THE B-TEAM 実況野郎文芸部
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特集コーナー
KATOO! 知恵袋
インタビューの面白さに目覚めた加藤がとった次なる行動は、「プロのインタビュアーにインタビューをしにいく」だった。全身を震わせながら行なった特集、どうぞごらんください。今回もこってり風味です。

取材のまえに
永江朗『インタビュー術!』講談社現代新書
『インタビュー術!』
講談社現代新書
 日常はインタビューで出来ている。テレビも新聞も雑誌もすべて、人から聞いた話で構成されている。この始まりの文を見て、うなずいた。そんな基本的なことを思い知らされたのがこの『インタビュー術!』。インタビュー歴約半年しかない俺だが、この本に書いていることはスラスラと頭に入ってくる。今までに経験したインタビューの知識や失敗談、反省点など共感できる点がたくさんある、ああ、他のライターもこんなことで悩んでいたんだな。インタビューを行う前とあとではこの本を読んだ感想も違ったものになるだろう。インタビューを経験するまえにこの本を読んでおきたかった。フリーライターを目指している皆さん。この本を見なければ始まりませんよ!

 質問をして返ってくるから楽しい。
 質問をして答えが返ってくるという単純な行為が凄く楽しいと感じるようになっていた。知らないことを知ることが出来るということもあるのだと思うけど、こちらの問いを相手は精一杯受け止めて、返してくれる。いつのまにか「インタビュー」という行為そのものが楽しくなってきた。昨年12月。京都へ取材に行ったときのこと、そのころ、自主制作アニメ「フミコの告白」でネットを騒がせていた石田祐康さんへのインタビュー中に気がついのだ。
 今までのB-TEAMの取材は、このアニメとゲームが好きだからそれに携わった人に話を聞きに行きたい、というのが常に頭にあったのだ。
「プリキュアシリーズ」の鷲尾天さん「スパロボシリーズ」の寺田貴信さんにしてきたインタビューでは、一ファンのミーハーな気持ちが前に出ていたと思う。
 石田祐康さんは初めて会う人だった。
 最初は「昔から好きという感情がなくてもいいインタビューに出来るだろうか」とか、「いい質問を聞き出せるだろうか」をずっと考えていた。しかし、インタビューを進めるうちに、そんな心配はどこかに吹き飛んでしまった。今までは作品についての話を聞くのが楽しかったのが、このインタビューをしているなかで、質問をして答えが返ってくることが楽しいと思い始めていた。
 もちろん、初対面の人と話すのは苦手だ。でもそれは俺が人見知りなだけであって、人間が嫌いなわけじゃない。むしろ話すのは好きなほうなのだ。一人で家にこもってコラムを書いてるのも楽しい、でも人とコミュニケーションを取るのはもっと楽しいと気づいた時、俺はインタビューという行為について考えるようになっていた。
いちご牛乳とパン
生協で買ったいちご牛乳とパンをもぐもぐ。パンといっしょに質問原稿もかみしめる。

 編集さんとインタビューについて話している時に、『インタビュー術!』という本を紹介してもらった。面白い。インタビューとはこんなに奥が深いものだったのかと改めて考えさせられた。それからはこの本の著者、永江朗さんのことを調べ、著作も何冊か読んでみた。本を読み終えたとき思った。よし、永江朗さんにインタビューしよう、と。
 永江さんは現在、早稲田大学文化構想学部で客員教授をやっていて、学生たちに出版関係について教えているらしい。取材場所は永江朗研究室。取材当日学生たちから、もぎたてフルーツも真っ青なくらいのフレッシュなオーラを吸収することも計画の一つにあったのだが、近くにいた学生たちはみなカードゲームに興じており濃い会話が聞こえてきたため、それは断念することにした。どこの学生もみな同じなんだなあ。取材時間が近づいてきたので、永江さんの部屋へ。
 一呼吸おいてから、扉を叩く。失礼します、加藤です。


永江朗インタビュー

永江朗
永江朗
ながえあきら 1958年5月9日生まれ。北海道市出身。法政大学文学部哲学科卒業後、西武百貨店系洋書店を経てフリーライターの道に進む。現在、早稲田大学文化構想学部教授(任期付)も勤める。『不良のための読書術』(ちくま文庫)、『インタビュー術!』(講談社現代新書)、『聞き上手は一日にしてならず』(新潮文庫)、『書いて稼ぐ技術』(平凡社新書)など著書多数。


