二度目の思春期に突入した女性たちの、真面目な「正義」の戦い。


2010年に『更年期少女』というタイトルで刊行した怪作が、『みんな邪魔』というタイトルで、装いも新たに文庫版で再登場。著者最高傑作の呼び声高いこの作品にこめた思いを、真梨幸子さんにうかがいました。

著者プロフィール

真梨幸子(まり・ゆきこ)

1964年宮崎県生まれ。「孤虫症」で第32回メフィスト賞を受賞しデビュー。日本心理、とりわけ女性の暗部を独特の筆致で書き上げる作風が話題に。著書は、『殺人鬼フジコの衝動』『深く深く、砂に埋めて』『ふたり狂い』など多数。今大注目の女性作家。

Q1 この本は、どこにでもいそうな、普通のおばさんたちのその姿がとても印象的ですが、親本である『更年期少女』のタイトルにもあるように、どうして、この世代の女性たちを描こうと思ったのですか。

 まさに、私自身が更年期に片足をつっこんでいるからです。このモヤモヤ感イライラ感を文字にするのは今しかない! ……と思いまして(笑)

Q2 モヤモヤ感! 作品の中の彼女たちもその得体の知れないモヤモヤを“自分の大切なもの”にぶつけて消化させる姿が辛辣ですよね。お話の中では、少女漫画ですが、宝塚やジャニーズ、韓流に熱狂する女性たちについて共感されること、怖いと思うことはありますか。

 そういうものの熱狂的ファンになる理由は、大きく分けて3つあるような気がします。ひとつめは、快感。なにかにハマっているときって、快感そのものなんですよね。なにかに夢中になっている自分に酔っているというか。まさに、思春期の頃の「恋に恋する」状態。あの甘美なハイテンションは、なかなかやめられません(笑)。私にも経験があります。
 ふたつめが、ミイラとりがミイラに。
 共通の話題を持った同士の会話ほど、楽しいものはありません。それではなにを話題にするか? というとき、手っ取り早いのが、今、流行っているもの。はじめは話を合わせていた程度なのに、気がついたら自分までもが夢中になっている、なんてことは多いと思います。
 そして、最後が、暇つぶし。
 仕事がのっているときは、何かにハマっている場合ではありません。でも、時間に余裕ができたり、仕事がつまらなくなると、とたんに不安になる人がいます。そういう人は、「私はこの人が好きなんだ、好きなんだ」と自己催眠をかけてでも、自らなにかにハマっていきます。生活に充実感がほしいんです。
 いずれにしても、「ハマ」るというのは悪いことではないと思います。ただし、用法を間違えたら、とんだ副作用もありますが(笑)。
「みんな邪魔」は、まさに、用法を間違えた女たちに襲い掛かる副作用のお話です。

Q3 いま、30万部を超える大ヒット作品『殺人鬼フジコの衝動』でもありましたが「こんなはずじゃなかったのに」という思いが『みんな邪魔』では、更に炸裂していましたね。

「こんなはずじゃなかった」というのは、なるべく、自分自身の身には起きてほしくないものです。起こったとしても、隠しておきたいもの。
 でも、他人が呟く「こんなはずじゃなかった」というのは、美味しく感じられます。「え、どうしたの? なにがあったの? どこで間違えたの?」と、つい、根掘り葉掘り聞きたくなります。この野次馬根性こそが、「ページをめくる指が止まらない」の原動力ではないでしょうか。

Q4 野次馬根性といえば、噂話を楽しむ“青い六人会”が、はからずしも、どんどん豹変していく様子が怖かったです。女性同士(特に大勢)が集まった時に発生する、あの独特の力関係が見事に描かれています。

 今の社会は「みんな平等」が建前ですが、実際は、二人集まった時点で「この人は私より上か下か」と、無意識にランキングするのが人間だと思うのです。封建社会の時代は、「身分」という分かりやすい物差しがありましたが、今はそんなものはない。だから、住んでいる場所や収入や学歴や職業、あるいは身につけているものやファッションセンスや容姿など、順位付けの基準になるものを見つけて、相手をジャッジしようとします。または、ジャッジされる前に、自ら上位に立とうと過剰にパフォーマンスする人もいたりして、なかなかに複雑です。
 男性の場合、一度ランキングが決定したならばそれで割と安定しますが、女性の場合は、どうも下克上が頻繁に行われる。その下克上こそが、女性の人間関係に独特な緊張感を生むのかもしれません。

Q5 そういう女性の人間関係を適確に描かれるので、それがあまりにも辛辣で、真梨作品は、嫌汁たっぷりのミステリー(=イヤミス)と呼ばれますが、それについてはどう思われますか?

