みそずい〜ミソジのつぶやきレター
大久保佳代子さま

 前略 ご忠告ありがとうございます。大丈夫です。アナタもご存知のとおり、私はコンピューターが苦手なので、ネットサーフィンとやらをしたことないので。自分の名前で検索、などといった行動はしていないので。わざわざ「見ちゃ駄目だからね。見たら死んじゃうかもよ」と書くアナタって……なんてゆうのか……悪意がいっぱいこもってて……お前が私の悪口ばかり書き込んでるんだろう!
 あ、ついつい。いかん。私、いい子キャンペーン中だった。性格の悪さに性格の悪さで対抗していたら何も生まないって、この間、反省したばかりでした。では、あらためて……。
 前略、私は相当なアナログ人間です。私からしたら「ブラインドタッチできるんだよね」と言っている大久保さんなんて、雲の上の存在ですよ。ニュータイプですよ。そんな大久保さんですら、会社についてゆけないなんて。私の場合、パソコンは原稿を書く、送る、友達から送られてきたメールを読む、以外ほとんど使いません。原稿を送るのは、編集者さんに書いてもらった「送り方 (絵入り)」の紙を見て頑張っているぐらいです。ま、インターネットとやらも、できるっちゃあできるんですが、何だか怖くて使えません。
 パソコンが普及し始めた頃の売り文句覚えてます? 「パソコンって何でもできるんだって」を。私、いまだに「何でもできる神話」を信じちゃってるんですね。映画や小説に出てくるような電脳な人たちがいるんじゃないかって。私がインターネットで、あるサイトを開くじゃないですか。それだけで、私の個人情報が全てバレて、翌日、すべての貯金が下ろされてた、とか。ドクロマークが出てきて、それを押したら、どこぞの国に核爆弾が飛んでった、とか。あるんじゃないかって。しょせん映画の話とか思うかもしれないけど、ハリウッド映画って、政府が言えないことを暗に示唆してるって言うじゃないですか? 宇宙モノが多いときって、実は、宇宙人がNASAに何らかのコンタクトとってきてるときだって……。
 だから私、インターネットはほとんどやらないんです。やったとしても、いつもお決まりの2、3のお部屋に伺うだけです。なのに、この間、ウィルスに侵されたんですよ。どういうことでしょう? いつものように紙を見ながら編集者さんに原稿を送ると、エラーの表示が出るんです。おかしいなあ、と思っていたら編集者さんから電話があって、「光浦さんのパソコン、ウィルスに侵されてますわ。ウチのパソコンが拒否ってます」ですと。
 なんでよ?ですよ。ウィルスって言葉は知ってたけど、何のことやら分かりませんよ、でもウィルスでしょ? 風邪と一緒でしょ? だからウチの子は外で遊ばせなかったんです。家から出さない、無菌状態で暮らさせていたんです。なのに、なんでウィルスよ? 誰からもらってきたのよ?ですよ。
すぐに編集者さんと、その友人のパソコンオタクが家に来てくれて、何やかや調べてくれました。彼らは、日本語なのに全く理解できないカタカナ語を使い話し合っていました。私は「すいませんねえ」と言ってお茶を出すことしかできませんでした。原因を調べるのにサーチとやらにかけているが、それには時間がかかる、ということで、途中で飲み屋に行きました。私は何も分からないし、わざわざ来てもらっている身なので、ノーとは言えません。近所の飲み屋に行きました。
 しかし、飲み屋から戻っても原因は分かりませんでした。ほろ酔いの編集者さんは「助けを呼ぼう」と、今度はパソコン博士とパソコンマニアと普通の友達を呼び出しました。そして、パソコンを肴に、私の家で宴会が始まりました。「はじめまして」な人たちばかりです。が、みんな私のパソコンのために集まってくれたのです。たとえ明日の仕事が早くても「もう帰って」とは言えません。だいぶ夜もふけ、買ってきたビールも尽きた頃、結論がでました。「新しいやつ買いましょう」と。
 その後、普通の飲み会になりました。人のために何かできるって、本当に優しい人たちですね。初めは少々うっとうしく感じていたのですが、いい人たちばかりだったので、すっかり仲良くなりました。仲良くなったらいろんなことを言われました。「今時ダイヤルアップって」「容量少なすぎ」「古すぎ」「遅すぎ」「重すぎ」「暗すぎ」「使えない」……。
 この手紙は新しいノートパソコンで書いています。画面が大きくて、明るくて、しかも軽い、というスグレモノです。立ち上がりも早いです。でも、ダイヤルアップです。今ゲームにハマってます。「スパイダソリティア」というカードゲームです。「これ面白いよねぇ」と人に言ったら「オジさんしかやらないゲームだよ」と言われました。

 私は時代に取り残されたようです。再就職ができない身になっているようです。やばいです。なんとしてでも今の仕事にしがみついていなければ。ま、結婚できれば話は変わるんでしょうが……。
 大久保さん、その後ITとはどうなりました? 嫁には行けそうですか?