場慣れしていないインタビュアーの方が信頼できる?
加藤
人見知りで初対面の人と話すのが苦手なのですが、これから先インタビュアーとしてやっていけるでしょうか
永江
緊張する人が駄目ってことはないです。後藤繁雄(アクの強い老人にばかりにインタビューした『独特老人』などの著書で知られる名インタビュアー、編集者)さんは非常に木訥らしいんですが、かえってインタビュイー(話し手)の方が気を遣って一生懸命喋るからいいインタビューになると聞いたことがあります(笑)。アナウンサーみたいになめらかに話すインタビュアーは信用出来ない。いかにも場慣れした感じがイヤですね。
加藤
インタビューを受けるときにそう思うこともあるんですか?
永江
あります。(元長野県知事で新党日本代表、作家の)田中康夫さんはキャビンアテンダントが好きでアナウンサーが嫌い。その理由を尋ねたら、アナウンサーは進行のことが常に頭にあって、ゲストが一生懸命喋っていても、はいそうですね、って深く受け止めずにスルーしてしまう。表面上は美しく見えるけども、すごく不誠実。キャビンアテンダントはお客さんに対して、体の具合はどうですかとか今日はありがとうございましたとか、一対一の接し方をする。キャビンアテンダントの方がいい、と田中さんが答えて、なるほど、ヤッシーはすごい! と感動しました(笑)。説得力があるでしょう?
加藤
確かに。わかる気がします。
永江
それと同じで、かえって場慣れしていないインタビュアーの方が信頼できる感じはします。
加藤
それを聞いて安心しました。例えば、インタビューのみで食べて行くことは可能なんでしょうか?
永江
私の仕事を振り返ると結構波があって、今だと3、4本くらいですけど、多いときは月に10本以上インタビューするときもありました。
加藤
そんなに! 月に2本入るだけでも大変だと思ってしまいます。
永江
単行本を作るときだともっと増えます、まあ慣れですよ。
加藤
頑張ります!
永江
永江朗
ライターの仕事って、量も内容も5年10年の単位で変わっていきます。そのなかにはインタビューだけで食べられる時期もあるでしょう。海外ではスタッズ・ターケル(様々な職業の人にインタビューした『仕事!』などの著書で知られる作家、インタビュアー)みたいに、ほとんどインタビューだけの人もいますが、そこまで行くとある種、名人芸の世界。例えばライターとしての現役期間が40年あるとしたら、40年間ずっとインタビューだけでっていうのは大変だと思います。


大事なのは原稿落とさない
加藤
ライターとして色々やってるなかにインタビューもあるということですね。インタビュアーが守らなくてはならない大切なことは?
永江
原稿をアップするときに捏造しないとか、締切を守るとかですか。
加藤
基本的なことですね。永江さんは、インタビューに遅れて行ったことはありまか?
永江
ないです。あ、でも忘れていたことはありました。それも夜寝るときに思い出したんです。あ、今日取材あったんだって(笑)。
加藤
あるんじゃないですか!〈笑〉
永江
ははは、大事なのはインタビュアーとしてより、ライターとして原稿落とさないってことです。
加藤
インタビュー依頼から原稿掲載までの間、嫌な時と楽しい時はそれぞれいつですか? 僕は依頼の時が一番緊張するのですが。
永江
嫌なのはインタビューに行く時です。準備しているときはいいんですけど、家を出てからインタビュー場所に行くまでずっと、帰りたいなあって思っています。楽しい時は原稿書くときです。テープ起こしをしてからそれをパソコン上で切り貼り、入れ替えしながら完成に近づけていくっていうやり方をするんです。

