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又吉直樹『第2図書係補佐』刊行記念インタビュー

又吉直樹氏『第2図書係補佐』
刊行記念インタビュー

お笑い会きっての本読み・ピースの又吉さんが、
尾崎放哉、太宰治、江戸川乱歩などの作品紹介を
通して自身を綴る「第二図書係補佐」が出版されました。
早速ベストセラーとなっている本書の刊行を記念して、
又吉さんにインタビューをしました!

──著書では、又吉さんオススメの47冊が紹介されています。もともとは劇場用のフリーペーパーでの連載だったということで、当時は劇場に来るお客さんを意識して本を選ばれていたんですか?

そうですね。基本は読めるであろう、そして読んで面白いと感じてもらえる本を選んでいました。読んでくれる人の中には、中学生の頃の僕みたいに本を全く読んでいない人もおるかもしれないんで、そういう人のための本もないとあかんし、いろんな本があったほうがええなとは思ってましたね。連載第一回めを穂村弘さんの『世界音痴』にしたのは、それこそ小説を読まへん人や文章に慣れてない人が入りやすいんちゃうかなって思ったから。穂村さんの本は文章もきれいで柔らかい中に読みやすさもありながら、ハッとするようなことも書いている。歌人ならではのいろんなものが詰まっているので、連載初回として打ってつけだと思いました。

──本を紹介するという目的がありながらも書評ではなく、本を読んでご自身が感じたこと、ご自身が体験したことを綴るというエッセイ的な書き方を選んだのはどうしてですか?

書評家のような文学を語る方の書く文章は、本を読み慣れている人に向けて書いていることが多いというか。下手すれば、紹介されている本より難しい(ことを書いてある)時もあると思うんです。元々、僕の周りは本を読む人が少なかったので、そんな人達にどうやって本を読んでもらうかについて、今まで色々と考えてきたんです。小説の面白さは文体やったりもするし、僕が好きなところもそこなんですけど、まずはわかりやすいところから伝えるというか。“こういうことを書いてんねんで”っていうことを伝えるのが手っ取り早いなと思いました。それで、友達と2人でいる時に「この間、こんなことがあってんけど」って自分のエピソードをまず話して共感してもらえたら、「同じようなことが書いてある小説があって、こういうねんけど」って紹介する方法をとってたんです。そこで興味を持ってもらえたら、「読んでみたら?」って薦めて(笑)。読書を好きになるであろう性格の人はいっぱいいるんですけど、読むことに慣れてなかったり、苦手意識を持っているから、まずはどういうふうに読んでもらうかが大事で。そこには“なぜ(そこまでして)読ませなあかんのか?”っていう問題も出てくるとは思うんですけど、僕の場合、単純に面白いものを共有したいからなんですよね。例えば、美味いラーメンを食って「これ、めっちゃ美味い。ちょっと食うてみて」って言うのと一緒。“ラーメンが美味い”という喜びを分かち合いたいのと、なんら変わらないんですよね。

──面白いと感じた本も共有したいということですね。

そうです。本を共有できる友達がずっといないと、本好きやっていう人に出会ったら嬉しくて喋りたくなるじゃないですか。それに、笑うポイントとか趣味が一緒の人やったら、“こんだけ合うてんのに、本の趣味だけ合わへんってことはない!”と思うんです。僕がハッとするような、そんなことを考えたことがなかったという視点を突き刺してくるような人に出会うと、“この人がこれを読んだら、どう思うやろ?”とか“この人が与えてくれたものと、同じ感触を持っている本を読んでもらって一緒に喋りたいな”と思ってしまう。ただ、文章に慣れてなかったりすると、イマイチようわからんなって思われてしまうんで、興味を持ってもらうための階段を作るために、自分のエピソードを話してたんです。で、本を紹介する連載をやるってなった時にも、僕が普段、友達にやっていることと同じやりかたでやったほうが興味を持ってもらえるかなと思ったんですよね。

──登場人物に自分を近づけて共感する読み方をしている人は多いと思うんですけど、又吉さんの場合は逆に本を自分にたぐり寄せているようでした。本を読む時も、自分にたぐり寄せて共感できる部分を探しながら読んでいるんですか?

いえ、何も考えてないですね。というより、太宰治が抱えていることには、身に覚えがあることが多いんですよ。小さい頃に“俺しか思いつかへんような個人的やけど、すごいことで、歴史的な発見をした”と思っていたことや、“友達に言ってもわからへんから、この発想をいつか発表するぞ”と思っていたようなことが、太宰の小説にはたくさん書いてあったんです。太宰治の書いたものは全集で最低2周は読んでますし、有名な作品や好きな作品やったらもっと読んでいます。『人間失格』なんて10回以上は読んでますけど、未だに“俺が思ってたことや”っていう発見があるんですよね。

──最近もそういう経験はありましたか?