 ITというのは、本当にそんなに儲かるんですかねえ? 私は公務員の長女として生まれ、石橋はたたいて、たたいて、大丈夫だと確認してから、人が何人も通るのを見てから、渡るかどうか考えろ、というザ・守りの教育を受けてきたので、「韓国料理は韓国行って食べましょう」なんて言われたら、逆に引きますね。うまい話はまず疑え、光浦家の家訓を思い出します。私だったら、あ……そんなことありませんでした。
 思い出しました。私は、分かりやすい優しさにすぐ釣られる女でした。王子様的発言、行動をしてくれる男性をすぐ好きになってしまう女でした。
 私が最近、KABA.ちゃん、坂本ちゃんをはじめとする、少女的おっさんらとツルんでいるのは知ってるでしょう? ほぼ毎日、誰かとご飯をしています。7,8人でお鍋をすることもあれば、2,3人で外食をしたり。週1でパジャマパーティーです。昨日も私の家でタイスキをしました。彼ら、いや、彼女らは、本当に面白く、明るく、優しく、私はこのまま独り身であっても、彼女らとこうして集まっていられればいいや、仮想家族の中にいられればいいや、そう思うようになっていました。確かに、たちの悪い部分もあります。生理の女以上にご機嫌斜めであったりもします。しかし、やっぱり男であって、最後は冷静に、理性で物事を対処します。女の心に男の脳です。そこが、女の友達にはない、男の友達にもない、私にとって絶妙の居心地の良さを提供してくれるのです。お互いを「ブス」「オカマ」と呼び合います。「傷をなめあって生きてゆこうね」が合言葉です。
 私が風邪をひいているときでした。その日はいつものメンバーでカニスキの日でしたが、私は「熱があるので行けない」と断りの電話をいれました。ほとんどのオカマが「そうよ。うつさないでよね」という返事でした。しかし、1人のオカマがわざわざ私の様子を見に来てくれたのです。「ブス子大丈夫?」と。飲み物と、果物、ケーキを持って。そして、家にあったであろう使いかけの、賞味期限ギリギリのそばとうどんを持って。
「食べてないんでしょう? これは、このつゆで、とろろこんぶのせて。で、こっちはこの薬味で……」
 私は東京に来てから16年、一度も人に見舞ってもらったことはありませんでした。猫が死に場所を探すように、風邪をひいた時は、誰にも言わず一人でひっそりと治るまで隠れているだけでした。涙が出てきました。「お母さんの次に優しい」と。
 仕事の忙しさと体調の悪さで、部屋は汚れ放題でした。「まあ、汚い」と、オカマは掃除までしてくれました。そしてオカマは気づきました。「何コレ?」と。それは組み立て式の家具でした。買ったはいいものの、一人で組み立てることのできないスチール棚でした。オカマは何も言わず、シャツを脱ぎTシャツになると、黙々と組み立て始めました。それを見て、私はまた涙ぐんでしまいました。「お母さんよりも優しい」と。
 何か手伝わなきゃ、と近づいたとき、私は見てはいけないモノを見てしまったのでした。彼の二の腕の筋肉でした。「お、お、お、男だぁ」
私はパニクリました。私が彼に感じているのは、お母さん的優しさ? それとも、彼氏的優しさ? 彼は男のルックスをしていますが、女です。仲のよい女友達です。風邪で弱った私は何を求めていたんでしょう? 私はルールを犯そうとしていました。正直、恋心を抱こうとしていました。
 優しさに飢えすぎなんでしょうか? 優しいオカマに恋するとこでした。つーか、今、片思いの対象すらいないので、こんなことになっております。ITの「焼肉行こう」に、おぼこのフリをしたら好感いいかしら?と計算する余裕がある大久保さんは、正常です。本当に正常です。正しいです。積年の恨みがあって、何かと大久保さんにはケチをつけてしまいますが、私は大久保さんには何も言える立場ではありません。同じ土地で育ち、同じ友達を持ち、同じブスである私たちは、少しずつ、違う方向へ向かっているようですね。次回のお手紙、楽しみに待ってます。
草々 光浦靖子