超魔球スッポぬけ!
朱川湊人
わくらば日記
裸女と文化祭 後編
 こんにちは、シュカワです!
 早いもので十月も半分過ぎつつありますが、みなさん、いかがお過ごしでしょうか。今頃の時分は気温が上がったり下がったり、けっこう変化が激しいので、くれぐれも体調にはお気をつけ下さい。ワタシのまわりでも、涼しくなったとたんに風邪をひいて寝込んでいるヒトが何人もいます。そのうち二人は引きこもりのニートなので、世の中に何の被害も与えてはいないのですが。
 さて今回は、ワタシが高校生の頃の文化祭の話の最終回です。三回も引っぱるような話でもなかったのですが、つい、いろいろ思い出して書いてしまいました。とりあえず、前二回にお目をとおしていただきましょう(今すぐバックナンバーへGO!)。高校二年生だったワタシがちょいとおバカなクラスメイトとオバケ屋敷を作ろうとしているトコロだ……というあらすじを押さえた上で、今回の話を始めましょう。
 さて、相当ハズカシイ思いをして全裸の女性マネキンを学校まで運んだワタシたちでしたが、それをどうアレンジするかで、かなり意見をぶつけあいました。ノコギリでバラバラにする、穴をあけて粘度で作った内蔵を露出させる……といった猟奇的なアイデアから、弟が持っているフランケンシュタインのゴムマスクを被せるという今イチ意味がわからないもの、上からスッポリ白い布をかけて西洋のオバケ風にする……といった“マネキン使う意味ねえじゃん”的なネタまで、いろいろなアイデアが出ました。ですが結局、一体には怖いメイクを施して赤ちゃんマネキンを抱かせ、もう一体はジョイント部でバラして展示することにしました。(ノコギリでバラすのは、ちょっとヤバ過ぎます)。ちなみに人形のメイクアップを担当したのはワタシで、目の上にはロウソクをたらしながら絵の具を塗り込んでいくという原始的なテクニックを使って、何となくソレっぽくしたのでした。さらにクラスの女の子が提供してくれた浴衣を着せれば、見事なオバケの完成です。腕に抱かせた赤ちゃんマネキンも、ちゃんと子供用浴衣を着ているのが高ポイント。段ボール製の古井戸の中に立たせれば、ホントに怪奇ムードムンムンでした。ヅラがショートのブロンドヘアーのままだった点については、この際見ないフリをしておきます。
 その他にも美術部長がリアルな質感に拘って作った1/1墓石(担任のA先生の名字を書き込んだ、恩を仇で返すアレンジ付き)、怖いのか怖くないのかよくわからない人体モビール、跳び箱のスプリング内蔵踏切板を使った沈む通路など、かなりイイ線行ってた展示物&仕掛けができました。他のクラスのお寺の息子が本物のお経のテープを貸してくれたり、オバケを下から照らすために使う大型電球入り懐中電灯を、工務店を経営しているPTAが提供してくれたのも大助かりでした。
 けれど、いくら作り物が良くても、すべてが丸見えでは怖さは半減してしまいます。どんなモノでも見えそうで見えないくらいが一番グッと来るのだという真理を、既にオトナになったアナタになら分かってもらえるでしょう。
「やはり、大量の草を導入する他はあるまい」
 そう判断したのは、リーダーのハッパでした。
「教室の床が見えなくなるくらいに、さまざまな種類の草を敷きつめるべきだ」
「そんなたくさんの草、どうするんだよ」
「農家の人から貰うのだ」
 幸いワタシたちの学校は東京のハズレギリギリの場所にありましたので、自転車で少し走れば、畑や田んぼがたくさんありました。
 ワタシたちは再び自転車で列を作って走り、あちこちの農家で稲の束や藁を大量に貰って回りました。
 帰りはもちろん、マネキンの時同様に、いささか異様な雰囲気でした。自転車の前カゴや後ろの荷台に大量の稲束を積んでいるので、まさしく“走る草ムラ”というか、“森林戦闘用自転車”というか……という感じでした。