「インタビューに出掛けるときは気が重い。感じの悪い人だったらどうしよう、どんなふうに挨拶しようか、質問にちゃんと答えてくれるだろうか、などなど、いろんな心配事が頭をもたげてくる。(『インタビュー術!』 5P)」
加藤
永江さんでもインタビューに行く前はそう思ったりするんですね、勇気が湧いてきます。今もご自分でテープ起こしをしているのですか?
永江
そうです。ゴーストライターとして単行本を作るときなどは、テープ起こしまでやっていると納期に間に合わないから、編集部経由でプロに起こしてもらいますけど。基本は全部自分です。
加藤
全部一人でってのは凄いですね。
永江
そうですか? よくあんな恥ずかしいものを他人に聞かせられるなって思います。まるでSMプレイのような感じ、これが本当の言葉責めだって思いながら自分のテープ(MD)を聞いています。自分がいかに馬鹿かってことを再確認しながら。
加藤
確かに自分のインタビューを聞かれるのは恥ずかしいですね。大体1時間のものを起こすのに4、5時間くらいかかるんですが、永江さんはどのくらいかかっていますか?
永江
大体2、3時間くらいです。
加藤
早いですね。取材場所はライター側から提案してもいいものなんですか?
永江
まず相手と相談します。自宅に来てほしいという人もいれば、来てもらいたくないという人もいるわけで。私が取材を受ける側の場合は、自宅に来ていただくのはお断りしています。家を設計するときも来客がなるべく少なくて、誰も来たくならないような家にするってのが基本コンセプトだった。よく友達を呼べる家にしたいって聞きますけど、それは絶対嫌だなって(笑)。
加藤
絶対に家に呼びたくないんですね(笑)。普段はどういう場所で取材を?
永江
私が取材を受けるときは、この研究室か自宅近所の喫茶店。先方の出版社に行くことも結構ありますよ。取材に一番適した場所は、大きなホテルのラウンジです。一般の喫茶店と違って席もゆったりしてて、BGMも静かなのでやりやすいですよ。場所もわかりやすいし、相手にも失礼にならないでしょう。駐車場もあるから、クルマで移動する人にも便利です。コーヒーの値段は少し高いんですけど、お代わり自由なところが多いので、長時間いる場合だとコストパフォーマンスはそんなに悪くない。
加藤
ホテルのラウンジっていう選択肢は自分のなかになかったです。今度使ってみます、慣れてない場所なので逆に緊張しそうですが(笑)。永江さんでも、このインタビューは失敗したなあって思うことはありますか?
永江
インタビュー中に喧嘩になってやめたことはあります。お互いのためにもならないんでもうやめましょうって。あなたとは一生会うことはないでしょうが、お元気でって言って帰ってきました。
加藤
インタビュー原稿自体もなくなったんですか?
永江
その原稿は全部なしになりました。雑誌の増刊の仕事だったんですけど、代わりに編集部が仕切りなおしてインタビューしたらしいです。あとは、電話でインタビューした時に相手が酔っ払っていて、質問すると、君はそんなことも知らないで電話してきたのかって怒られて、酔っぱらいには電話するものじゃないなって思いました。
加藤
逆に、インタビューしているときに途中で怒ったり、帰りたくなったことは?
永江
永江朗
怒ったりはしないですけど。相手の話が退屈で帰りたいと思ったことはあります。後で編集者に、永江さんあからさまに顔にでますねって言われた(笑)。芸能人のインタビューだと、マネージャーや仕切っている映画会社が、作品のプロモーションの位置づけとしてしか見てないから、掘り下げた質問とか関係のない話をすると、ちょっとそれはって制止してきて、そうなると白けます。

「このとき、あまり難しいことを抽象的に聞こうとしないことだ。インタビューをしていると、つい、「私はあなたの作品をこんなに深く読んだんだぞ」とか「あなたの作品からこんな難しいことを考えたんだぞ」と、アピールしたくなってしまう。しかし、そんなものを読まされても読者はうんざりするだけだ。それよりも重要なのは、もっと単純で素朴なことだ。インタビュイーが何を考え、何を感じたのか、それを言葉で引き出せるように質問を用意していく。(『インタビュー術!』 46P)」


