書評:桂望美著『ハタラクオトメ』

AKB48とハタラクオトメたち

香山二三郎


 AKB48といえば、今をときめく女性アイドルグループ。その名の通り、基本四八人のメンバーが三つのチームに分かれ、日々東京・秋葉原にあるAKB劇場で歌と踊りを中心に公演を行っている。
 アイドルグループだから、そりゃもう可愛い娘ばかり──といいたいところだが、皆が皆、図抜けて容姿端麗というわけではない。リーダーの高橋みなみからして身長一四八・五センチと小柄だったりする。
 そもそもこのグループ、コンセプトからして従来のアイドルたちとは少々異なっているのだ。専用劇場で毎日公演を行う“会いに行けるアイドル”であること、そして自分たちが成長していく過程をファンに見てもらい“ともに成長していくアイドル・プロジェクト”であること等々。
 その意味では、AKBを将来歌手や女優になるための通過点としてとらえているメンバーもいるというが、彼女たちの人気がそうした独自のコンセプトが浸透するにつれて高まっていったのは間違いない。
 ──なんて紹介してくると、いかにもアイドル小説のレビューのマクラみたいだが、本書はアイドル小説ではない。ヒロイン北島真也子は中堅の時計メーカーに勤める二五歳のOL。注目は体型で、身長一五七センチ、体重がなぁんと一〇〇キロなのだ。人呼んで、「ごっつぁん」。
 関取がご馳走をいただくときに発する、あの言葉である。
 さすがにアイドルというには無理があるが、だからといって彼女が自分の体型を恥じていると思ったら大間違い。それどころか、周囲に自らごっつぁんと呼んでほしいと提案、この会社での「デブ枠」はもらった、と宣言するような至ってポジティブにして戦略的なお嬢さんなのである。
 本書はそんな彼女ののどかなOL生活がまず描かれていく。総務部人事課に異動して間もないが、「常に明るく元気のいいデブでいること。これが団体の中で平穏な生活を送る重要な要素だと」悟っている彼女は自他ともに認める愛されキャラ。食べるのも好きだけど作るのも好き、というわけで、手作りの料理やお菓子を通じてコミュニケーションを図る〃食べニケーション〃を通じて生活をエンジョイしていたが、そんなある日、策士と噂されるバンザイこと奥谷取締役に呼ばれた彼女は女性だけのプロジェクトチームを作ることになり、そのリーダーを仰せつかる羽目に。
 ポイントは消費者に近い感覚ということで、ごっつぁんを含めたメンバー六名はいずれも企画部以外から集められた。古巣・営業一部の林絵里(絵里先輩)と後輩の小滝千香、経理部の谷垣真由美(あだ名はジミー)、宣伝部の深浦もえ(同じくラッパー)、そして美人秘書の石川亜衣。それぞれ個性に富んだ面々ではあるけど、寄せ集めは寄せ集め、いきなり腕時計を開発せよといわれたところで、最初は何のアイデアも出てこなかった……。
 上からの命令ではあるけれども、あるプロジェクトのためにバラバラの部署から素人のメンバーが招集される──それって、どこかで聞いたような。そう、筆者が冒頭にAKB48の話を振ったのも、実はごっつぁんたちのチームとAKBが重なって見えたからにほかならない。
 日本の会社の大半は男社会。組織の運営から仕事運びまで男中心に成り立っている。ごっつぁんたちの会社も例外ではなく、彼女自身、そうした男社会の周縁で働いてきた。彼女が上司や同僚にあだ名を付け、その動向を冷静に観察できたのはその外側にいたからだが、プロジェクトチームの発足とともに、内側に足を踏み入れなくてはならなくなる。すると「見栄、自慢、メンツ、根回し、派閥争い」といったそれまであまり見えていなかった男たちのしょーもない関係性も顕在化して、彼女たちの前に立ちはだかるようになるのである。
 ごっつぁんたちはそれにどう立ち向かうのか、はたまた独自の企画を立ち上げることは出来るのか。筆者がそうした彼女たちの姿に再びAKB魂を見たのは、しっかり美女なのに自分の意見をなかなか主張できない亜衣に対して、ごっつぁんがこう諭す場面。ごっつぁんいわく、「もしかして一番若いってことで、遠慮してる? そういうのいらないよ。男たちはそういう順番、すごく大事みたいだけど、私たちはそういうの、関係ないから。チームのメンバーは皆同じように戦力だからさ」。
 ごっつぁんの顔とたかみな(高橋みなみのことだ)のそれが思わずダブって見えた瞬間。ごっつぁんAKBもやがて自分たちならではの強みを発見し、仕事に覚醒していく。旧弊な男社会を撃つ警世の書といったら大げさかもしれないが、本書が痛快な読後感をもたらしてくれるのは間違いない。AKBファンならずともお奨めしたい爽やかな成長小説である。