南米取材旅行記 コロンビアーノ・ブラジリアン

垣根涼介


享楽の都・カリ(その二)ステレオタイプの美女、麻薬あれこれ


 さて、今回はカリの住人――それも特に、若い女性のことについて触れてみたいと思う。
 このコロンビアという国には、どういうわけか美しい女が多い。その中でも特にこのカリを中心としたカウカ県は、圧倒的に美人を多く輩出する土地柄として知られている。
 とはいっても人の好みなど十人十色なので、なにをもって美人とするかは難しいが、ようは、スタイルのメリハリがあって、眼がぱっちりと大きく、鼻筋がくっきりと通り、卵形の輪郭の顔を持っているという、いわゆるゴージャス系の女が多い。
 実際、街をぶらついてみても、そのテの女がよく目に付く。ローライズの臍だしルックにノーブラのチビTといった出で立ちで、フェロモンを撒き散らしながら歩いている。
 カフェに座った暇人(むろん男)などは、そんな彼女たちを一様に目で追う。すると、鼻息が荒くなった彼女たちは、ますますそのケツ振り歩きに磨きがかかる。
 むろん、ぼくもそんな間抜け男の一人だから、見ていて悪い気はしない。
 が、ある時に、妙なことに気付いた。
 そんな彼女たちの顔や体つきから、その美的な特徴が、変に均一化されているような印象を受けたのだ。
 そのことを、現地で知り合ったある日系人の女の子に聞いてみた。
「そりゃ、当然でしょ」と、彼女は笑った。「けっこうな割合で、オペレーションだもの」
 オペレーション。つまり、美容整形のことだ。
 彼女によると、この国で美容整形を受ける女はかなりの比率に上るという。こっちの男は胸が豊満で腰がくびれ、ケツがバンとでかい女を好むそうで、まるでそんな男たちの希望を汲むかのように、胸とケツにシリコンを注入し、腹の脂肪を吸引し、せっせと肉体改造に励むのだという。
 むろん、それは顔も例外ではない。二重瞼にしたり、鰓骨(えらぼね)や頬骨を殺ぎ落としたり、鼻梁を整えたり、あるいは下まぶたにコラーゲンを注入したりと、親からもらった顔を切り刻むこと、やりたい放題らしい。日本の女でもこういうことは最近よくあるパターンだが、この国の女の、その外見にかける執念たるや、すさまじいの一言に尽きる。
 ところで、この日系人の女の子が住んでいるマンションには、階下の目抜き通りを見下ろせる、ガラス張りのエレベーターが付いている。
 彼女の話によると、ある朝の、いつもの出勤時間のことだ。
 たまたまエレベーターに乗り合わせた若いスペイン系の女性が、通りを歩いている女を見下ろしてため息をつき、
「――ったく、どいつもこいつも外見(そとみ)ばっかり金かけやがって、まずその前に脳ミソを磨かんかい」
 そう、ウンザリしたように毒づいたという。
 この話を聞いたとき、正直、ぼくは笑った。そのエレベーターの女性の、同国人の女性に対する苛立ちというか憤懣というか、そんな感情がじかに伝わってきたような気がしたからだ。
 そんな男性優位社会のコロンビアは、これだけ女性の美容整形が盛んなことでも分かるとおり、南米の中でも比較的豊かな暮らしをしている国だ。
 政府が対外的に発表している数字によれば、国民総生産は約一千億ドルで、これを一人当たりの所得に換算すると、二千五百ドル弱……対して、実感として感じた物価は、日本の約五分の一から七分の一といったところだ。
 ところが、(これはあくまでも現地人から聞いた話だが)実質的な国民総生産は、さらに四割増しの一千四百億ドルだという。つまり、一人当たりに直すと、約千ドルが表面に現れない所得となっている。
 これは、どういうことか?
 ようは、ブラックマネー――麻薬だ。
 カリ・カルテルやメデリン・カルテルなどの麻薬シンジケート、反政府ゲリラの話は、前回のときにも軽く触れたように思うが、なにもコカインを作っているのは彼らばかりではない。
 一昔前だと、アマゾン奥地のインディオや、ごく普通の一般人でも家の庭先なんぞで気軽に栽培していたそうだ。むろん、それは自分の楽しみとしてだそうだが……。
 ある人間が、作り方を教えてくれた。それによると、

[1] コカの葉の成分を、アルカリ溶液で抽出し、乾燥させる。
[2] すると、薄茶色の粉末が出来る。これが粗製コカ。通称、“バラート”という。現地のティーンエイジなどは、今もよく持っているそうだ。ちなみにバラートとは、スペイン語で「安い」という意味。
[3] このバラートを硫酸で溶かし、さらにアルカリ溶液で抽出乾燥させたものが、日本でも御馴染みの白い粉――いわゆる精製コカとなる。