いつ辞めてもいいと思っているくらいで丁度いい
加藤
『インタビュー術!』などで永江さんは、洋書店で働いていたのがライター活動のきっかけとありました。
永江
もともとライターになりたくてなったわけじゃないんですよ。最初は洋書店員との兼業だった。会社を辞めたのが30歳のときです。辞めてすぐライター活動に専念したってわけじゃなくて、ミリオン出版というエロ本出版社にデスクを借りて、ライターと編集の仕事をしていました。そのときはライターで食べていけなかったらどこかの出版社にもぐりめばいいやって軽い気持ちもあったんですが、いま思うと甘い考えでしたね。簡単にはもぐりこめない。ミリオン出版で1年ぐらいたったころ、宝島社、当時はJICC出版局といいましたが、「宝島」を月刊から月2回刊にすることになり、フリーの編集として誘われました。「宝島」にもデスクが用意されていて、タイムカードもなくて、毎日出勤しなくてもいい、そのかわり雑誌さえ出てれば好きにしていいっていう条件だったので、これはラッキーだなと。
加藤
それはいいですね。本格的にライターを始めるときには不安はありましたか?
永江
幸運が重なっていたので不安と感じる暇がなかったんですよ。洋書店を辞めるときは、このまま食べられなかったらどうしようと一瞬は考えましたが。ただ、結婚が早かったんで、なんとかなった。ライター養成講座でも、ライターになりたいなら結婚は早くしなさいって言うようにしてます。片方が年収200万円でも、二人合わせた世帯年収が400万円だったら生活はできる。ただし子供をつくるかどうかは、よく考えた方がいい。
加藤
肝に銘じます。ライターだけで食べていけるようになった時の仕事量はどのくらいですか?
永江
洋書店を辞めたときは連載が4、5本くらいありました。でも、ライター一本で食べていけるようになったのは、「宝島」「別冊宝島」を辞めた35歳の時ということになるのかな。たしかライターとしての年収(売上)は1000万円を超えていました。仕事量は、エロ本の仕事が3分の1くらいありましたよ。アダルトビデオのレビューを月に60本書いたり。大体一本50分くらいの作品が多くて、中には120分以上の馬鹿みたいな超大作もあって、四六時中見ていました。かみさんが、せめて食事の時はスカトロはやめてって言っていました(笑)。
加藤
ははは、その時が一番忙しかったんですか?
永江
永江朗
フル回転でした。実話モノの告白雑誌もよくやっていました。素人の読者が投稿してきた態だけど、実はそれは編集長がひとりで作っているんです。渡されたポジフィルムの束からストーリーを考えて文章を付ける仕事とか、AV女優のインタビューもよくやっていました。当時はエロ本というジャンルがあって、いい時代だったんです。トヨザキ社長(書評ライターの豊崎由美)もそうだし、マンガ家の岡崎京子さんや桜沢エリカさんも、最初は自販機エロ本みたいなところからスタートだった。西原理恵子さんも食えないときはエロ本の仕事をしていたはず。
加藤
ありましたね、自販機。
永江
今は見なくなりましたね。昔はエロ本って、ライターや出版業界で働きたい人たちの、食えて仕事も覚えられる場所みたいなところだったんです。それが90年代くらいまではありました。
加藤
ライターを辞めたいと思ったときは?
永江
不思議とそれはないんです。ただ、いつ辞めてもいいと思っているので、いつも思っているとも言えます。これが天職だと思ったこともない。楽しいからなんとなくやっているんですよ。
加藤
なんとなくなんですか、いつ辞めてもいい?
永江
いいです。いつ辞めてもいいと思っているくらいで丁度いいんじゃないですか。
加藤
覚悟があるという訳でもなくて?
永江
例えば、書いた原稿について編集者と揉めて、これで仕事を失ってもいいやって常に思っています。かといって権力に対してペンを曲げないぞという強い志があるわけでもないし、世の中に対してなにか訴えようってこともない。一番は読者のため、お金を払って読んでいただいている文章ですから、商品として誠実にと思っているくらいです。
加藤
読んでもらうのが大事ということですね。
永江
私の仕事は3分野あります。エロ系、一般&書評系、そして出版産業について。私がライターを続けてこられたのは、出版産業について、しかも流通のことを中心に取材して書いてきたからだと思います。業界紙の記者以外に、他にあまりいなかったというのが理由だと思います。競争相手が少ない。そういうイスが一個か二個しかないジャンルって無数にあると思います。
加藤
今はどんな分野のライターが不足していますか?
永江
まずは科学系。それから海外の文献が読める人、英語だけじゃなくて、第二第三の外国語も出来るライターっていうのは不足していますよ。IT関連については凄い人材は限られています。佐々木俊尚さんとか、ツイッターだったら津田大介さんみたいに、今は特定の人に仕事が集中している状態。佐々木さんだって1961年生まれだから、けっして若手とは言えないでしょう。
加藤
あまり若い人はいないんですか?
永江
はい、IT系は若い人がもっと出ていいと思います。意外と年齢が高いんですよね。ツイッターも若い人がやってそうなイメージだけど、じつは夢中なのは中高年オヤジばかりで、オヤジメディアかこれはって(笑)。
加藤
ならば、そこに若い人が入り込む余地があるということですね。
永江
あと理工系、理数系のセンスがある人は少ないので求められています。昔から言われているのはサイエンスライター系の人。新聞社でも、理系の大学院を出て、博士号まで取得して新聞記者をやっている人って日本は極端に少ない。
加藤
そうなんですか?
永江
ましてや一般の出版社系のメディアではほとんどいない。だから科学報道の半分はトンデモ情報だったりします。ゲーム脳とか、今の脳科学ブームみたいに言われているほとんどはインチキですよ。
加藤
ゲーム脳とかで世間が騒いでいるのが不思議でならなかったです。誰が信じているのだろうとずっと疑問でした。
永江
環境リスク学とか環境問題を科学の目で語れる人も不足しています。ただ、難しいのはその分野は専門的なトレーニングをつんでないとできないことです。文系の人は四大をでれば仕事ができるイメージありますけど、理系は大学院まででないと一人前になれない世界なんです。建築なんかだと、学部だけ出たんじゃ仕事はできないんです。建築の勉強がはじまるのは大学院からってところもありますから。
加藤
確かに大学院を出て専門知識を学んでそこからフリーライターというのは考え難いですね。
永江
そう、ちょっとリアリティのない話でしょう。科学者ですけど、福岡伸一さんのような一般向けの面白いコラムをかける人がぽっとでてきたらそこに仕事が集中するのは、そういう理由だと思います。
加藤
自分だけのイスを見つけられるように努力します。
永江
マイナーなジャンルのイスは一個か二個しかないから、誰も気づかない。でもそれはなんでもやっているうちに見つかりますよ。まだ若いんだから、いくらでも勉強はできる。
加藤
最初のころのインタビューを思い返すと、どのような反省点や失敗点が見つかりましたか?
永江
永江朗
最初のころは質問するので精一杯で、相手の話を聞いていないんです。間や沈黙が怖くて、相手の発言が終わるまでにこっちが発言してしまったり。あと、準備不足ってのが多いですよね。事前に相手の資料をもっと読んでおくべきだったと気づくのは、インタビュー後でテープを聞いているとき。相手の発言したことを調べていて、そこで初めて知る事実がぽろぽろ出てくる。事前に知っておけばもっと良い質問ができたのにね。未だに反省点、失敗点ばかりです。

