超魔球スッポぬけ!
朱川湊人
わくらば日記
オタクの花道!
 こんにちは、シュカワです!
 いよいよ梅雨も明けて、本格的な夏の到来ですね。関東は少し天気の悪い日が続いていますが、これからはオーブンのような太陽にジリジリ焼かれる日々……というわけです。気力はピザのチーズのようにトロケてしまいがちですが、あまりムリしないように過ごしましょう。水分・休養・ビタミン補給が大切ですよ。
 さて、今回は――少しばかり唐突ですが、ワタシのオタク趣味についてお話しましょう。と言うのも、その趣味が高じて、とうとう仕事になってしまったからです。

 ワタシは四十三歳のいいトシした大人ですが、今でもアニメや特撮番組が大好きです。
 確かに子供の頃ほどの勢いはありませんが、同世代の人に比べれば、かなーり濃い方なのではないかと思います。この原稿を書いている仕事部屋の棚にはオタク文献やDVDがギッシリ並んでいますし、プラモやフィギュアも売るほどあります。素で「子供の部屋か!」と突っ込まれそうな状態なのですが、子供だったらとっくに親に叱られて、全部捨てられているレベルでしょう(念の為に申し上げておくと、一部に熱狂的なファンのいるセクシーな女のコのフィギュアは一体もありません。あくまでもワタシは、カッコイイものが好きなのです)。
 そもそもワタシの世代――昭和三十年代後半に生まれた人間というのは、その手のテレビや映画の直撃を受けた世代と言えます。
 わかりやすく言うと、小学校にあがる少し前に『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』といった円谷プロの作品に夢中になり、小学校の頃には『仮面ライダー』を初めとする数多くのヒーローに出会いました。中学生になる頃に『宇宙戦艦ヤマト』がヒットし、高校の後半あたりで『機動戦士ガンダム』が放送され、大学の頃には『ゴジラ』のリバイバルです。何というのでしょう、その後にも数多くのファンを獲得し、シリーズ化された作品の第一弾目をガッツリ体験している……というワケです。
 たとえば、わかる人にはわかる表現でワタシのオタクレベルを示すと、だいたい、こんな感じでしょうか。
 ウルトラシリーズ……『ウルトラマンA』までが現役(子供の頃、普通に見ていたという意味です)で、登場した怪獣の名前がほとんど言える。平成になってからの作品も見ているが、『ウルトラQ』、『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』、『怪奇大作戦』のDVDは墓まで持っていくつもり。
 ライダーシリーズ……『仮面ライダーアマゾン』までが現役。新作もすべて見ていて、先日もお腹に回らないのを承知の上で、変身ベルト『ガタックゼクター』を買った。けれど、やっぱり自分が現役で見ていたシリーズが一番好き。
 ガンダムシリーズ……大学生の頃に再放送でファーストシリーズを見てハマる。ガンプラでザクの肩をハの字に切り、ゲルググの頭を二ミリ詰めたクチ。さすがに最近の作品はわからない(種類が多すぎて覚えきれない)が、『Zガンダム』までなら、どうにかメカの名前とカタチが一致する。先日、仕事の合間に『ガンダムX』をレンタルし、一気見したばかり。そういうことをしているから、編集さんに怒られる。
 映画作品……ゴジラシリーズの新作には必ず行くが、やはり昔の諸作品が神。初代の『ゴジラ』と『モスラ』、『ガス人間第一号』、『フランケンシュタイン対バラゴン』のDVDは棺オケに入れてもらうつもり。 海外物では『バットマン』と『スパイダーマン』全作を仏壇に供えてもらいたいと思っている。
 ――と、まぁ、こんな感じなのですが、わからない人には、全然わからないでしょうね。けれど同好の士なら、「あぁ、かなり重症のようだな」と察してもらえるでしょう。もちろん一般読者の方を置いて行かないよう、少し手加減して書いています(←意味なく強気)。
 当然、子供の頃は怪獣博士でしたし、仮面ライダースナックのオマケカードも熱心に集めました。特撮映画は必ず封切りの日の初回に見て、怪獣やヒーローの写真の載っている雑誌は絶対に捨てられませんでした。この頃の特撮への思いを山盛りにして書いているのが、祥伝社発行の「小説NON」に連載している『sorawomiro』という作品なのですが、きっと十一月頃には一冊にまとめられると思いますので、興味のある方は手に取ってみてください。えぇ、後半は宣伝ですが、何か?