 私自身は、「イヤミス」を書いているつもりはないんですが(笑)。
 ただ、後味が悪い作品になるのは、私が学童期を過ごした昭和40年代の雰囲気が影響していると思います。
 当時、映画でも漫画でもドラマでも、どういゆうわけかバッド設定、バッドエンドのものが多かったんです。子供番組であるはずのヒーローものでさえも。その中でも、最も影響を受けたのが、「人造人間キカイダー」です。不完全な良心回路のせいで正義と悪の心をもつジローが、その狭間で悩み、時には狂わされます。そして、完全な悪の心を持つことで人間に近づくことができるのですが、このラストが、私の作風の根底にあるのかもしれません。
 あと、忘れてならないのが、「デビルマン」。これはもう、言わずもがなですね。

Q6 『みんな邪魔』という新タイトルのように、夫も子供もみんな邪魔、と自分の幸せを追求する女性たちがとにかく怖いこの作品。「みんな邪魔」という言葉に込められた思いをお聞かせください。

 しかし、「邪魔」という字面は、とことん、ダークですね。「邪(よこしま)」に「魔」ですよ?
 調べたみたら、この言葉は仏教用語のようです。「仏道修行の妨げをする悪魔」が由来で、転じて、「妨げになるもの」になったとか。
 と、いうことは、「邪魔」と思われたその対象は、その時点で悪魔なわけです。悪魔なわけですから、とことん戦って取り除かなくてはならない。しかし、それはその人の主観で、第三者から見たら、意味不明な正義の戦いなわけです。
 まるで、ドン・キホーテですね。
 そう、「みんな邪魔」は、平成日本を舞台にした、ドン・キホーテのお話です。ドン・キホーテも騎士道物語の読みすぎで妄想世界にのめりこみ、自分自身こそが騎士だと思い込んで、世直しの旅にでかけます。が、現実と妄想がごっちゃになっているドン・キホーテですから、行く先々でトラブルを招く。
「みんな邪魔」に登場する女性たちも、自分なりの「正義」を持っていて、それを貫くために「悪魔」と戦っているといえるのです。

Q7 ずばり、それぞれの女性たちの中で、真梨さんがいちばん怖いと思っている女性は誰でしょうか。その理由も聞かせてください。

 怖いのは、「青い瞳のジャンヌ」の原作者ですね。
 この人には、まだまだ謎がありそうです(笑)

Q8 『みんな邪魔』は、とにかく平凡な女性たちが怖いのですが、怖すぎて、どこか笑ってしまうのが不思議です。ワイドショーを見ているみたいに……。

「笑い」の根底にあるのは、「他人の失敗や不幸」だと思いませんか? たとえば、落語にしても漫才にしてもコントにしても、つきつめれば、「失敗」や「不幸」をネタにしています。誰かが石に躓いて無様に転ぶのを見て、おかしくなる……というのが「笑い」の原点だとすれば、これはなんとも残酷な話で(笑)。
 要するに、人の不幸を描けば描くほど、どこかユーモア(笑い)が浮かび上がってくる。……他人の不幸は蜜の味、ってやつでしょうか。

Q9 そうですね。ところが、他人の不幸を笑っているうちに、どんどん笑えなくなっていくのが、また怖い……。さて。これからどんな作品を書いてゆかれたいですか?

 ところが、今、ネタの引き出しが、ピンチなのです。ストックがどんどんなくなって……。あれが書きたい、これも書きたいと長年ためてきたものが、案外早くになくなりそうで。そろそろ、新しいネタを仕入れに、心の旅にでかけないといけないかな……と思っています(笑)

Q10 最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

 うっかり、私の本を手にとって、イヤーな気分になってしまった方、本当に申し訳ありません! 口直しに、ぜひ、美しいお話を読んでくださいませ!