「私が自分のインタビューテープを聞き返しながら、「失敗した」といつも反省し、それでもなかなかうまくならないのは、話題の変え方だ。Aという話題からBという話題に変えたとき、それが話し手にうまく伝わらないことがある。話し手はまだAという話題を続けたがっていたり、あるいはなぜ、Bに変わったのかがわからず、不審がったり機嫌を損ねることもある。そこまでいかなくも、話のリズムが崩れてしまう。(『インタビュー術!』 236P)」


永江朗『不良のための読書術』ちくま文庫
「本を最後まで読むのはアホである」。帯に書かれている一文だ。本は30ページだけ見ればいい、映画は最初の20分だけ見ればいい。まさに不良の考え方である。ここでいう不良とは街にたむろしているチンピラのことではない。付和雷同するマジメなよい子はいつも道を間違える、だから本をたくさん読んで不良になろう、ということだ。やっていることは子供にピーマンを細かく刻んで解らないようにしてから食べさせる、である。不良ための読書術というタイトルだが、中身は書店や古本屋についてだったり、出版社や流通について細かく優しく教えてくれていて、この本を読み終わったあとはマジメなよい子ちゃんになってしまうんじゃないだろうかとも思ってしまう。この本を読めば今日からあらくれライターとしての道が開かれるような気もしてきます。


編集長にお金を借りろ
加藤
『書いて稼ぐ技術』には、嫌な仕事は断る。と書いてありましたが、永江さんはどんな仕事だと断りますか?
永江
会いたくない人・尊敬できない人や、嫌いな会社との仕事だと断ります。でも、それくらいです。
加藤
僕もこの間断っちゃったんですよ。ゲームをクリアまでプレイしてそれについて、600字くらいでレビューを書く仕事だったんです、原稿料は2千円だったんですけど。
永江
そうなの? でも最初のうちはお金のことは気にしないで何でもやった方がいいよ。
加藤
でも、ハードは自分で買わないと駄目で、3万円かかるんですよ。生活費すらギリギリなのでとてもできなくて。
永江
2万8千円の赤字? それは断っても仕方ないかもしれない。
加藤
一度断ってしまったから次から仕事くるかが怖い状態です……。
永江
一番いいのはそこの編集長に事情を話して、頼み込んでお金を借りること。
加藤
そんなこと許されるんですか!?
永江
編集部から借りると原稿料と相殺されるかもしれないから、個人的に借りてしまうんだよ。だって、3万円のハードを買わせて2千円の仕事をさせようというんでしょう。それぐらい要求していい。
加藤
そういう考え方もあるんですね。
永江
昔はライターが金銭面で困っていることを伝えると、編集者はそれなりに工夫してくれたものです。「スタジオボイス」なんて、常に原稿料の支払いが遅れるんだけど、そのうち編集者が現金でライターに原稿料を立て替え払いするようになった。その場で領収書を書いて、編集者が経費として会社に請求する。そうでもしないと支払いが遅れてライターに申し訳ないからと。
加藤
いい話ですね。
永江
「スタジオボイス」はもうなくなっちゃったんですけどね。
加藤
そういう編集者が多いと、僕のような新人ライターは助かるのですが……。原稿料は事前に聞くべきですか?
永江
一般的には聞いたほうがいいです、私は聞かないですけど。
加藤
そうなんですか。
永江
はい、それでトヨザキ社長に叱られたことがある(笑)。業界中堅である我々が原稿料を上げるよう出版社と交渉しないと、若手はいつまでも激安原稿料のままだ、って。自分のためじゃなくて、若手のために原稿料を聞け、と諭されました。
加藤
初めて仕事をするところだとためらってしまうのですが、いきなり聞いても問題はないのでしょうか。
永江
聞いた方がいいし、最近は編集者も聞かれることに抵抗がなくなりました。原稿料はいくらで、いつ振り込まれるのか事前に知りたい、と。生活が大変なんですとか、そういう話はちゃんとしたほうがいいです。見栄を張っている場合じゃないし、恥ずかしいことじゃないですよ。
加藤
これからは、お金がないんですって正直に言ってみることにします。なんで原稿料が入るのは2ヶ月先なんですかね、なんとかならないんでしょうか。
永江
それはみんな思う。でも出版社にお金が入ってくるのはもっと後なんです。零細出版社や新興の出版社だと、取次からお金が入ってくるのは本が出てから半年後、それも100%じゃなくて、20%とか30%は保留にされちゃうことが多い。
加藤
そんな後なんですか!
永江
永江朗
だから出版社はライターやカメラマンや印刷所や洋紙店にまずお金を支払い、取次から入金されるまでの4ヶ月間は、自分のところの回転資金でやりくりしなきゃならない。出版社にもよりますが、厳しいところは厳しいです。そう考えると、原稿料の支払いが2ヶ月先というのも、まあ、しかたがないかな。