 けれどハッパの言う通り、大量の草を敷いたのは大正解でした。全体のオバケ屋敷度というべきものが、グーンとアップしたのです。
「これはすごい」
「入場料を取っても、おかしくないぞ」
 最後にクラス総出でデコレーションし、完成したものを眺めて、みんなは口々に言いました。ある意味、あの瞬間こそがみんなの宝物だったと言っても過言ではありますまい。
 けれどワタシたちには、最後の難関がありました。
 「教室の電気を消してはならない」という原則を、どうやってかわすか……です。
 たとえどんなによくできていても、明かりがついていれば、すべては台ナシです。いくら下からセロファンのフィルター付きの懐中電灯でライトアップしても、天井から蛍光灯の光が降り注いでいては、何にもならないのです。
「さあ、どうする」
 みんなは再び顔を突き合わせて考えました。
 もちろん、先生方の指示通りに電気をつけておくという選択肢は、初めからありません。ワタシたちの議論は、いかに見回りの先生の目を盗むか……という一点に終始しました。
 そこで採用されたのが、教室の周囲の廊下のあちこちに見張りの人間を置いておくという人海戦術です。いつでも教室の電気がつけられるよう、スイッチのある場所にクラスで一番ノッポの男子生徒を張りつけておき、廊下にいる監視要員が絶えず周囲に目を配ります。先生がやってきたら、『忍者部隊 月光』風のブロックサインで知らせ、スイッチ係が明かりをつけるのです。その時、中に入っているお客さんはシラけてしまうのですが、そればかりはどうにもなりませんでした。
 そんな具合で丸二週間、ワタシたちはオバケ屋敷を地下営業し続けました。出口に用意しておいたアンケートを見る限り、評判はかなりのものでした。それを見ながら、みんながニヤニヤ笑いをしていたのは言うまでもありません。
 こうして思い出してみると、たかがオバケ屋敷かも知れませんが、クラスの結束がバッチリ固まっていたのは紛れもない事実です。ですからワタシは今も高校時代というと、この二年生の時のクラスを真っ先に思い出すのです。その意味ではA先生のご判断は本当にすばらしく、正しいものだったと言えるでしょう。ここ十数年もお会いしていませんが、もし再会できるチャンスがあったなら、改めてお礼を言わなければならないでしょう。その際には、始末に困った裸女マネキン(オバケメイク付き)を、先生の仕事場である地学室に卒業直前迄放置していた件についても、お詫びをしなければなりますまい。

〔ここで担当編集者のS氏登場〕
「シュカワさん、一ヶ月半も同じ話を引っ張ったんで、もう文化祭シーズンも終わっちゃいましたよ」
「そうでしょうかね……でも、どこかの学校では、まだやっているかも知れませんよ」
「どこかって、たとえばどこですか」
「北の方の、寒いトコロ」
「桜と一緒にしないでください。北国の人に失礼です」
「スミマセン、新幹線で東京から三時間足らずですもんね」
「東北新幹線、スゴイですよね……アレ、何かヘンじゃないですか? 何で新幹線の話になるんです?」
「実は、この原稿を東北新幹線の中で書いているからです」
「取材に出るギリギリまで、終わらなかったんですね」
「正解と書いてピンポンと読む」
「本気と書いてマジと読む」
「豚肉と書いてブタニクと読む」
「普通じゃん」
朱川湊人(しゅかわ・みなと)プロフィール
1963年1月7日大阪府大阪市生まれ。81年東京都立淵江高等学校卒業。86年慶応義塾大学文学部国文学科卒業。出版社勤務を経て文筆業に。平成14年「フクロウ男」(『都市伝説セピア』文藝春秋刊=第130回直木賞候補所収)で第41回オール讀物新人賞を受賞し、デビュー。平成15年には「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞、平成17年に「花まんま」で第133回直木賞を受賞した。他の著書に『さよならの空』(角川書店)、『かたみ歌』(新潮社)がある。