みそずい〜ミソジのつぶやきレター
大久保佳代子さま

 前略 そういえば、今年は大久保さんと旅行に行っていませんでしたね。ここ何年、年一ではどっかに行っていたのに。多分、春からラジオのレギュラーがはじまり、週一で会えるようになったからでしょうね。また始まってしまったんでしょうね。「相方? うざいっすよ。プライベートぐらい別行動したいっすよ」期間が。
 去年は一緒に奄美大島に行きましたね。ハルさん(年増の独身メイク)とミドリちゃん(少女的おっさん)の女?4人で。気の置けない仲間たちと、ただただ海で魚と泳いでいる3日間でしたね。
 そういえば、こんなことありましたね。色黒の、どう見ても分厚いだろ?って見える大久保さんの肌が、日焼けでドえらいことになるという事件が。気を使わなくていい関係というのは楽でいいですが、時に残酷です。ハルさんもミドリちゃんも、そして私も、まず口をついた言葉は「大丈夫?」ではなくて、「ほらみろ!」でしたね。
「日焼け止めちゃんと塗らなかったからぁ。奄美の日差しナメんなって言ったでしょーが!」
 そう言われて、大久保さんが真っ赤になって、かゆみを帯びている肌を隠れるようにして掻いていたのを、私は知っています。少し反省しました。あの旅行を境に大久保さん、プチ日光アレルギーになってしまったんですよね。「せっかく奄美に来て泳がないなんてもったいないよ」と無理に泳がせた私たちが悪いと思います。「自業自得だよ」と、肌の不調を訴えられない状況に追い込んだ私たちが悪いと思います。
 しかし「私なんてどうでもいいのよ」とヤケになって、どんどん赤くなる肌に、かゆいからといって虫刺されの薬(メンソール系)をガンガン塗ったくった大久保さんも、どうかと思います。いわば火傷ですからね。
 帰りの飛行機の中、「痛くて眠れない」と言った大久保さんの肌に小さな水泡ができていたのを私は知っています。その時私は、心の中で、心から言いました。「大丈夫?」と。なぜ口に出さなかったって? それは「おせーよ」と言われると思ったからです。

 今年の夏は、家族と奄美大島に行きました。父、母、兄、兄嫁、妹、そしてなぜか、いつもの年増メイク・ハルさんと少女的おっさん・ミドリちゃんというメンバーで。
 光浦家は、ご存知のとおり、全員目が悪いです。母一人、普段はメガネをかけていませんが、正直、あんまり見えていません。いざって時はメガネをかけます。簡単にいえば、一家全員、要メガネです。一家全員の両目の視力を足しても、1.5ありません。
 なので、海は困ります。メガネかけたまま海では泳げないでしょう? なくしたら命取りですからね。砂でレンズが傷つくと嫌だからと、メガネをタオルの下に隠して泳ぎにゆくじゃないですか。そのメガネを見つけるのが一苦労なんですよ。一家全員で、「メガネ、メガネ」状態なんですよ。「私のどこ?」「おれのどこ?」って、荷物を手探りでぐちゃぐちゃ、がちゃがちゃ、ですよ。やっとメガネを掴んだはいいが、それが自分のかどうかは分からないんです。
 家族というのは趣味も似るというのか、似たようなメガネが多いんです。顔のすんごく近くまで持ってきて、やっと分かるのです。「あ、これヤスのだわ」「あ、こっちお父さんの」「これアキの」メガネトレードが始まるのです。本当、大変ですよ。
 光浦の血を引いていない兄嫁だけは目が良いので、よく手伝ってくれました。「お父様これですよ」「靖子さんこれですよ」とメガネを配ってくれました。本当に、兄はこの嫁をもらって正解でした。助かりました。
 メガネだけじゃありません。半島という、上も下も左も海という土地で育ちながら、うちの一家は海には向いていないようです。
 父は自称「渥美のカッパ」という程、泳ぐことが大好きなのに、歳のせいかすぐ足をつります。2分に1回は足をつります。しょっちゅう「痛たたー」と叫び、ストレッチをしていました。
 兄はクラゲに刺されたのか、塩かぶれしたのか、体中がまだらになっていました。背中と腹に気持ち悪い、真っ赤なマーブル模様ができていました。
 妹は日光にあたりすぎて、熱を出しました。「目、目が回る……」と、たまに白目になっていました。
 母は、そんな妹をみて、「せっかく旅行に来たのに可哀想だやぁ」となげいてるうちに、自分も熱を出してしまいました。
 そして、みんな岩の周りを泳いでいたので、体の色んなとこから血をダラダラ流していました。しかし、誰一人、泳ぐことをやめません。みんな、笑顔で「海って気持ちいいやぁ」と言っていました。そんな光浦一家を見て、メイクとオカマは「超ウケるぅー」と言っていました。
 ミドリちゃんは、天性の人懐っこさとお喋りで、すっかり両親と仲良しになってしまいました。彼女はとにかく良く食べます。いつもおかわりをします。うちの親は昔からおかわりをすると褒める癖があります。
「えらいやぁ、ミドリちゃんは沢山食べて。うちのタローなんてご飯が嫌いで、全然食べやせんだよ。あ、私のおかず食べて、これ手つけてないで」
「ほんと、タローもミドリちゃんぐらい食べりゃあいいのになぁ。あ、おれのも食べて」
 両親は飼い犬と彼女を比較しては褒め、自分のおかずを渡していました。その失礼に気づかず、喜んで食べていた彼女に感謝です。
 あまりに3人の仲が良いもので、あるとき私が質問をしました。「もし、私がこの人と結婚するって言ったらどうする?」と。彼女は、見た目はバリバリの男です。どっちかというと、男臭いほうの男です。私は両親に「この人ゲイなの」という紹介はしていません。ただ、名前を言っただけです。「こちらミドリちゃん」と。ただ、その少女的名前と、少女的言動で、両親はうすうすは感じていたとは思います。
 両親は「え?」という顔をして考え込みました。そして母が口を開きました。
「そうねえ……ミドリちゃんとおると、やっちゃん楽しそうだし……。ミドリちゃんはやっちゃんの良さを引き出してくれるでねえ……」
 まるで結婚を許す、という言い方でした。両親はそこまで私の結婚はお先真っ暗と思っていたのでしょうか? ここで手を打っとけと思ったのでしょうか? 少し悲しくなりました。