永江朗『書いて稼ぐ技術』平凡社新書
こんな時代だからこそフリーライターになるべき! というのも普通の会社員なら会社が潰れたらそこで終わりだが、フリーライターなら十誌連載持っているときに一誌潰れてもまだ九誌あるというのだ。なるほど、たしかにそのとおりだが、俺が十誌もの連載を持てるようになるまであと何年かかるだろうか、というのも考えさせられてしまった。一誌でもヒーコラ言ってる状況なのにそれが十倍になったら、死んでしまうんじゃないだろうか……。フリーライターは名乗れば今すぐにでも、誰でもなれるけど、それで食べていくのは思った以上に大変なのだなあ。単著があるというのが何よりも名刺代わりになるということなので、連載十誌と著書を持つ。しばらくはこれを目標にして生きていきます。


公共の場で発した言葉は公共のもの
加藤
文章の話なんですが、括弧を閉じるときの句点や、感嘆符、疑問符のあとにスペースを入れるといった文章のルールはいつ決まったものなんでしょうか?
永江
ルールって時代で変化するものなんですよ。カギ括弧の中にマル入れるかどうかも、色々試行錯誤しながら出きたものですから。
加藤
この間も僕がツイッター上で質問したらいろんな人が意見をくれたんですよ。カギ括弧の話や、スペース入れるのはリズムが崩れる! みたいな人もいたり。
永江
どうせ大したリズムじゃないんじゃないの、好きにすれば(笑)。読みやすさは読む側の慣れの問題ですから、書き手のどうでもいいエゴを押し付けない方がいいかな。タイポグラフィー小説でもない限りは、どうでもいいことだと思いますけど。
加藤
三点リーダを二個付けるルールっていうのも単に見やすさの問題なんですか?
永江
そうです、まあ慣れというか慣習ですよ。根拠のあることではないですし、こだわらなくていい。私が編集者に注文するのは、字の並びや雰囲気で漢字の閉じ開き考えるので、なるべく表記を統一しないでくれということぐらい。
加藤
一度、新聞社系のメディアで記事を書いたことがあるのですが、表記ルールがガチガチに決まっていて驚いたことがあるんですよ。新聞の場合はどうしているんですか?
永江
その場合は新聞社のルールに任せる。表記はそちらの社内ルール、媒体内ルールでお任せしますという一文そえて原稿を渡しています。基本的に、自分の文章は自分のものだとは思っていないんですよ。公共の場で発した言葉は公共のものだから自由にしていいと考えています。原稿料もいらないとは言わないけど、お布施みたいなものだからたくさん払える人はたくさん払ってくれればいいし、払えない場合は払えないなりになんとかしてくれればいいと思っています。厳格なルールをつくると息苦しくなりますよ。
加藤
これからの出版業界はどのように変化していくのでしょうか。
永江
おお、唐突ですね(笑)。今日ずっと学生たちのリポートを採点してたんです。30年後の出版業界について想像して書きなさいってお題なんですけど、地獄でした。
加藤
え、なぜですか?
永江
9割以上が「電子化されるでしょう」みたいなものばかりだったんですよ、それから先がない。まったく面白くない。こちらの予想を超えるような回答はとても少ない。
加藤
電子化する、だけで終わってしまってるんですね。
永江
確かに、電子化の波はあると思います。電子本は読みにくいとか、電子デバイスに年寄りはついていけないとか、細かいところはありますけど。それは紙の次はデジタルだ、とういことだけじゃなく、電子媒体やウェブは参入障壁が少ないんですよ。今の既存の出版社が電子に変わっていくというよりも、電子の出版社みたいなのが新規参入でどんどん出てくるんじゃないかなとは思っています。
加藤
電子媒体が一般的になるのはどのくらいかかるでしょうか?
永江
永江朗
まだ何十年も先の話でしょう。例えば日本で一番書籍を売る書店は「Amazon」なんです。Amazonが誕生したのは1994年で日本に上陸したのは2000年。創始者のジェフ・ベゾスはもともと金融系の人でしょう? 本の世界のことは全然知らなかったけど、当時盛んにいわれたeコマースで出来るビジネスを考えたら、本に行き着いた。そしてビジネスの方針を顧客最優先にしたらバーっと大きくなった。
