加藤 | 文章の話なんですが、括弧を閉じるときの句点や、感嘆符、疑問符のあとにスペースを入れるといった文章のルールはいつ決まったものなんでしょうか? |
永江 | ルールって時代で変化するものなんですよ。カギ括弧の中にマル入れるかどうかも、色々試行錯誤しながら出きたものですから。 |
加藤 | この間も僕がツイッター上で質問したらいろんな人が意見をくれたんですよ。カギ括弧の話や、スペース入れるのはリズムが崩れる! みたいな人もいたり。 |
永江 | どうせ大したリズムじゃないんじゃないの、好きにすれば(笑)。読みやすさは読む側の慣れの問題ですから、書き手のどうでもいいエゴを押し付けない方がいいかな。タイポグラフィー小説でもない限りは、どうでもいいことだと思いますけど。 |
加藤 | 三点リーダを二個付けるルールっていうのも単に見やすさの問題なんですか? |
永江 | そうです、まあ慣れというか慣習ですよ。根拠のあることではないですし、こだわらなくていい。私が編集者に注文するのは、字の並びや雰囲気で漢字の閉じ開き考えるので、なるべく表記を統一しないでくれということぐらい。 |
加藤 | 一度、新聞社系のメディアで記事を書いたことがあるのですが、表記ルールがガチガチに決まっていて驚いたことがあるんですよ。新聞の場合はどうしているんですか? |
永江 | その場合は新聞社のルールに任せる。表記はそちらの社内ルール、媒体内ルールでお任せしますという一文そえて原稿を渡しています。基本的に、自分の文章は自分のものだとは思っていないんですよ。公共の場で発した言葉は公共のものだから自由にしていいと考えています。原稿料もいらないとは言わないけど、お布施みたいなものだからたくさん払える人はたくさん払ってくれればいいし、払えない場合は払えないなりになんとかしてくれればいいと思っています。厳格なルールをつくると息苦しくなりますよ。 |
加藤 | これからの出版業界はどのように変化していくのでしょうか。 |
永江 | おお、唐突ですね(笑)。今日ずっと学生たちのリポートを採点してたんです。30年後の出版業界について想像して書きなさいってお題なんですけど、地獄でした。 |
加藤 | え、なぜですか? |
永江 | 9割以上が「電子化されるでしょう」みたいなものばかりだったんですよ、それから先がない。まったく面白くない。こちらの予想を超えるような回答はとても少ない。 |
加藤 | 電子化する、だけで終わってしまってるんですね。 |
永江 | 確かに、電子化の波はあると思います。電子本は読みにくいとか、電子デバイスに年寄りはついていけないとか、細かいところはありますけど。それは紙の次はデジタルだ、とういことだけじゃなく、電子媒体やウェブは参入障壁が少ないんですよ。今の既存の出版社が電子に変わっていくというよりも、電子の出版社みたいなのが新規参入でどんどん出てくるんじゃないかなとは思っています。 |
加藤 | 電子媒体が一般的になるのはどのくらいかかるでしょうか? |
永江 | まだ何十年も先の話でしょう。例えば日本で一番書籍を売る書店は「Amazon」なんです。Amazonが誕生したのは1994年で日本に上陸したのは2000年。創始者のジェフ・ベゾスはもともと金融系の人でしょう? 本の世界のことは全然知らなかったけど、当時盛んにいわれたeコマースで出来るビジネスを考えたら、本に行き着いた。そしてビジネスの方針を顧客最優先にしたらバーっと大きくなった。 |
加藤 | とても大きなものに成長したんですね。 |
永江 | あと坂本孝さんが創業した「BOOKOFF」。スタートしたのは1990年で、もともとは家庭内で使われず場所ふさぎになっている中古ピアノを買い取って、綺麗にして安く売るっていうビジネスを作った人です。中古ピアノに替わる商品は何かを考えたときに出てきたのが、同じくご家庭内で場所ふさぎで困っている本。これを買い取って綺麗にして売ることにした。 |
加藤 | どちらも出版業界の人じゃないんですね。 |
永江 | そう、坂本さんもジェフ・ベゾスもまったく外部の人だった。新しい動きって出版業界の内部じゃなくて外部からくるんですよ。それは電子出版も同じで、Amazonのキンドルだったり、ソニーのソニー・リーダーだったり、出版とは関係のない場所から本の世界に入ってきて、大きく変えていくことになるんだと思います。 |
加藤 | そういう形で出版は変わりながら伸びて行くんですね。 |
永江 | デジタル化の末に出版社も書店もなくなって出版業界は滅びるみたいな予想をする人もいるけれども、それはないと思っています。ただし、「本」や「読書」の概念が変わるかもしれない。発した言葉を記録して残したいというのは人類の根源的な欲求なんです。何かを知りたいというのはどんな時代でも変わらずある。それにこたえる文化として、出版は永久に残ると思います。その都度変わっていくのは本の形とかビジネスにする仕方です。 |
加藤 | ビジネスの仕方ですか? |
永江 | グーテンベルクが活版印刷で聖書をつくったのが1455年です。550年前。当時の本は手書きで、書き写しをするビジネスがありました。大量印刷の技術が出てきたとき、書写職人たちは自分たちの仕事がなくなるとものすごく怒った。読者のほうも印刷したのなんて本じゃないと非難轟々だった。だから初期の印刷本は、手書きの本を忠実に再現しようと苦心した。それは今のキンドルのどこまで紙を再現できるかの状態に似ていますよ。 |