 以上、簡単にいえば、こんな感じ。
 ただ、現在の麻薬シンジケートのやり方だと、上記の[1][2]の段階は人件費の安い隣国のペルーやボリビアなどで済ませて、[3]の行程だけをコロンビアの僻地(アマゾン奥地に面するバウペス県あたり)で行い、海外に出しているという。
 当然、海外からのその代金はUSドルで支払われる。すると、国内では自国通貨であるペソに対し、ドルが大幅にだぶつくことになる。公定レートより、実質的にはドル安になっているということだ。だから、行くところに行けば、非合法の両替商なんぞが大いに羽振りを利かせていたりもする。
 そういえば、こんなこともあった。
 ある週末の夜のことだ。ぼくは現地で親しくなった男と一緒に、街中にあるカジノのひとつに行った。しばらくトランプやルーレットで遊んだ後、そのコロンビア人を通じて、店員に取材を申し込んだ。こういう店には元々どんな資本が入っているのか(たとえばマフィアがらみとか)、国の許認可や納める税金はどうなっているのかとか、その他諸々のことを知りたかったからだ。しばらく待っていると、大男の、いかにも強面といった感じのマネージャーが現れ、じろりとぼくらを警戒気味に見て、一体おまえらは何者なんだ、みたいなことを聞いてきたが、ぼくがその連れを通じて事情を説明すると、「おお、ハポネス。地球の裏側からきたのか」ってなもんで、わりとすんなりと取材に応じてくれた(その数が少ないせいもあるが、外国からの旅行者に優しいのは、コロンビア人の美点の一つだ)。
 で、その取材を終え、カジノから出てきたときのことだ。
 若い男が寄ってきて、コカを買わないかと持ちかけてきた。ペソで買ってくれと。むろん、買うわけないが……。
 その帰り道で、連れのコロンビア人がぽつりと言った。
「カジノから出てきたときに襲われる人間って、けっこう多いんだよな」
 つまり、そんな麻薬の売人に混じって、強盗もけっこう周囲の暗闇に潜んでいるということだ。
 ちなみに、紹介している写真に夜の風景がまったくないのも、その理由の一つ。デジカメなんぞ持ち歩いていると、金を持っていると自分から宣伝して廻っているようなものだ、と多くの現地人に忠告された。昼でもけっこう危険なのだから、夜はそんなものを絶対に持ち歩かないことだ。さらわれたり、ヘタしたらついでに殺されるぞ、と……はは。
 そんなわけで、今回は、これにて。
 ちなみに次回は、コロンビア第二の都市「メデリン」のお話。『常春の街』といわれるぐらいに気候が優しく、そして美しい土地だ。反面、いかにもコロンビアらしく、ちょっとヤバい土地でもある。お楽しみに。



1966年長崎県生まれ。筑波大学卒業後、リクルート、商社、旅行代理店勤務を経て、2000年『午前三時のルースター』で第17回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞してデビュー。受賞後第一作の『ヒートアイランド』(文藝春秋刊)が各紙誌で絶賛を浴びる。現在、鋭意新作に取り組んでいる。
http://www3.ocn.ne.jp/~kakine/


ヒートアイランド
『ヒートアイランド』
文藝春秋
本体2048円+税




カリ市のセントロにある「カイセド広場」。ホテルやビジネス街もこの辺りに集中。昼間からホームレスや暇人がうろうろしているが、比較的のんびりとした雰囲気の場所。


ある日系人に見せてもらった、約五十年前の日本のパスポート。ちなみにコロンビアでは生地主義を取るから、韓国で生まれた父親と台湾で生まれた母親を持つこの日系人は、血は純ジャパでも、韓国人と中国人のハーフということになるそうだ。


あるコロンビア人の別荘にお邪魔したときの写真。手前に少し映っている建物がダンスホールで、奥の建物が別荘の本宅。広い敷地にはプールと、簡単なゴルフコース。


同じく、近くの別荘の子供。箒で遊んでいた少女がとても可愛かった。別にロリコンではないが……。ちなみにこの別荘のある郊外より少し先で、何度か軍の検問に遭遇した。遠くの山中で鈍い音がしたかと思うと、白い煙が上がっていた。何かと聞いたら、ゲリラと軍が交戦中なのだという。くわばらくわばら。


カリ市内を一望できる丘にある、サンアントニオ教会。平日でも夕方近くになると、多くの人間が集まってきて喋ったりぼんやりしたりと、それぞれがくつろいでいる。朝夕に教会の鐘が鳴り響く、いい感じの場所だった。



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