加藤
とても大きなものに成長したんですね。
永江
あと坂本孝さんが創業した「BOOKOFF」。スタートしたのは1990年で、もともとは家庭内で使われず場所ふさぎになっている中古ピアノを買い取って、綺麗にして安く売るっていうビジネスを作った人です。中古ピアノに替わる商品は何かを考えたときに出てきたのが、同じくご家庭内で場所ふさぎで困っている本。これを買い取って綺麗にして売ることにした。
加藤
どちらも出版業界の人じゃないんですね。
永江
そう、坂本さんもジェフ・ベゾスもまったく外部の人だった。新しい動きって出版業界の内部じゃなくて外部からくるんですよ。それは電子出版も同じで、Amazonのキンドルだったり、ソニーのソニー・リーダーだったり、出版とは関係のない場所から本の世界に入ってきて、大きく変えていくことになるんだと思います。
加藤
そういう形で出版は変わりながら伸びて行くんですね。
永江
デジタル化の末に出版社も書店もなくなって出版業界は滅びるみたいな予想をする人もいるけれども、それはないと思っています。ただし、「本」や「読書」の概念が変わるかもしれない。発した言葉を記録して残したいというのは人類の根源的な欲求なんです。何かを知りたいというのはどんな時代でも変わらずある。それにこたえる文化として、出版は永久に残ると思います。その都度変わっていくのは本の形とかビジネスにする仕方です。
加藤
ビジネスの仕方ですか?
永江
グーテンベルクが活版印刷で聖書をつくったのが1455年です。550年前。当時の本は手書きで、書き写しをするビジネスがありました。大量印刷の技術が出てきたとき、書写職人たちは自分たちの仕事がなくなるとものすごく怒った。読者のほうも印刷したのなんて本じゃないと非難轟々だった。だから初期の印刷本は、手書きの本を忠実に再現しようと苦心した。それは今のキンドルのどこまで紙を再現できるかの状態に似ていますよ。
加藤
確かに本に近づけようとしていますね。
永江
印刷ならではの本ができるのはもう少し後です。グーテンベルクは自分が生きているうちは良い目は見なくて、死んでから活版技術が普及していった。例えば宗教改革は活版印刷技術がなかったらありえなかった。日常で聖書を一般大衆が読むというのが原動力になった。ルネッサンスだってそう。活版印刷の普及によって、世界がガラッと変わっていくんです。本の電子化というのは、宗教改革とかルネッサンスとか、あるいはもっと凄いことが起きる可能性もある。逆に、うんとショボいものになる可能性もあるんだけど。どちらにせよ、これから30年くらいは大揺れの時期になると思います。消えていく出版社もあるだろうし、いままでになかった新しいビジネスが生まれるかもしれない。書店の形態も変わるかもしれない。だけど、コンテンツを作る側の仕事は、人が何かを知りたいという本能がなくならない限りあり続けると思います
加藤
そういった理由もあって、フリーライターになればいいという本を出したのでしょうか?
永江
はい、出版社や書店は減ったり消えていく可能性はありますけど、編集者や書き手はずっと残ると思いますから。
加藤
飲み会などで、他のライターさんに会うと、皆さん決まって辞めた方がいい、辛い、厳しいばかり言われているので(笑)、勇気づけられました。ただ、書き手が増えすぎると、媒体が足りなくなるというイメージもあるのですが。
永江
足りなきゃつくればいい。それと、フリーライターに限らないと思いますけど、もう専業はいらない、兼業でやっていけばいい職業だと思いますよ。一つの仕事だけで食べようとするとやりたくない仕事もやらなくちゃいけないし、将来の不安もありますけど、三つ四つ別の仕事をして、合わせて食える、それくらいでいいんじゃないですか。今も私は大学教授と兼業ですから。

