『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』
銀座、イイ女入門
心配りの匙加減
 七月になった。一年を通して考えると、今月は銀座の女達が気を引き締めなければならない月だ。もう初夏で、夏と言ったら祭りである。夜の銀座は、とにかく祭りが大好きで、夏の七夕祭りや浴衣祭りと、久々のパーティシーズンを迎えてしまうのだ。
 それだけではない。銀座のクラブはやたらとパーティを開くが、一週間単位の大掛かりなものは大体、下半期に集約されている。
 ホステス達は今頃、パーティという名前のレースを目前にして、嫌だ、嫌だ、と言いながらも、己のお客サマリストなどの最終チェックに入っていることだろう。
 とは言っても、今更ジタバタしても無駄なことも分かっている。日頃の心遣いが成果となって表れるのだからね。大雑把に言ってしまうと、上半期で種を蒔いておいたものが、下半期で花を咲かせる、という感じだろう。
 だけど私は今、正直言って焦っている。
 上半期で、確かに種は蒔いておいたように思うが、どうやら水のやり方や肥料の与え方を間違えていたようなのだ。
 気遣いは気付かれないようにするのが美学だと思ってやってきた。だけど、本当に少しも気付いてもらえていなかったかも知れないのだ。ここへきて、「その期間は来ない」と平気で宣言するお客サマが出てきた。
 冷静に考えると、その気持ちはわからないでもない。
 だって、お勘定はパーティ料金で通常よりも高く設定されているし、ホステス全員がマジにお客サマを呼ぶと、どうなるか? サービスをするホステスの数が足りないばかりではない。席にも限りがあるので、“どんどん来たら、どんどん帰って欲しい”という、そりゃあ、もう大変な身勝手ぶりなのだ。
 質の高いサービスを提供するからこそ、高いお金をいただくのが一流クラブたるものでは?
 しかしながら、銀座法では、どうやら、パーティ期間だけはそこから外れても良いことになっているらしいのだ。
 つい先日のアフターのこと。
 深夜の寿司屋のカウンターで、切羽詰まった私はお客サマにパーティへの誘い話を切り出そうとしていた。内容は、パーティに来てもらうだけではない。その期間中は大変混むので、日にちと人数、そして大体の時間も約束してくれると、じつに有り難かったりするのだ。しかし、万が一キャンセルやすっぽかしをすると、その反動で、お客サマは何十倍も恨まれることとなっている。
「ああ、恐ろしい」
 お客サマがポツリと言った。物凄いタイミングだけど、まさかね。
「ん? 何が恐ろしいの?」
 中トロを頬張り、私はちろりと彼を見上げる。
「だって、もうすぐパーティなんだろ?」
 オオッ!
「あ、あらっ。覚えててくれたの? 嬉しいっ。でも、恐ろしいなんて大袈裟な、オホホホ…」
「僕、いつ行けば良い?」
 お猪口を片手に彼が聞いた。
「えっ、来てくれるの? 嬉しいっ」
 本気で喜ぶ私。
「でも、渋々なお客サマが多いのに、どうして、そんなに優しいの?」
「以前はね、僕もパーティは行かない派だったんだ。でも、あるクラブのママから説教されてね。普段、ホステスは色々な心配りをして尽くしているんだから、パーティくらいは付き合って、恩返してよって。じゃないと、今後はあんまり尽くせなくなるかもってね」
 なるほど。そのママ、ずいぶんハッキリと言ってくれたな。女は尽くし、男は応える。どちらが先かは分からないけれど、男が応えてくれると、女は何倍も頑張れたりする。
 尽くすというほどのことでもないが、女性ならではの心配りや気遣いは、繊細すぎると、世の男には気付かれなかったりする危険性がある。女も、それがあまりに報われないと、或る日突然、パッタリと何もやる気がなくなったりしてね。
 人と長く良い関係を築くには、自分への心配りも大切なのだろう。
 その辺りの匙加減がむずかしい。
 大切な人がいたら、季節の変わり目くらいには、今一度それを確かめておくのも良いかも知れないと思った。
檀 れみ
檀れみ プロフィール
5月18日生まれ。B型。牡牛座。東京都出身。桐朋学園短期大学部文科卒業。1999年より女性誌、WEBサイト等でライター活動を開始。主にファッション、ビューティー、娯楽ページ等を手掛ける。嶋田ちあきメイクアップアカデミー第1期卒業に伴い、一般の女性を対象にしたメイクサロン「メィユール」を主宰。2004年8月より銀座のクラブ江川にてホステスを始め、今年7月に幻冬舍より初の単行本、『ダイエット・パラダイス/私は美神(ミューズ)、ダイエットしてるの』を刊行する。

檀 れみの、銀座日記
http://ameblo.jp/remiremi/