 こんな風にすっかり趣味全開で生きているワタシですが、それでも、この世界ばかりを愛し続けていたわけではありません。まるで憑き物が落ちたみたいに、きれいに熱が冷めていた時期もあるのです。
 以前にも書いたかもしれませんが、ワタシは中学生の頃からフォークソングと小説に夢中になりました。人が作ったものよりも自分で何かを作る方が面白くなり、たいていの少年がそうするように、思春期前後に怪獣やヒーローから卒業したのです。それこそギャグのネタとして語ることはあっても、ふだんは完全に忘れていたと思います。
 再び出戻るキッカケになったのは、『帰ってきたウルトラマン』のあるエピソードを、早朝の再放送でたまたま見たからです。
 それは上原正三さんが脚本を書かれた『怪獣使いと少年』という作品でした。あまり詳細を語るような無粋はしたくありませんが、ほんの一部だけストーリーを紹介すると――。
 「ある工業地帯近くの河原に、黙々と穴を掘り続けている少年がいた。彼はなぜか宇宙人と呼ばれ、周囲から冷たく差別されている。年上の少年たちからは過酷な虐待を受け、街に出ても後ろ指をさされ、ろくにパンも売ってもらえないような有り様だ。
 実は彼は、蒸発した父を追って北海道から上京して来た天涯孤独な日本人少年であったが、河原の小屋で病身の老人と同居しており、その老人こそが宇宙人であった。宇宙人は環境調査のために地球を訪れたのだが、予想以上の汚染のために深刻な病に冒されてしまったのだ。少年は共に宇宙人の母星に行くために、河原深くに隠された宇宙船を掘り起こそうとしていたのである。
 事情を知った主人公は宇宙船捜索を手伝い始めるが、そこに武装した群衆(あくまでも一般人)が襲撃してくる。暴徒から少年を守るために自ら姿を現した老人は、警官によって射殺されてしまう。 その結果、念動力によって封印されていた怪獣が地中から姿を現すことになる……」
 以上、ワタシがヘタクソにまとめたストーリーですが、このエピソードは今でもビデオやDVDで見られるので、ご覧いただくのが一番いいと思います。
 寝ぼけ眼でこのエピソードを見た時、ワタシはブッ飛びました。「これって、ホントにウルトラマンだよな……」というのが率直な感想でした。
 出現した怪獣ムルチは、お約束通りに街を破壊しますし、ちゃんとウルトラマンにやっつけられます。けれどハッキリ言って、それはオマケみたいなものに過ぎません。作品のテーマは、あくまでも『異なる存在に対する差別心の怖さ』なのです。しかも描写は直接的で、宇宙人を襲う群衆は、どうしても関東大震災の際の暴徒を連想させます。
 エピソードが終わった時、今まで意識してこなかった特撮ドラマの可能性のようなものを実感して、ワタシは大いに感動していました。
 このエピソードは生々しすぎて、一般のドラマとして作ったのなら、ちょっと放送できないものになっていたかもしれません。けれどウルトラマンと怪獣が出てくることで、難題を見事に躱しているのです。ハッキリ言ってエグい内容ですが、子供向けSF仕立てにすることで、より効果的かつ幻想的に描き切っているのでした。
 それまではヒーロー活劇としか思っていなかった特撮ドラマが、実は豊かな表現の宝庫であったと気づいたのは、その時です。もちろん問題作と言われていた作品はそれまでにもありましたが(たとえば『ウルトラマン』のジャミラ、『ウルトラセブン』のギエロン星獣のエピソードなど)、幼かったワタシは今ひとつピンと来ていませんでした。けれど、この『怪獣使いと少年』には大いに納得し、感動したのです。
 再び特撮ドラマにハマッたのは、それからでした。
