってから文字数を合わせて書き直しました。

せきしろ 108字というのは、webで連載して12月頃に本にするのに季節的に「煩悩」がいいかなとなって108字に。

──108字で書くというのは、どういう感じなんでしょう? 短すぎるものでしょうか?

せきしろ 書き足りない感じがするだろうと思っていたのですが、やってみると意外と表現できるものだと思いました。書いてみると、ちょうと108字前後になる。オーバーしても20字くらいとか。文節が三つくらい入るというのが、やっていくうちにわかってきて。昔、雑誌の仕事でキャプションをよく書いていたので、文字制限のなかで書くということに関しては、感覚的に慣れていて。限られた文字数のなかで、どれだけ思っていることを言えるか、それが面白かったですね。

バッファロー吾郎A バズルゲームみたいな感じですかね。

せきしろ 108字にするという作業はまさにそうですね。手書きだとできないかもしれませんね。

バッファロー吾郎A 手書きだったら面倒くさくて無理ですよね。パソコンだからできる。

せきしろ 文節だけ思いつくけど、108字にならなかったものっていっぱいあります。

バッファロー吾郎A ああ、ありますね。

せきしろ フレーズは思いつくんだけど。あとが続かないとか。フレーズは絶えず何か思いつく。例えば「ここは鏡の世界なのだ」とか思いつくけれど、そこからどうすればいいのか、という(笑)。

バッファロー吾郎A 僕はお笑いをやっているので、一発ギャグを考えないといけないことがあるんですよ。で、キーワードとか出してやっていると、あれ、スライド? という感じでこちらの108字ができてしまったり。例えば龍はそれです。

龍の姿

 私は神と契約し、ついに龍の姿を手に入れた。天空をうねりながら炎を吐き、どんな攻撃をも跳ね返すこの無敵の力がどれ程欲しかった事か。
 ただ、この龍の姿ではもうお気に入りの白のワンピースは着られない。それが少しだけ寂しい。

バッファロー吾郎A 一発ギャグとしては「龍人(りゅうじん)」というのを考えたんです。「アート(落書き)」もギャグを考えているなかで生まれた。

アート(落書き)

 深夜の繁華街。人目を盗み、店のシャッターの前に立ち、スプレー缶を振る。これが犯罪? ふざけるな! 俺は気にせず書き殴る
「紫陽花が咲いたと聞いて遠回り」
 と。半年後、お〜いお茶に俺の作品が載っていた。誰だパクった奴は!

バッファロー吾郎A 「アート(落書き)」はまず、川柳がなんだかできちゃったんですよ(笑)。そこからギャグを考えていたら、そのうち煩悩にもいけるぞと。逆もあるんですよ。煩悩を考えているうち、それが一発ギャクにも使えるぞと。キーワードなんですよね、これ何か使いたいなと考えていると生まれる。

──例えばせきしろさんの「一体感」はどういう時に思いついたんですか。

一体感

 ひとり酒を飲む。他の客もそれぞれ飲んでいる。店のテレビを見る。ファンヒーター回収のCMが流れる。『あっ、これ、家にあるやつだ!』と思わず声が出る。『俺も』『私の家にも』と他の客も声をあげる。その時、店が一つになった。

せきしろ 単純にファンヒーターのCMが怖いからです。なんで怖いのか、とか、怖くないんじゃないか、とか、いろいろ考えているうちにできました。ファンヒーターで作れと言われたら10個くらい作れるんじゃないですかね、誰からも言われないけれど。ファンヒーターで108と言われても、どこまで作れるか……。最終的には作ってしまいそうですが。

バッファロー吾郎A 僕は煩悩を伸ばして、もう少し長い物語を書いたりもしました。このお仕事をいただいてから、考えるのがすごく楽になりました。長くも短くも、どっちにもいけるので。やっていると楽しいんですよ。

──それぞれご自分の好きな作品を教えてください。

せきしろ うーーーん。最初に書いたのが「柿」と「人だかり」で、こういう路線で書いていきたいと思った。

 柿がなっていた。おいしそうな柿で、私は思わず手を伸ばして掴んだ。柿をもぎ取った瞬間、頑固そうな老人が家から出てきて叫んだ。
「コラー、泥棒!」
 その声は美しく、自慢げに鳴いていた鳥達が恥ずかしそうに黙り込んだほどである。

人だかり

 事件があったようで人だかりができていた。何があったのか気になるけど背の低い僕は全然見えない。『もういいや』と諦めかけたその時、誰かが僕を抱き上げてくれた。
「横綱!」
 力持ちで優しい横綱。
「殺しだよ」
 情報までくれた。