『マンスリーよしもとPLUS』(注:吉本興業から発売されている月刊誌)の「芸人オシャレランキング」で1位になった時、めっちゃ恥ずかしかったんですよ。で、(記者会見の当日に)twitterへ「どの服も着る気がしない。国民標準服の上下Mを2枚下さい。群青色とビリジアンがある? 二色作ったらあかんやん」って書いたんですけど、“あれ? これ……”と思って、太宰の『服装に就いて』っていう短編を開いてみたんです。そうしたら、最後「国民服は、如何。」で終わってる。ただ、僕は「服装に就いて」から着想を得て、「国民標準服の上下Mを2枚下さい」って書いた訳ではなくて。いろんな葛藤があってそう書いただけなんですけど、僕よりはるか前に、太宰はこういう本質的な“あるある”を書いていたんですよね。

──そういった共鳴できる部分を本に感じているからこそ、又吉さんは純文学がお好きなんだなと今思いました。

そうですね。極端なことを言えば、僕は作る側の人間なんだと思います。だから、作っている人に甘いのかもしれない。“甘い”というか――純文学の中でも好き嫌いはもちろん、“より好き”と“まあまあ好き”っていうのがあるんですけど――作り手として、面白いと思えなあかんと思っている節が強いのかもしれないですね。ものを作る人間として、(作家が)やろうとしている意図やどんな気持ちで書いているかがわかるから、心構えとしてどんな作品でも向き合おうというのがまずある。それはなんに対してもそうなんです。絵のことはわからないですけど、観に行っても素通りでけへんというか。わからないなりに1つ1つちゃんと観て、何かを感じ取ろうと思うんですよ。だから、もし“この小説おもんなかったな”と思ったら、原稿用紙を広げて5枚でいいから自分で書いてみて欲しいんです。小説を書くことの難しさに気づきますから。“小説の中で人物はどうやって喋ってたかな?”とか、“どういうふうに会話して、どういうふうに動かしてたかな?”とか考えて、“これやったら会話にならへん”とか“場面にならへん”って実感すると、“天才やん、あの人ら”って思うはずなんです。そうすると、次に本を読む時には1行目から“どうやって書いてんねやろ”って興味を持って読み始められる。それは、お笑いのネタでも一緒ですよね。僕も子どもの頃、ネタを書こうとしてネタ作りの難しさを感じて以来、テレビに出ている人達が先輩になりましたから。

──確かに、それは読書のコツではあるかもしれませんが……。普通の人が試すには難しい、本好きな又吉さんだからこその発言だなと思いました(笑)。そこまで又吉さんを魅了する本の魅力って、一体なんでしょう?

なんなんですかね。いろんな本が好きですけど、やっぱり一番は純文学になりますから……。(じっくり考えて)あの、自分の中の何かをえぐり取られたような感覚がたまらなかったんですよね。

──純文学の面白さはどういうところにあると思いますか?

人間が真剣に考えてることとか、悪気も悪意もないのにどんどん破滅に向かっていく様が書かれていたりするじゃないですか。そこに、世界の本質があると思うんです。生きていると、必ず何かに躓きますよね。失恋なのか、親とのケンカなのか。自分の才能を認められへんかったりと、何かしらかが毎日ある。そういう落とし穴のヒントが、純文学にはあるんです。先ほど話した『服装に就いて』もそうですけど、現代の人でも考えそうなことが既に書かれているというのも面白いですし……。人間がその時何を思っていたか、というドキュメントみたいな面白さもあるのかなと思いますけどね。

──純文学には素晴らしい作品が多いですが、文章が難解だと敬遠する人も多いのが悲しいところですよね。

難しく書いてるから嫌やとか、もっと簡単な言葉で書けばいいやんって言う人いますけど、その発想は僕にはないです。それは漫才でいうところの、「ツッコミなんて全部“なんでやねん”でええやん」って言っているのと変わらないと思うんです。例えばコントのネタを作る時に、ボケの中でお兄ちゃんが変なことを言うとしますよね。その時のツッコミが、人に対して「お前、変なこと言ってんじゃねぇよ」と、作品の中に入った上での「お兄ちゃん、何言ってんの?」では、僕の中ではまったくの別問題なんです。このボケを立たせるために、どの言葉を選ぶかっていうのは絶対に必要な作業で、アホなヤツに「アホなこと言うな」って言ったら、全てが終わってしまうんです。

──選ばれた言葉には全て意味があるということですね。

そうです。人って自分の能力を超えたものを、わからんとかおもんないとか言って自分を安全圏に置きたがる癖がありますけど、わからないものをわかりたいと思う気持ちが大切なんです。必然性のあるものは読んでいてわかりますから。……ただ、僕も一度だけ、他人が書いたものに“わからない”と感じたことはあります。

──それはいつ頃のことですか?

高校3年生の時ですね。先生に、親と子どもの関係を難しい言葉で書いた論文を読まされて、どう思ったか書けって言われたんです。その時だけです。人の言葉に、“なんて書いているかわかりません”って書いたのは(笑)。

又吉直樹

一九八〇年大阪府生まれ。吉本興業所属のお笑い芸人。お笑いコンビ「ピース」として活動中。「キングオブコント2010」準優勝。TV番組「ピカルの定理」出演中。舞台の脚本も手がけ、雑誌での連載も多数。著書に『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』(共著、小社)など。