 今回、家族と旅行をして良かったと思います。私が言いだしっぺで、旅行の責任者になったばっかりに、本当に大変でしたけど。
 故郷にある海は、正直、キレイではありません。緑色した海、ねずみ色した砂浜、流れ着いた海藻、木々、古い洗剤のボトル。私は思ったんです。両親は知っているのだろうか? 本当にキレイな海が日本にあるということを。魚と泳ぐということを。
 そんな話を両親にしたら、ぜひ一度、奄美に行きたいと言いました。「水が怖い」と言っていたカナヅチの母は「それまでに泳げるようにしないと」と、父と近所のプールに通い始めました。お風呂でシュノーケルをくわえる練習を始めました。
 しかし、私たちが着く前日まで奄美は台風で、私の見せたかった海を見せることはできなかったのでした。100パーセントの透明度と、沢山の魚たちを。初日など、水が濁っていましたから。「本当はもっとキレイなんだよ。本当はもっと……」私は言い訳ばかりしました。
 翌日、奄美の人が、台風の影響の少ない浜に連れていってくれました。そこは、人っ子一人いない、真っ青な、とてもキレイな海でした。本当に絵葉書のような、何もない白いサンゴの浜でした。全員のテンションが上がりました。
 しかしその海は、やはり台風の影響でしょうか、流れが早く、そして深く、カナヅチにはちょっと危険な海でした。一番近い岩は20メートルは沖にあり、そこまで行かなければ魚は見られません。水深は5,6メートルはあるでしょう。母と、母譲りのカナヅチな私は、浜でみんなを見ていることしかできませんでした。みんなはガンガン沖に向かって泳ぎ「魚いたよー」とはしゃいでいました。父は泳ぎが得意とはいえ、もう65歳です。ヒヤヒヤして見ていました。父も自分の体力の衰えを感じたのか、少し泳ぐと、サンゴ拾いのほうを始めました。私は「見せたかった海は浅いとこにも魚がいっぱいいて……」と、また母に言い訳をしたのでした。
 父が私のところにやってきました。「やす、沖には魚がおるぞ。行くか?」と。足がつかないから怖い、と断ると、ニヤニヤしながらこう言いました。
「おれには海の神様がついとるで、溺れやせんぞ」
 見ると、父の首には、サンゴをひもでくくった首飾りがぶら下がっていました。サンゴの浜を行ったり来たりしていたのは、ひもを探していたのでした。こっそりそんなモノを作っていたとは……。
 父に「大丈夫だ、怖がるな」と言われながら、一緒に泳いだのは何十年ぶりでしょう。子供の頃とは違った恐怖感でした。足はつかない、掴まるものはない、横にいるのはすぐに足をつる歳とった父だけ、死んでも溺れるな、でした。ずいぶん頑張って泳いだわりに、見られた魚は1匹だけでした。でも、父の「お前は、まだまだだな」という顔を見られて、何だか嬉しかったです。
 いつの間にか、母も泳ぎ始めていました。膝ぐらいの深さのとこで、横に向かって。下手なクロールで3回しか息継ぎができません。目をつむって泳いでいるのでしょう。立ち上がり、水が胸の高さになっていることに気づいては、びびって移動していました。「最長記録が出た!」と喜んでいました。
 そんな両親を見て、私は可愛いと思いました。そして、首飾りを自慢する父に「しつこい」と文句言える妹を、うらやましいと思いました。親を可愛いと感じるって、何だか親を抜いたみたいで、少し寂しくなりませんか?

「東京タワー」を読んだ大久保さん、後悔する前に家族旅行してごらんなさいな。ただ、家族というのは、すぐちょーしこきますけどね。
 帰り際、「来年もよろしくね。海もねえ、あんまりだったし。あ、お金はやっちゃんもちでいいかねえ?」と軽―く言われました。
 でも、行くべきです。今回の奄美も「えー? 光浦さんの家族と旅行行ったら、自分の家族も連れてかにゃいかんくなるじゃん」と断った大久保さん。
 一つアドバイスです。家族のいい面を見たいなら、ちょっとした緊張感、気を使わない他人を連れてゆくことです。
草々 光浦靖子