バッファロー吾郎A お笑いのオチじゃないんですよね。この煩悩だけに許されるオチというのか(笑)。

せきしろ そうそう。その独特な感覚をお互い解釈して、昇華した結果様々な形ができた……。木村くんが書いてる「テニス男子ダブルス決勝」でも、最後に「僕達は見事優勝した。」とあるけれど、これってどうでもいい情報じゃないですか。でもそこにあることが面白い。それが煩悩的。

テニス男子ダブルス決勝

「後ろは頼んだ」そう言ってくれた前衛のアイツの背中が大きく見える。あれ? アイツの背中に浮かぶ横のライン、ひょっとしてブラジャー? 休憩中に聞くと「うん、そうだよ」と一片の曇りもない笑顔で返答される。俺達は見事優勝した。

バッファロー吾郎A ネタ番組とかお笑いコンテストで例えば「柿」をやっても点数にはならないですよね。でも文章にした時になんなのコレ、という。気になるんですよね。せきしろさんの「引退」も悲しいし。悲しい出来事のはずなのに笑えてしまう。それが108字の煩悩の世界ですね。

引退

 スーパーへ行った。買い物カゴに葱を入れた主婦がいた。葱はカゴから大きくはみ出していた。主婦が突然向きを変えた。カゴが半回転し、葱が私へと向かってきた。私はとっさに葱を避けた。その時に靭帯を痛め、引退することになった。

──バッファロー吾郎Aさんのご自分の作品で好きなのは?

バッファロー吾郎A 僕は「記憶」ですね。せきしろさんがコレいいですね、と言ってくれて、たぶんこの世界観が煩悩なんだと。あとお客さんの反応を見たいのは「マキビシ」ですね。笑ってくれるかな……。

記憶

 横断歩道の途中で立ち止まる。信号は赤に変わり、車のクラクションが鳴り響く。待ってくれ、あと少しで思い出せそうなんだ。
 そうだ、思い出した蜂だ!
「サルかに合戦」で敵討ちに協力したのは栗、臼、牛糞、あと蜂だ!

マキビシ

 必死で逃げる忍者。だが追っ手はそこまで来ている。マキビシを撒き散らして路地を曲がった所で様子を窺う。しかし誰も追って来ない。寂しく散らばるマキビシ。
 明日、子供やお年寄りが踏んでケガでもしたらどうしよう。

バッファロー吾郎A せきしろさんの「マジック」とか、マリックさんが本当にやってくれたら、おかしいですよね。

マジック

「マリックだ!」と若い女性が駆けよってきて「マジック見せてよ!」と無茶を言った。マリックが丁寧に断っても「いいから見せてよ!」と騒ぐ。そこでマリックは唇で女性の唇を塞いだ。女性は静かになった。これぞ最高のマジック!

せきしろ 全体的に子供っぽいよね(笑)。出てくるものが透視メガネとか蛇口をひねったらどうとか。殺し屋とか……。

バッファロー吾郎A せきしろさんの「武道館ライブ」で頑張ってって言われると頑張る気がなくなったとか子供ですよね。勉強しようとしてたのに、しろって言われたからもう嫌だみたいなね(笑)。面白くしようとするのと違うんですよね。ちょっと悲しかったり。あと登場人物が面白い行動をしないよう、それには気をつけましたね。

武道館ライブ

 夢だった武道館ライブ。観客の声援に思わず涙ぐむ。声が詰まり、うまく話せない。それでも私は感謝の言葉を頑張って伝えようとする。客席から「頑張ってー!」の声。
 頑張ろうとした時に頑張れって言われたので頑張る気がなくなった。

せきしろ そうだ、木村くんはこの本の刊行を機に改名したんだよね。

バッファロー吾郎A そうなんですよ。僕ずっと芸名に憧れていまして、正直あきらめかけてもいたんですが……。藤子不二雄(A)先生を尊敬しているので、「バッファロー吾郎(A)」にしたかったんですが、パソコンで丸Aの出し方がわからず。それでAになりました。よろしくお願いします。

せきしろ

1970年北海道生まれ。文筆家。主な著書は、『去年ルノアールで』『不戦勝』『妄想道』など。『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(又吉直樹との共著)で自由律俳句を詠む。

木村明浩

1970年兵庫県生まれ。吉本興業所属のお笑い芸人。1989年よりお笑いコンピ「バッファロー吾郎」を結成し、ツッコミを担当している。キングオブコント2008王者。著書に『ラブボール』などがある。

せきしろ/バッファロー吾郎A『煩悩短編小説』刊行記念インタビュー