「フリーランスのライターにとって、寄稿していた雑誌の休刊は、たくさんある仕事のなかのひとつが消えるだけです。十誌で連載していれば、一誌が休刊してしまっても、仕事は一割減るだけです。残りの九誌で持ちこたえながら、新たな仕事をつくればいい。(『書いて稼ぐ技術』 16P)」
加藤
出版社も編集部員って言いますけど、実質上は非正規の人が多いですね。
永江
雑誌がなくなったら、そのままさようならの人ばかりです。『池袋ウエストゲートパーク』の真島誠みたいに、八百屋やりながらライターをやるみたいなのがいいですね。生き残っていくために一番早いのは自分の著作を出すことです、名刺がわりになりますから。アマゾンで検索しても名前が出てくるでしょう。星の数はともかく。それとハードなものをやるライターは結構需要がある。

「単著があると、信用度が増します。これはぜんぜん違います。よく著作は名刺代わりといいますが、出版社に営業して回るときも、単著があれば自分のことを説明しやすい。編集者は「少なくともプロの編集者が、本を書く能力があると認めた人間なのだな」と判断してくれます。(『書いて稼ぐ技術』 59P)」
加藤
ハードなものですか、新宿歌舞伎町を全裸で歩きまわってみるとかでしょうか?
永江
そこまでいかなくても、暴力団のところに突撃取材行とか、一歩間違えると大変なことになりかねないリスキーな仕事とか、人がやりたがらない仕事をもらうといいと思います。まだ若くて体に無理がきくうちに。
加藤
命の危険さえなければ、そういうこともやってみたいんですよ! これで最後なんですが。
永江
はい、お疲れ様でした。
加藤
僕のインタビューに点数を付けてもらってもいいでしょうか? ものすごく緊張してしまいましたが、大丈夫でしょうか?
永江
事前によく調べていますし、文章は今の段階では解らないですから、80点を差し上げたいと思います。
加藤
おお! 結構高めですね! もっと低いかと思っていました。
永江
永江朗
残り20点は、緊張がこちらに伝わってくるので、もう少しリラックスできるといいと思います。最初は、ちょっと震えていましたね? 私のようにジジイになって場慣れしていると相手の緊張は感染しないのですが、あまりインタビュー慣れしていない方だと、緊張が感染してぎこちなくなってしまう可能性もあるので、リラックスする練習をしたほうがいいです。私も色々工夫して、早めにインタビュー場所に着くようにして、その周りを歩きまわるとか、トイレ行って鏡見るとかしていますけど、なかなか難しいですよ。


永江朗『聞き上手は一日にしてならず』新潮文庫
人の話を聞く名人10人にインタビューしてみた。が本書のコンセプト。「相手に興味を持つ」、「予備知識は大量に仕入れておく」という、インタビューじゃない、日常会話にも応用できる貴重な知識がたくさん学べるので話し上手になりたい人にはおすすめ。何せ10人分の「聞く武術」が学べるので、普通の本の10倍おいしい仕様になっております。徹子の部屋の裏側や、吉田豪さんの徹底したインタビュー術などは必見です。糸井重里さんの、「そこにいない第三者の悪口を、コミュニケーションのダシに使わない」というのは深く胸に刻み込まれました。いつか俺も、『インタビュー力とコミュニケーション力は一日にしてならず』なんて本を書いてみたいですね。



100点をとれるくらいにはなりたい
100点をとれるくらいにはなりたい
相手はインタビューのプロフェッショナル。たぶん今までで一番緊張していたのではないだろうか。内臓が飛び出るくらいの緊張を味わった。インタビューが終わった後に、永江さんから「震えていたよ」と言われる始末。例えるなら高校生どうしのカップルがセックスする時に加藤鷹が隣で見ているくらいの緊張度。とんだ羞恥プレイだ。たろちんはお酒を飲んでないときは手がプルプルしているけど、俺は緊張で全身がプルプルするんだよ。永江さんにはありがたいことに、このインタビューは80点と言われたのだけど、これは糖分100%くらいの甘さでの採点だと思う。いつか甘さ控えめなインタビューでも80点、いや100点をとれるくらいにはなりたい。目下の目標は人見知りを克服して、誰が相手でもひるまず、ドンと構えていられるようになること。また一つライターとしていい勉強になりました。数年後か数十年後、名インタビュアーとして名を馳せるようになった俺が、永江さんに再度インタビューするときが来るのではないだろうか。そのとき永江さんはこう言ってくれるに違いない、「今度は震えてないな!」と。たろちんは剥けてないけど、俺は剥けた。そういう人生も素敵だと思います。
THE B-TEAM 実況野郎文芸部