 以来、いろいろな作品を見てきましたが、もちろん、すべてが『怪獣使いと少年』ほどのメッセージ性を持っているわけではありません。けれど、同じように光るものを持っている作品がいくつもありました。その発想の面白さに魅せられて追いかけていくうちに、いつのまにか立派なオタクになっていた……というわけです。まぁ、何より、カッコイイからというのが、一番の理由なんですが。

 ワタシは自分の趣味を隠せない性格なので、あちらこちらで特撮ファンであることを言いふらしてきました。怪奇幻想小説評論の第一人者である東雅夫氏と文芸誌上で熱く語り合ったり(東氏は私以上に濃い方です)、オートバイに乗った仮面のヒーローが登場する小説を発表させていただいたりしていたのです。
 もしかすると、それがお耳に届いたのかもしれませんが――とうとう長年の夢を叶えさせていただくチャンスを、円谷プロの方からいただきました。現在放映中のウルトラマンシリーズ四十周年記念番組『ウルトラマンメビウス』で、脚本を書かせていただけることになったのです。
 むろんテレビ脚本というのは初めての経験で、右も左もわからない状態でしたが、とりあえず一本書き上げました。幸いにもOKをいただき、順調ならば十一月に放送される予定です。
 あまりネタバレになるようなことも言えないのですが、『ウルトラマンメビウス』はワタシが子供の頃に見ていた諸作品の世界と同一線上にあるとのことで、過去に登場した怪獣を再登場させてもよい……とのことでした。
 でしたら、ワタシがやりたいことは決まっています――『怪獣使いと少年』の続編。
 本家である上原正三さんの許可もいただき、めいっぱいやらせていただきました。いろいろな約束事があり、好き勝手にできる小説とは違った苦労もありましたが、こうなったら一日も早く、完成したフィルムが見たいものです。あぁ、まさしくオタクの花道!
 放送の際には、ぜひみなさんもご覧になってみてください。もちろん、ふだんの『ウルトラマンメビウス』もよろしく!

〔ここで、担当編集S氏登場〕
「シュカワさん、いつになく熱っぽい語り口ですね」
「仕方ないですよ、好きなんですから」
「脚本まで書けるなんて、ラッキーでしたね」
「まさか、こんなカタチでウルトラに関われるなんて……うぅっ」
「えっ、マジ泣きですか」
「それに、ほら、見てください。これは現在発売中の『小説宝石』なんですけど」
「おっ、『仮面ライダーV3』で有名な宮内洋さんと対談しているんですね」
「まさか、本物の宮内洋さんと会えるなんて……うぅっ」
「だから、マジ泣きはやめてくださいよ」
「ワタシはオタクで幸せでした」
「僕も好きでしたよ。特に『ウルトラマンセブン』が」
「……あっ? 今、何て言いました?」
「ど、どうしたんです? 急に怖い顔して」
「まさか『ウルトラマンセブン』なんて言ってないですよねぇ?」
「何か……いけなかったでしょうか」
「俺は『ウルトラセブン』を『ウルトラマンセブン』と間違えるヤツと、電車の中で携帯かけてるヤツがダイッキライなんだぁぁぁぁぁ」
「ひぃぃぃぃ、オタクの鬼だ! アキバに帰れぇ」
 以後、悪口雑言のぶつけ合いで夜明けまで。
朱川湊人(しゅかわ・みなと)プロフィール
1963年1月7日大阪府大阪市生まれ。81年東京都立淵江高等学校卒業。86年慶応義塾大学文学部国文学科卒業。出版社勤務を経て文筆業に。平成14年「フクロウ男」(『都市伝説セピア』文藝春秋刊=第130回直木賞候補所収)で第41回オール讀物新人賞を受賞し、デビュー。平成15年には「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞、平成17年に「花まんま」で第133回直木賞を受賞した。他の著書に『さよならの空』(角川書店)、『かたみ歌』(新潮社)がある。