加藤 | 確かに本に近づけようとしていますね。 |
永江 | 印刷ならではの本ができるのはもう少し後です。グーテンベルクは自分が生きているうちは良い目は見なくて、死んでから活版技術が普及していった。例えば宗教改革は活版印刷技術がなかったらありえなかった。日常で聖書を一般大衆が読むというのが原動力になった。ルネッサンスだってそう。活版印刷の普及によって、世界がガラッと変わっていくんです。本の電子化というのは、宗教改革とかルネッサンスとか、あるいはもっと凄いことが起きる可能性もある。逆に、うんとショボいものになる可能性もあるんだけど。どちらにせよ、これから30年くらいは大揺れの時期になると思います。消えていく出版社もあるだろうし、いままでになかった新しいビジネスが生まれるかもしれない。書店の形態も変わるかもしれない。だけど、コンテンツを作る側の仕事は、人が何かを知りたいという本能がなくならない限りあり続けると思います |
加藤 | そういった理由もあって、フリーライターになればいいという本を出したのでしょうか? |
永江 | はい、出版社や書店は減ったり消えていく可能性はありますけど、編集者や書き手はずっと残ると思いますから。 |
加藤 | 飲み会などで、他のライターさんに会うと、皆さん決まって辞めた方がいい、辛い、厳しいばかり言われているので(笑)、勇気づけられました。ただ、書き手が増えすぎると、媒体が足りなくなるというイメージもあるのですが。 |
永江 | 足りなきゃつくればいい。それと、フリーライターに限らないと思いますけど、もう専業はいらない、兼業でやっていけばいい職業だと思いますよ。一つの仕事だけで食べようとするとやりたくない仕事もやらなくちゃいけないし、将来の不安もありますけど、三つ四つ別の仕事をして、合わせて食える、それくらいでいいんじゃないですか。今も私は大学教授と兼業ですから。
「フリーランスのライターにとって、寄稿していた雑誌の休刊は、たくさんある仕事のなかのひとつが消えるだけです。十誌で連載していれば、一誌が休刊してしまっても、仕事は一割減るだけです。残りの九誌で持ちこたえながら、新たな仕事をつくればいい。(『書いて稼ぐ技術』 16P)」 |
加藤 | 出版社も編集部員って言いますけど、実質上は非正規の人が多いですね。 |
永江 | 雑誌がなくなったら、そのままさようならの人ばかりです。 『池袋ウエストゲートパーク』の真島誠みたいに、八百屋やりながらライターをやるみたいなのがいいですね。生き残っていくために一番早いのは自分の著作を出すことです、名刺がわりになりますから。アマゾンで検索しても名前が出てくるでしょう。星の数はともかく。それとハードなものをやるライターは結構需要がある。
「単著があると、信用度が増します。これはぜんぜん違います。よく著作は名刺代わりといいますが、出版社に営業して回るときも、単著があれば自分のことを説明しやすい。編集者は「少なくともプロの編集者が、本を書く能力があると認めた人間なのだな」と判断してくれます。(『書いて稼ぐ技術』 59P)」 |
加藤 | ハードなものですか、新宿歌舞伎町を全裸で歩きまわってみるとかでしょうか? |
永江 | そこまでいかなくても、暴力団のところに突撃取材行とか、一歩間違えると大変なことになりかねないリスキーな仕事とか、人がやりたがらない仕事をもらうといいと思います。まだ若くて体に無理がきくうちに。 |
加藤 | 命の危険さえなければ、そういうこともやってみたいんですよ! これで最後なんですが。 |
永江 | はい、お疲れ様でした。 |
加藤 | 僕のインタビューに点数を付けてもらってもいいでしょうか? ものすごく緊張してしまいましたが、大丈夫でしょうか? |
永江 | 事前によく調べていますし、文章は今の段階では解らないですから、80点を差し上げたいと思います。 |
加藤 | おお! 結構高めですね! もっと低いかと思っていました。 |
永江 | 残り20点は、緊張がこちらに伝わってくるので、もう少しリラックスできるといいと思います。最初は、ちょっと震えていましたね? 私のようにジジイになって場慣れしていると相手の緊張は感染しないのですが、あまりインタビュー慣れしていない方だと、緊張が感染してぎこちなくなってしまう可能性もあるので、リラックスする練習をしたほうがいいです。私も色々工夫して、早めにインタビュー場所に着くようにして、その周りを歩きまわるとか、トイレ行って鏡見るとかしていますけど、なかなか難しいですよ。 |
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人の話を聞く名人10人にインタビューしてみた。が本書のコンセプト。「相手に興味を持つ」、「予備知識は大量に仕入れておく」という、インタビューじゃない、日常会話にも応用できる貴重な知識がたくさん学べるので話し上手になりたい人にはおすすめ。何せ10人分の「聞く武術」が学べるので、普通の本の10倍おいしい仕様になっております。徹子の部屋の裏側や、吉田豪さんの徹底したインタビュー術などは必見です。糸井重里さんの、「そこにいない第三者の悪口を、コミュニケーションのダシに使わない」というのは深く胸に刻み込まれました。いつか俺も、『インタビュー力とコミュニケーション力は一日にしてならず』なんて本を書いてみたいですね。
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